びっくりの注意書き
『ランチョンの防具一式
迷宮産。呪われているので、安易な着用は避けること。全部を着込むと効果と呪いが発動する。着脱は自由にできる。
セット効果:ダメージ蓄積(受けたダメージを溜め込み、一時的な無敵時間に変換する)破壊(無敵中に使った武器が必ず全壊する)
呪い効果:人格変更(着脱ごとにランダム)』
迷宮産でした。
ゲームっぽいな、ゲージを溜めたら無敵って。代償がでかいけど。どれぐらいでゲージが溜まるのか知らないけど、複数の武器を用意しておかないといけない。魔法鞄必須だな。あ、拳で戦えばいいんじゃね? 立派な鎧一式で殴る蹴るとか、ちょっと似合わないけど。流石に拳は武器扱いされないよな? うん? ガントレットで殴ったらガントレットが全壊するのか?
まぁ、俺たちが使うわけじゃないからいいや。
呪いは微妙だな。むしろ破壊のほうが痛い気がする。いやでも、ウザい人格とかになったらパーティーの雰囲気悪くなりそうだ。一人で突っ込んでいくとか、臆病になるとか…。あ、結構困るな。ソロなら使えそうかな。
「ふむ。迷宮品だな、これは」
しゃがんでいたギルド長が立ち上がった。
「分かるんですか?」
「接合部分とか見るとな。迷宮品はよくわからん技術が使われている。材質にしても謎のことが多いし。迷宮品なら仕様書があるはずだが」
顎をさするギルド長に、あることを思い出した。
「この中にあるかも!」
ばさっと片付けのときに突っ込んだ紙類を取り出す。書面を確認していないものは、ひとまとめに「紙束」となっていたので出しやすい。いやぁ、仕舞うときに一枚一枚確認してたら、全部リストに載るところだった。
みんなで手分けして探す。個人情報っぽいのもあるが、依頼主には了解を取った。買い物メモとかまで残しておかなくていいと思うんだ。
「このあと、鎧どうなるんですか?」
探しながら、ギルド長に聞いてみる。
「そうだなぁ。実害がないなら奥さんが持っていても問題はない。売ると言うならギルドで買い取ることもできるぞ」
「呪われてるのに?」
「即死系の呪いとかだったら、即解呪または破壊コース、あとは魔法鞄に死蔵なんてケースもある。まぁ、そこまで極悪な呪いのものはあまり聞いたことがないな。特に迷宮品は、メリット・デメリットがあるというだけで、普通に持ってるやつもいるぞ。わしも持ってた」
「そうなの!?」
思わずギルド長の顔を見ると、ニヤッと笑った。
「移動系の道具だよ。全魔力を食われるが、前日いた場所に跳べる。魔物に囲まれてどうしようもなくなったときとかに使えるんだが、10日ほど全身筋肉痛で寝込むという呪いが発動する」
「うわぁ…」
「命には代えられんが、これがまた激痛でな。魔力欠乏もつらいし、飯もろくに食えなくなる。なぜだかポーション類も効かんしな。ま、5回は使ったがあれは慣れんかったなぁ」
たしかに命には代えられないけど、5回も使うとかどうなのさ。というかピンチに陥り過ぎじゃない? どれだけ突っ込んでいってるんだ。…あれ?
「それ跳ぶのパーティーごとですか?」
「いや、持ってるやつだけだ。おっと、見捨てたとかそういう話じゃないぞ。わしは基本ソロで動いてたからな。まぁ、若気の至りというやつだ。流石に堪えるんで他のやつに売ったわ」
ハハハと陽気に笑うギルド長。ということは誰かがそれを持ってるのか。お守り代わりと考えれば、ソロには有用なのかな。というか、ソロ向きが多いのはなんでだ。
「あ、あったぞレイト」
会話に夢中になってる間に、コクシンが仕様書を見つけてくれた。どれどれとみんなで覗き込み、うわぁとみんなで引いた。仕様書には持ち主だったらしい人物のメモ書きがくっついていた。
『くれぐれも着用は恋人や結婚相手の前では控えること。心にもない言葉を吐くので、注意。俺は妻と何度か喧嘩をし、今日とうとう離縁されてしまった。二度と着ないと誓ったが、無駄だったよ。息子よ。一応売らずにお前への贈り物とするが、周りに迷惑をかけんようにな。防御力はピカイチだぞ! ちなみに一度着込むと、脱いでも一日その人格が継続するので、街に入る前に脱いで外で一泊がおすすめだぞ。あ、妙に女受けがいい人格のせいで、実はお前には4人ほど兄弟がいるが気にするな。』
最後に爆弾発言付きの注意書きだった。
「えーと、うん。これ、誰宛なんだろうね?」
