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無料で報復?  作者: ねこまんまときみどりのことり


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17/22

目覚めた王女アン

 ガルシアがアンに用いたのは、とても強い毒だった。


 王族は毒殺される可能性が多い為に、幼い時から毒耐性をつける訓練を受ける。


 稀に王族から嫁いだ妻が不妊で、側妃に子供を生ませたり、縁戚から養子を迎えることもあるが、毒耐性をつける際に卵巣や子宮などに損傷が生じた可能性が強かった。


 それ程に危険な訓練ではあるものの、この国のように第一子の継承権が優先される場合、生き残る為には避けて通れないものだった。



 アンは確かに毒耐性を身に付けていた。

 けれど禍々しい魔力が付与された毒に対しては、普通の毒耐性では半減以下の効果しか得られなかった。


 それでも……何も訓練していない状態ならば、確実に死を迎えたことだろう。

 たとえ意識を失っても、夢まで悪夢で満たされる酷い薬効。精神が負ければ肉体も耐えられずに死を迎える。



 アンは何度も何度も、肉親の顔をした幻に「疎ましい娘、死ねば良いのに」「誰もお前を愛していない。孤独のまま絶望して消え失せろ!」等と傷付けられていた。


 両親を愛するアンにとっては、想像を絶する苦しさだった。

 けれどそれらはガルシアが言われ続けて来たことなので、リアリティーが半端なく強いのだ。一朝一夕では幻を打ち破れない。



 それでもアンは自分の愛された記憶を辿りながら、幻と戦い続けた。




◇◇◇

 血清の効果で次第に心身が癒えていき、ある朝アンは目覚めた。


「長い夢を、悪夢みたいなものを見続けていたわ。でも私は負けなかった。それが答えね。バリバリ国を立て直すわよ!」


「あぁ……嘘っ、良かった。アン様、良かったです」


「心配をかけたわね、ライム。私はもう大丈夫よ」




 嗚咽するライムと、それを見て静かに頷く国王ザリュス。アンは父親の心配している眼差しを見て、夢と違うことに安堵し、微笑みながらも一筋の涙を溢した。



 傍らにはレアナとジャスミンの弟ハルも待機しており、深く頭を下げていた。


「ありがとう。私が生きているのは、貴女のお陰ね」

「勿体ないお言葉でございます」



 レアナは慇懃に答え、ハルは頭を下げ続けた。

 

 その後にアンから自己紹介をし、二人も名乗りをしたのだ。


 数日をかけて少しずつ打ち解け、会話を重ねていくアンとレアナ達。本来ハルは王宮には入れない身分であるが、レアナと共に行動することを許されたことで、アンに話しかけることも特別に許された。



「王女様、優しいな。レアナ様は昔から仲良いのか?」


「いいえ。私はずっと寝たきりだったから、今回が初めてのお目通りよ」


「ふーん、そうなんだ。レアナ様も大変だったな」


「そうね。でもジャスミンがいたから、頑張れたわ。待っててね。絶対に回復させるから」


「……うん。でもさ、姉ちゃんがこうなったのは、レアナ様のせいじゃないよ。だから無理しないでね」


「ありがとう。優しいのね、ハルは」


「そんなことないよ…………」




 ハルは親戚の家から、レアナに引き取られた。迎えはレアナとライムが赴き、その馬車の中で状況を伝えたが、ハルは泣かなかった。


 王宮に戻り、安らかに眠るジャスミンを見てから、ハルは縋り付いて声をかけた。でも泣かなかった。


 王宮では大変な事が起こっていると分かり、敏い彼は自分だけが悲しんでいる場合ではないと悟ったのだ。


(姉ちゃんは、いつか復活することができるんだ。だから泣かないで待ってる)



 彼は心配よりも、希望を胸に抱いていた。





◇◇◇

 碌に栄養も取れずに痩せた体に驚くものの、気力だけは漲り、ガルシアを止める意思だけが強く高まっていく。


 アンの母は普通の毒で倒れ、生家の公爵家に戻って療養している。筆頭公爵家の武力は強く、様々な人間が入り込める王宮より安全だと考えた国王は、秘密裏に王妃を公爵家に依頼して治療を託したのだ。



 アン王女が毒から回復すれば、今度はより積極的な介入が入る可能性がある。


 それでも国王は「アン王女は病から無事に回復した。第一王位継承権は動かない」と発表したのだ。


 それでも……彼女(アン)の臓器は爛れ炎症が強く残っている。レアナの血液から作られた血清で呪いの魔力を中和した上で、今度こそライチの神聖力を用いて回復を促していく予定だ。


 呪われた後の肉体の再生には、多くの時間がかかるだろう。レアナと同じように、ライチは体に悪い作用を及ぼす細胞の活動を停止させ、痛みを止めて動けるようにサポートを行う。

