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無料で報復?  作者: ねこまんまときみどりのことり


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16/22

諦めない王女アン

 レアナは抱えられたまま、アン王女の自室へと案内された。



「アン様、レアナ嬢をお連れしました。お加減は如何ですか?」 


 ライムは寝台に横たわるアンに声をかけた。



 寝台からは呻き声だけが聞こえる。瞼は閉じられ意識はないように見える。


 室内には香が強く焚かれていたが、病人特有の据えた匂いは消えないようだ。




 ガルシアに魔力があるように、この世界には聖力もまた存在する。


 信仰が廃り失われた国も多かったが、ソフィーナリ国では維持されていた。


 王族の第一子がこの国の信仰を大切にし、民の心が豊かであることを願い続ければ、共にこの国を豊かにしようと神は思った。


 それは脈々と受け継がれていたが、ある時他国からの害意が侵入した。



 それがガルシア・バロンだった。



 ただの魔力ならば聖力で打ち砕けた。だが彼女は薬学で得た知識と自らの血液を混ぜた毒に魔力を滲ませ、解呪が困難な物質を作りあげた。



 呪文を紐解きながらの解呪は可能だが、ガルシアが練り上げた毒の呪解きは簡単ではなく、莫大な時間を要す。


 アン王女が毒に犯され、僅か2週間で深刻な状態まで陥っていた。少しずつ呪は解かれるが、回復に至るまでには追い付かない。

 状況は悪化の一途だ。





「このままでは危険だ。他に何か手はないのか!」



 そんな焦りの日々で、密偵より報告があった。

 横殴りの激しい雨の最中、彼は現れた。



 どうやらグラナディフォン侯爵令嬢が、長年の体調不良は毒の影響があるようだと、刺されて倒れていた女性の持っていた手紙から分かったと言うのだ。


 血みどろの彼女は偶然に出会した密偵に、全てを託した。



「これを……お嬢様の祖父の、先代侯爵様へ、お願いします、お嬢様、をたす、け、て………………」


「ちょっと、あんた。死ぬんじゃない、おい!」



 彼女を刺した使用人は密偵に驚き、手紙を回収せずに逃げ去った。

 密偵はジャスミンをマントに包み、馬車を借りて王宮に向かった。変装していた密偵には表向きの爵位がある為、ライムの元に行くことに問題はなかった。



「既に虫の息。もしくは………。だが第一子に仕える筆頭侍女にして、神官の力を持つライム様なら、何とかなるかもしれない」





 ずぶ濡れの密偵に抱かれたジャスミンは、ライムと引き合わされたのだ。



 偶然の出会いと神託は繋がり、ライムは神の意思としか思えなかった。





◇◇◇

 レアナは少し回復しても、ガルシアの薬を飲むと症状が悪化していた。それでもレアナが生きていたのは、ジャスミンの薬草のお陰だったのだ。


 ただ毎回薬は口に押し込まれる為、拒否が出来ない。疑いが芽吹き拒んだ時には、わざわざ父ブルニュストが出向いて来て嘆いた。もうずっと顔を見せなかった彼が。



「早く良くなって欲しいのに、薬を飲まないなんて。これもメイドの影響なのかい? 彼女は駄目な使用人のようだね。そんな者はこの家にはいらないな」


「っ……飲みます。だからジャスミンを辞めさせないで!」


「ああ、言うことを聞くならね。物分かりの良い子は好きだよ」


 悪意の欠片なく優しそうに言い含めるブルニュストに、レアナの背筋が凍りつく。

(ああ、この人は知っているのだ。娘が毒に犯されていることを。それでもこんな顔ができるのね。まるで悪魔……)



 徐々に追いつめられていたレアナの支えは、最早ジャスミンしかいなかった。今さら彼女がいない暮らしなど考えられない。


 それに親戚に預けられているジャスミンの幼い弟へは、彼女が仕送りをして預かって貰っている。

 仕送りがなくなった時、彼がその家にいられるかは分からない。どこの家も余裕なんてないのだから。

 ジャスミンが弟を抱え、新たな場所で働けるかも分からない。いや恐らくないだろう。



 そんな考えが浮かび、彼女は薬を飲み続けたのだ。



 その後1年経ち、更なる体調の悪化でレアナは悩み続けて覚悟を決めた。



 ジャスミンに渡した手紙は、レアナの最後の賭けだった。

 もし阻止されて帰って来たなら、彼女に宝飾品を渡して逃がすつもりだった。


(どうせ私は長くない。それならばジャスミンにだけは生きていて欲しい)