依頼主の女性は心当たりがないようだったけど、身内に冒険者をやっていた男性がいたんだろうか。簡単に考えれば物を詰め込んだ依頼主の父親が“息子”ってことで、祖父のものってことかな。
とりあえず置いておく分には問題なしということで、依頼主の女性を呼んできて事情を説明する。
「うーん、そういえばお祖母様がお祖父様の話になると機嫌が悪くなっていたわ。父の話ではどこかの騎士だか護衛だかだったそうだけど。この鎧の話は聞いたことがないなぁ」
少し考えて彼女はそんなふうに答えた。なるほど。冒険者じゃなかったんだな。そういえば日記とかあったから、その中になにか書かれてるかもしれない。
「それでこれ、どうしますか?」
「うーん。うちに置いておいても使わないし、影響はないと言ってもねぇ。引き取っていただけます?」
「分かりました」
ということで、俺の魔法鞄にまた仕舞っとくことになった。後でギルド所有の魔法鞄に移し替える予定だ。詳しく調べて適正価格を割り出し、後日払われることになった。買い手がいるんだろうか。
紙束や日記と思われるものは全部女性に渡し、仕分けをしてもらい処分は任せる。壊れた鍋とかは回収、売ったお金は俺たちのものになる。本はお子様用に置いておく。ラダ残念。その他一応確認しつつ魔法鞄の中身を整理する。ほとんど引き取りでいいみたいだ。
「では、これらはこちらで処分しますね。あとは、肝心の掃除ですね。終わったらまた声かけます」
「あら、私もやるわよ」
「あ、そうでしたね。じゃあお願いします」
まぁ蔵の中はガランとしている。棚だけが残っている状態だったが、彼女の要望で棚も撤去することになった。木製で古びているので、バラして庭で燃やしてしまう。
ちなみにギルド長は整理を始めたあたりで、仕事だとため息をつきつつ冒険者ギルドに戻っていった。
窓を開け、ホコリを落とし、掃き出し、拭き清める。しつこい汚れはなかったので、掃除自体はテキパキと終わった。思ったよりきれいな仕上がりである。
「ありがとうね! 想像より広いわね。子供の遊び場にと思ってたけど、ちょっとしたお店が開けちゃいそう」
依頼主の女性も満足そうだ。
「いいですね。建物自体はしっかりしてるみたいだし」
蔵は雨漏りもしていないし、壁も土台も頑丈だ。窓が換気用の小さなものしかないのが難点だが。ちょっとリノベーションしたら、いい感じのカフェにでもなるんじゃなかろうか。
終了のサインをもらい、渡し忘れがないかチェックしてから蔵をあとにする。手伝ってもらったし、蔵の中身をもらったので満額でなくていいと言ったのだが、早く済んだし呪いのこともわかったから…と元々の金額そのままもらえることになった。まぁ確かに魔法鞄を使わなかったら呪われてるって分からなくて、普通に売られてたかもしれない。
「あー、地味に疲れたねぇ」
腰をとんとんしつつ、通りを歩く。今日はまだこのあと用事が詰まっている。昼ご飯は向こうで出してもらえたが、なにか軽く食べてから行こうかな。
「あ、レイト。蜘蛛の巣付いてるよ」
隣を歩いていたラダが、ひょいっと俺の髪の毛に手を伸ばしてきた。ほら、と、わざわざ白っぽい糸を指で摘んで見せてくれる。
「うぇぇ。蜘蛛はついてないだろうな」
「んー。大丈夫だと思うけど」
マスクはしてたし、手や顔は終わったあとに洗ったんだけどな。布でも巻いとけばよかった。うーん。ヘルメット、いや、帽子かぁ。まぁ今更か。まさか全身防護服みたいなので活動するわけにもいかない。きりがないしな。防具としてはいずれ必要なんだろうけど、これ以上装備すると地味に動きづらい。
「あっ! ていうか、僕は大丈夫っ!?」
ラダが頭を下げて頭頂部を見せてくる。「私も」と反対隣でコクシンも頭部を見せてきた。
いやちょっと。俺がなにか謝らせてるみたいな構図になってるんですけど! 見た目幼児に左右で腰を折って頭を下げてるとか、何事だと思われるだろうが! 大きいの二人で見せ合いっこしてろよ。
「あ。蜘蛛いた」
コクシンの金髪に小さい蜘蛛が巣ごと引っ掛かっていた。摘んでそっと取り除く。と、俺の指をコクシンがペシッとはたいた。地面に落ちた蜘蛛をムギュッと踏みつける。
「…コクシン?」
「あ、すまない。痛かったか?」
「いや、大丈夫だけど。蜘蛛嫌いなの?」
「………いや」
嫌いなのか。言えばいいのに。背が高いからって、蜘蛛の巣払うの頼んじゃったよ。まぁでも、森に行けば蜘蛛も蜘蛛の魔物もいるから、こればっかりはね…。