 そして短時間ずつ動きながら、周囲に健在をアピールしていくのだ。ふらつく前に撤退を繰り返しながら。




 複製のスキルを与えられたレアナを女官として傍に置き、王国で不足している物品(金貨、食物、石炭など)を補充していく。


 動物や人間などの魂のあるものは複製できない為、使用人や軍人を増やすことは出来ない。複製スキルだけでも過分であり、更なる神の領域には手を出せない仕組みのようだ。


 元より国王であるザリュスやアンも、そんな使い方を望んではいなかった。



 かつて国王ザリュスの老神官だったアンディーブは、ザリュスがまだ王太子であった際に、父である国王(先代国王)の復活を願ったことがあったが、無理だった。


 天寿を全うした魂は次の転生先に移動する為、留まる時間がないようだ。死は消滅ではなく再生へと続いていく。


 理由があり留まる精神体がいても、肉体と精神体には壁があり入り込むことは容易ではない。それこそ死の淵に立つ生と死の曖昧な肉体でなければ、精神体は入り込めないのだ。


 言い換えれば亡くなった者の体だけは複製は出来るが、それに意味はないだろう。




 レアナの働きで国の備蓄品として、貧困に悩む者達に複製された食料が炊き出しとして行き渡り、生きる活力を与えることができた。


 国の管理で金貨を増やし、秘密裏に国庫の維持を図ることにも成功した。


 先代国王が若くして亡くなり、ザリュスが国王として政治の表舞台に立った時、横領する重臣が多く溢れてしまった。それこそ国が横領に荷担した、ある公爵家に簒奪されそうな程に。

 


 絶望しそうな事態で悩んだ時、ザリュスは弱気になり父親の復活をアンディーブに願ってしまった。


 けれど答えは、神から降りた神託からだった。

「既にザリュスの父は違う生へと旅だった」


 ああ、もう本当に父はいないのだと諦めたザリュス。


 けれど神託は続き「自分で出来る範囲で頑張れば良い。政治も生き方も、人それぞれで正解はない」と。

 たとえ完璧に行ったとしても、命に終わりは来る。そして理不尽に命を奪われることもある。



 残念なことにザリュスの父親は、暗殺されたのだった。王位を狙うザリュスの妻の生家とは別の公爵家に。


 思えば混乱の内に神官となった、アンディーブの出自は曖昧だった。奇跡のスキルと強い神聖力を持つ彼は、思えばいつの間にかザリュスの隣にいて彼の心身を守っていた。


 これだけ優秀な神官であるのに、父親がいる時に彼に会ったことはなかった。



「私がここにいるのは、神のご意志なのです。寿命と引き換えに能力を発揮する力など、人の理を超えています。それはある意味罰のようなものです。前世の罪を償う為の」



 ザリュスが感謝する度に、アンディーブは恐れ多いことですと言う。きっと彼は憐れな自分へ神が与えてくれた天使なのだろう。そう思いかけていた。


 ずっと共に生きたことで、ザリュスはアンディーブが人間であることを知った。彼の前世の後悔とザリュスを手助けすることが、彼の贖罪なのだと。


 知った上でなお、互いに信頼しながら生きてきたのだ。



 アンディーブは命を使い果たし、ジャスミンが息を吹き返した時、輪廻の輪に戻る。彼女が復活するのには、まだ少し時間がかかるだろう。


 もうアンディーブの意識はなく、生命の維持を補助するエネルギー装置として在るだけだ。


 ザリュスと会話も出来ないし、気配もない。


 それでもそこに在るだけで、ザリュスの心を支えていた。


 一番辛い時の孤独な国王を支えたのは、間違いないアンディーブだった。


 王妃も王女も大切だが、彼の一番の支えは彼だた。兄のように父のように、時に友のように半世紀以上を生きてきたのだから。




 恐らくアンとライムの存在も同じだろう。

 ザリュスが知らない筆頭侍女ライムは、いつの間にかアンの隣にいて周囲に認められていた。


 ザリュスが彼女(ライム)の生家を調べたり、側近に尋ねようとした途端、頭に靄がかかり手が止まる。思考への介入がその答えなのだ。



「彼女もまた、アンディーブと似た境遇なのかもしれないな………………」


 

 この王国を支える第一子王位継承権の維持は、神から贖罪の機会を与えられた者とセットなのかもしれない。


 

 レアナの父であるブルニュストは、王位の簒奪に加わった公爵家に近い存在だ。レアナの母アヴァラの侯爵家は王家派であり、中立に立てる状況を作る目的の婚姻だった。


 ブルニュストの父親は侯爵家の寄子である伯爵家の者で、母親が件の公爵家の寄子貴族だった。


 ブルニュストは気付いていないが、マーガレットは公爵家の寄子貴族の娘である。目的は侯爵家の簒奪だったので、レアナが邪魔であった。




 軍事国家ジャスミランの国王ロベルの妹は、件の公爵家ミタディングの当主ラルバスの妻ビアンカで、マーガレットは彼女の従妹であった。


 ガルシアが侯爵家に訪れたのは、偶然ではなかったのだ。




 現在ガルシアは、レアナの国であるソフィーナリ国で拘留している。

 彼女の罪が明らかになった時、ロベル、ラルバスはどう動くのか。


 彼らは今、危険な立場に立たされている。








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