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探偵小説の創作 〜ミステリーを書く時に心掛けていること〜  作者: Kan
第四部 ミステリーにおける諸問題
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6 足跡から考える推理・捜査の基本形

 自明のことのようで、案外忘れがちなのが、犯罪事件の捜査と推理の基本は「犯人の思考・行動(行為)の再現」だということです。


 その上、やはり「真相に導く手がかり」のもっとも基本形は「足跡」だと言えるのです。

 足跡から犯人の足のサイズが分かるのは当然ですが、それだけの単純な科学捜査で犯人が特定できるとしたら、推理の入り込む余地がありません。推理すべきものとして、最重要なのが「犯人の事件当日の行動(行為)と思考」です。


 以下、ふたつの例です。


 現場に残された犯人の足跡が、なにかに驚いて急に木陰へと走り出したものだったとしたら、そのタイミングで現場に人が現れたということが仮説として成り立ちます。見回りの警備員さんが通りがかった時に犯人がその場にいたということがわかり、犯行時刻がより明確化されることになりました。

 あるいは、犯人の足跡が、マイケル・ジャクソンのビリー・ジーンの飛ぶようにスキップするステップを刻んでいたとしたら、犯人はマイケル・ジャクソンのファンだったということがわかります。

 こうしたことから浮かび上がってくるのが「犯人像」というものです。


 現場の痕跡から、犯人の心理状態や性格を特定して、容疑者の特徴と照らし合わせる方法を、ヴァン・ダインは心理的探偵法と呼び、物的な科学捜査に対抗する、新しいものとして提唱しました。その最たるものが「カナリヤ殺人事件」のポーカー勝負なのですが、それ以外にもさまざまな心理的推理が登場してきます。

 しかしこのような心理的探偵法は、ガボリオの「ルコック探偵」で、すでに登場してきている足跡捜査と本質的には変わりません。(1869年発表「ルコック探偵」)

 それどころか、もっとも単純で、世上にありふれている推理、「被害者の財布を盗まれていないから、犯人は物取りじゃない論」がすでにこの心理的探偵法と寸分、違いないものなのです。


 現場に残された痕跡から「犯人の当日の思考・行動」を再現し「犯人像」を浮き彫りすることは、捜査の基本形だと理解してください。


 繰り返しになりますが、捜査・推理は基本的に「犯人の当日の行動・思考」を中心に展開します。殺人予告状なども「犯人はどうしてこんなものを送りつけてきたのか?」を主軸に推理が始まります。それは「犯人の行動・思考」を再現しようとしている探偵行為に他なりません。


 捜査は現場から離れてはなりません。事件当日のことから離れることはやはり、真相から遠ざかることでしょう。しかし、ついつい鉄道に乗って、旅情を楽しんでしまうのが探偵というものであり、刑事というものなのです。過去の動機を知ろうなどと言って、温泉旅館に泊まり、何十年も前に被害者や容疑者が産まれた時の話などを聞きたがります。「なるほど。彼はそういう複雑な生まれだったのか。してみると犯行動機は十分だな……」と思うわけです。

 しかしながら、そうであっても、捜査・推理の基本形というか、真相解決の近道として最重要なのは、「事件当日の犯人の行動・思考の再現であること」を、いつなんどきも、忘れてはならぬのです。


 たとえば「犯人は僧侶かと思ったが、本当は武士だった」という錯誤の真相の場合なら、犯人は「武士らしい行動・思考」を事件当日にとらねばならないのです。たとえば武士は帯刀しています。これはとても大切なものです。この刀は左の腰にささっています。この刀の先が触れて、障子を一枚破いてしまった、としたらどうでしょうか。探偵役は、破れた障子を見ることで、これが刀の先で突き破ってしまったものだと推理して、武士が犯人だと見抜くことができました。ここで重要なのは「事件当日、またはその前後に、犯人は多めに思考し、行動をとる必要がある」ということです。

 これがもっとも肝心なことです。ロジカルな物語を書こうとしたら、犯人に事件当日、多めに行動させることなのです。

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