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無料で報復?  作者: ねこまんまときみどりのことり


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断罪 その2

 ブルニュストとマーガレット、ガルシアは国王の権限で秘密裏に捕らえられ、3人纏めて王城地下牢に幽閉されていた。



 ガルシアのことはラルバスの密偵も、消息を追えず手をこまねいていた。ハッキリしたことが分からず、ガイスにも連絡が取れないラルバス。


 ガルシアの記録は、拘留から解放したことにされていた。実際には捕らえたままだが、ガルシアに変装した派手な女が城から出され、隣国行きの船に乗ったところまでが確認されていた。その傍らには親密そうな男がおり、部屋も一緒だったことから接触はされなかったと言う。


 密偵の報告に、ガイスは調査の終了を告げた。


「もう探さずとも良い。作戦を失敗し俺からの叱責を恐れて逃げたのだろう。あれにはまだ利用価値があるから、今は放っておく。あれにはジャスミラン国しか戻る場所はないのだから」



 彼女への深い追求の手は及ばなかった。

 ガイスにとって、ソフィーナリ国のことはついでだ。

 こちらに損害がなければ、それで良いのだ。



 ソフィーナリ国の第二側妃アザミは、クロッカスを抱いて震えていた。罪を暴かれ罰せられると疑心暗鬼に陥って。


「私は何もしらないわ。全部ガルシアがやったことよ。私は知らないの」


「母上、どうしたのですか? ガルシアとは誰なのですか?」


「知らないわ、そんな人。貴方も誰にも話しては駄目よ。良いわね」


「う、うん。分かりました……母上」



 恐怖に怯え精神的に疲弊していくアザミと、母の変化に怯えと不安を覚えながら傍にいるクロッカス。

 罰せられることはないが、薄氷の上を踞るような怯えが続き、飲まず食わず眠らずで痩せていった。

 他国出身の彼らには侍女とメイド、護衛が少数いるだけだった。


「母上……僕は王位なんていりません。だから早く元気になって下さい。なにか罪を犯したのなら、どうか神父に懺悔をして楽になって。……死なないで………」



 成長することで、裁かれはせずとも母親の罪を何となく知れたクロッカス。


 アザミは衰弱したまま寝付き、自分では体を自由に動かせなくなっていた。時おりクロッカスの顔を見て「ごめんなさい」と微かに呟くばかりだ。


 彼女はクロッカスまで罰せられないように、沈黙のまま死を受け入れることを選んだ。


 クロッカスはたとえ連座になっても、母親と共にいたいと考えていた。母親の野心は知っていたが、それ以上に自分のことを愛していてくれたのも分かっていたからだ。





 アザミに次期国王と煽てられ、無邪気に喜んでいた彼はもういない。今の彼はもう、自身の出来る償いを考えながら、国王の命令を粛々と受け入れていく。

 数年後はこの国益の為に、貴族家に婿に行くだろう。

 彼は今、悲しみを乗り越えながら懸命に学び直しを始めていた。その努力は無駄にはならない筈だ。





 そしてグラナディフェン侯爵家はレアナが継承の儀を行い、ブルニュストは先代の侯爵となった。

 その上で侯爵家から籍を抜かれたのだ。勿論マーガレットももうグラナディフェン侯爵家とは無関係となった。


 記録上はブルニュストの病気療養の為に、夫婦で遠方の施設に移ったことになり、レアナの後援にはファイアルが付いた。

 ダグラスとの偽装結婚の際は侯爵位をファイアルに戻した為、今はファイアルが当主である。



 ブルニュストの除籍は、教会が秘密裏に関わっている。レアナにスキルを与えた神官アンディーブの弟子ミモネが、国王とアンに忠誠を誓い処理してる。


 彼ら(ブルニュスト夫婦)の両親達はレアナが家督を継いだグラナディフェン侯爵家から優遇されなくなったことで、すっかり興味をなくしていた。

 療養先を尋ねる連絡もないのは、回復したレアナからの報復を恐れていたこともあるのだろう。


 手を下さずとも、レアナが冷遇されたことは知っていた筈だから。





◇◇◇

 牢の中でガルシアは、ブルニュストが自分を切り捨てて裏切ろうとしたことを恨んでいた。


 結局のところ、レアナの母であるアヴィラの死を目論んだのはガルシアではない。


 ブルニュストが手にいれた毒はマーガレット経由なので、彼女の故国から送って貰ったものが、たまたまガルシアの毒だっただけで。




 牢は20畳はあるものの、床は土が固められただけで虫も蔓延り湿気でカビ臭い。

 一応ベッドはあるものの、毛布は埃っぽく寝台は一枚板で作られていた。シーツはなく、所々で樹液が浮いてベタついている。

 釘が武器にならぬ工夫だろう。元々ここは長期間いる場所ではないのだ。



「ブルニュスト。貴方裏切ろうとしたわよね」


「仕方ないだろ、あの場合。誰かが残らないと助けに行けないと思ったんだよ」


「助けるつもりだったの? 本当に?」


「ああ、本当さ。でも済まないね、結局こうなっちまった。許してくれるか?」


「ええ。助けようと思ったのなら……良いわ。許してあげる」


 そんな二人は盛り上がり、接吻を重ねていた。

 見かねてマーガレットが声をあげた。


「こんなところで、盛るつもりじゃないでしょうね。もう、最悪最悪最悪よ。役立たずの医者に頼りない夫のせいで、私までこんな場所に入れられたのだから。ああ、お父様。早く迎えに来てよ。え~ん」