 けれど彼女は戻って来なかった。

 継母のマーガレットは、出ていったばかりのジャスミンが行方不明だと言った。



 絶望の中で現れたライム。

 そしてジャスミンはライムの元にいると言う。





◇◇◇

 神託で連れて来られたレアナは、アン王女に会った。彼女は自分と同じように、死の淵にいるように見えた。


 ライムが神官なら神聖力で回復するのではないかと考えたが、魔力が絡んでいる為に複雑で解けないと言う。



 アン王女の部屋に国王と共に、国王の老神官も現れた。神官は国王が生まれた時から付き従っていると言う。


 神官にはその時々で特殊能力が備わっており、それはスキルと呼ばれていた。


 国王の老神官には強い神聖力と共に、『複製』と言う祝福が与えられた。

 その昔干ばつで国が滅びかけた時、そのスキルで金貨、小麦、苗、種など、様々なものを作り出し国を救った。


 その代償に生命力が捧げられ、寿命が削られていったのだそう。見た目は年相応であるが、残る生命力は僅かだと言う。



「私はもう、奇跡をたくさん見せて頂きました。滅びを防いだ神の力を与えて頂き、本当に感謝しております。ですから死ぬ前に、この力を託していきたいのです」



 老神官は静かに語り、ライムを見つめた。

 残りの寿命を使い、力の付与をする準備は出来たのだと確認するように。


 普通の体では抵抗力でスキルを弾き、受け入れることは出来ない。その力を受け入れることが出来るのは、ここではレアナとアンだけだ。


 けれど寿命を削る能力は、次期国王には相応しくない。

 その為か、神託はレアナへと降りていた。




 レアナはそれを受け入れることにした。神の意思ならばと。


 老神官は語りかける。

「ありがとうございます、レアナ。この能力は寿命を代償にするものだから、貴女の本来の生き方を変えてしまうかもしれない。けれどこの力により救われる者は多くいることでしょう。

 私も天から応援します」


「私に何ができるかは分かりません。けれど奪われた時間だけで終わるより、誰かに役に立ってみたいです。だから心配しないで下さい」


「ありがとう。その言葉は、私の心を軽くしてくれました」

 


 その後老神官はレアナを座らせ、その額に指を当てて呪文を唱え続けた。

 レアナは目を瞑り、その言葉を受け止めていた。


 スキルの伝授を終えた後も、老神官は生きていた。そして客室のベッドに横たわっているジャスミンの元に歩みより、みんなに告げたのだ。


「ジャスミンはもう、仮死から死への段階へと向かっている。私の精神体を彼女に移し、体の維持を行いましょう。私の力を受け取ったレアナが人から感謝を得る度に、ジャスミンの体が回復することになる。彼女の体がある程度回復するまで、私がここに残り痛みを受け入れましょう。その間ジャスミンが辛くないように、眠りに就いて貰いますから」


 そう言うか否かのうちに老神官は倒れ、ジャスミンの顔は少し穏やかになっていた。



アンディーブ(神官)は最後まで痛みを引き受けて、生を全うした。誰にも出来ることではない。私達も出来ることを行おう」

 


 国王は老神官を大事に抱え、声を殺して泣いていた。彼の能力は公に出来ないが、その功績は国王とアン、ライムだけが知っている。

 その体は丁重に荼毘に付されることになる。




◇◇◇

 そしてアンの毒の解呪に戻る。

 

 ライムはガルシアを見た時、アンに絡み付いている魔力が彼女と同じことが分かった。


(たぶんこの女が呪いをかけた犯人。国王には凶悪な医師だからと連行する指示を頂いたが、魔女の可能性が高くなった。ならば手錠を魔力封じの物に代えておこう)


 

 ライムは手錠に神聖力を付与し、騎士に連行させた。そして彼女の牢屋周囲にも結界を張ったのだ。


 アンに危機が迫る中の応急処置だった。





◇◇◇

 ガルシアはレアナの体を使って毒を投与し血液を採取し、母国に送る為の血清を作っていた。

 

 殺すだけではなく、血清があることで脅迫が可能となるからだ。


 彼女は毒の症状や効果をノートに纏め、数個の血清セットを作っていた。


 普通なら一度か二度で、毒に犯された体は衰弱して死んでいた筈だった。レアナもそうだと思って関わっていたガルシア。


 ブルニュストに依頼され毒殺目的で侯爵家に来た彼女だったが、眉目秀麗で悪い笑みを浮かべ子供さえ手にかける彼を好きになってしまったのだ。


 ブルニュストも豊満な肢体を持つガルシアを、秘密の共有者として一時的な愛人として抱いていた。


 彼女は運命の出会いだと信じたが、彼は違っていた。あの玄関での叫びは心からの絶叫であった。


「妻より私の方が好きだと言ったのに。愛しているとキスして何度も愛し合ったのに、嘘だったのね。悔しい悔しい悔しい悔しい」



 そんなガルシアは、ブルニュストを強く憎み復讐を誓っていた。





 その間にライムはアンの犯されている魔力と血清を照らし合わせて言った。

 レアナはリンディが生まれた5歳の時から、微弱な毒を投与されていた。リンディが5歳になってからはより強い毒を。


 その一つずつを確認し、アンに纏わりつく魔力と重ね合わせていく。解毒には毎日少量ずつ投与する血清が必要だ。


 魔力により鮮度は保たれているが、なにぶん量が少なかった。恐らく普段は致死量近くの毒は使わないから、ここにある量で不足はないのだろう。


 特に生かすつもりのないアンには、血清が不要だったのだろうし。

 


「ああ、だからレアナが選ばれたのだ。肉体と精神の境界が曖昧で、拒否なくスキルを受け入れる器が必要だったから」

 

 ライムは呟きレアナは頷いた。

 そして選ばれた血清に触れ、数を増やしていく。



 血清は数を増やし、少量ずつ投与していくことで、アンは回復することだろう。



 目を閉じたアンはそれを聞いて、微かに口角をあげた。生と死をさ迷いながらも、生きることを諦めない強さが彼女にはあったのだ。







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