「煩いわよ、ブス女。あんたは隅っこで小さくなってなさいな。私とブルニュストの邪魔にならないように!」


「何よ。あんたなんか愛人の癖に。ババアが煩いのよ」


「何よ、やる気!」



 やることがなくてすぐ喧嘩になる3人。

 時には女同士、男女で殴りあい、時に監視の前で性的な行為に耽るブルニュストとガルシア。


 最早獣のような有り様だった。



 ガルシアは魔力が使えなくとも、血液は毒である。いつかその気になれば………………。






◇◇◇

 ただ死を待つだけだったレアナは、無料で報復が完了した。

 嬉しさはなく、ただただ虚しいだけだった。




 義妹のリンディは………………。


 ブルニュストとマーガレットに愛されていた彼女だが、彼らがいなくなった彼女に手を差し出す者はいなかった。


 レアナも突き放した。


 元よりあまり関わった記憶がなく、寿命がいつ尽きるかもしれない自分には、責任が取れないと言う理由もあった。祖父に任せること等、尚更考えられない。


 今ならば、修道院への寄付くらいなら行うつもりだ。



「私を見捨てるの、お姉様? どうしてですか?」


「どうしてかしらね。他人としか思えないからかしら?」


「酷いわ。もう傍には、お父様もお母様もいないのに」


「……二人のところに行きたいの?」


「そんな訳ないでしょ! 温泉しかない山奥の療養所なんて、嫌。ここで暮らしたいだけよ」


「それは駄目よ。私はアン王女の侍女になり、邸はお祖父様が住みます。贅沢ばかりで勉強もしない貴女を置いてはいけないの。それにお父様は除籍され貴女は平民になったから、貴族ではないもの」


「どうして除籍なんて……。嘘よ」


「嘘だと思うの? 本来なら貴女と私は他人になったから、追い出しても構わないのよ。特にお祖父様と貴女は血の繋がりもないしね。出ていくか、修道院に行くか。選ぶと良いわ」


「そんなぁ………………」




 ブルニュストが地下牢に入って2年後。

 本格的に王宮で暮らすことになり、邸を出ることになったレアナ。


 記録上では、ブルニュストとマーガレットは病死したことになっていた。公には彼らより、「不調により貴族活動は出来ないので、籍を抜いてゆっくりしたい」との理由だったが、地下牢に入る前に処理は行われていた。

 リンディが詳しい日付を見ることはなく、調べたとしてもただ驚くだけだろう。


 両親が不在の2年でも彼女は我が儘放題で、レアナの忠告も聞かず今回のこととなった。



 黒髪で美しい従者となったハルに、ちょっかいをかけて来るのも嫌だった。彼はジャスミンの大事な弟なのだ。リンディの我が儘に、彼を振り回すことなど許せない。

 8歳年下(当時10歳)のハルは懸命に仕事を覚え、レアナのサポートをしようとしていた。彼を守る為に傍に置いたが、仕事等しなくても良かったのに。


 彼は総入れ換えした後の邸の者と仲良くし、仕事の傍ら勉強も教えて貰っていた。平民の学校へ行く手続きを取ろうとしても、レアナを一人に出来ないと言って、断られてしまう。


「レアナ様は放っておくと無理しそうだから、俺が見張ってる。何回も言うけど、姉ちゃんのことは大丈夫だからね」


「ありがとう。ハルは優しいね」



 レアナに頬をなでられ、顔を朱に染めるハルを周囲は暖かく見守る。使用人達はアンの配下であり、信頼できる者ばかりだ。彼の姉がレアナの命の恩人だと、仄めかされて伝わっていることで、みんながハルに対して寛容な態度だった。



 そんな感じでハルは、ずっとレアナと共に生きてきたのだ。





◇◇◇

 レアナは長くアンに尽くしてきた。

 18歳から仕え、28歳の10年間を走り抜いた。


 ジャスミンの意識はまだ戻らないが、脈は強く打ち呼吸も整っていると報告を受けた。



「もう少しで生き返ることでしょう。よく頑張られましたね」


 アンディーブの弟子で神官ミモネが、神託を受けたと言う。



「ミモネ様、ありがとうございます。やっと彼女をハルに返してあげられます」


「おめでとうございます。貴女の治療時間も少し増やしましょうね」


「私は…………。そうですね、ジャスミンともう少し一緒にいたいです」


「ええ。長くお待ちになりましたものね。私もお師匠様の気配を感じ、毎日幸せで御座いました」



 礼をして去って行くミモネ。

 彼女の笑みは本物だった。


 肉体を失っても、気配を感じるだけで嬉しい。

 そんなこともあるのかも知れない。



「私は感じなくとも、お母様も心配していたのかしら」



 呟く彼女の頬に、最近暖かになった風が撫でた。それが答えのような気がして、少しだけ楽しくなった。


 お母様には愛されていた。

 それはきっと事実なのだ。









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