狙われるアン王女 その1
王位継承権とは、次期国王になる権利だ。
この国ソフィーナリでは男女関係なく、生まれ順だと決まっている。
けれど隣国から嫁いだ側妃アザミは、王位継承権が男児優先の教育を受けて育ち、自分の王子が次の国王だと信じて疑わなかった。
何故疑わなかったのかと言えば、教えられなかったからだ。
アザミの国では王妃以外は妾と同義だったので、専門的な教育を受けていない。
当然のように側妃として嫁ぐことに決まっていた為、最低限の学びしか受けていなかったのだ。
王妃コスモスは由緒正しき公爵令嬢。
可憐で美しく、権力も家柄も申し分ない、文句なしで王家の後ろ楯のできる女性だ。
元々アザミは第二側妃で、軍事国家ジャスミランとの和平を結ぶ為の政略的な結婚だった。
第一側妃はコスモスの親友である侯爵令嬢バラナであり、王妃の次期国王誕生を心待ちにしていた。
そして生まれたのが『アン王女』だった。
王妃の子が生まれれば、後は何人生まれようと争いにならない筈だった。みんながそう納得していたから。
ただ他国から来た側妃、アザミだけは別だった。
彼は大きな胸と括れた腰を妖艶に揺らし、国王アスターを誘惑した。程なく男児のクロッカスが生まれたのだ。
「貴方は次の王になるのだから、立派に学びなさい」
事ある毎に出る発言は、宰相から咎められた。
「側妃様の発言は、王位簒奪の意ありと見なされます。お気をつけ下さいませ」
「何を言うのよ。私のクロッカスが次期国王になるのに」
訝しげに話すアザミに宰相は告げる。
「次期国王は第一王女アン様です。それは変わらぬ事実でございます」
「どうして? 彼女は女でしょ? 国王は男がなるのだから、クロッカスで間違いないわ」
「はぁ。失礼ですが側妃様、この国の法教育は進んでおりますか? 他国出身だからか、かなりペースが遅いようです。王女でも第一子が国王になりますので、クロッカス様が第一王子でも王位に就くことはありません」
宰相は強めにそう伝え、アザミの担当教師にも今日のことを連絡して留意させた。
国王、王妃、第一側妃も、第二側妃の言動を理解不足として捉え、暫く見守ることとなった。
それでも納得できないアザミは、自分の生んだ王子を王位に就けようとしていた。
「さんざん蔑ろにされてきた私が、国母になれる機会なのよ。そうだ……第一王女が死ねば、継承権は繰り上がるわね。簡単じゃない。フフフフッ」
持参金僅かで、お付きの使用人もまた少なく大事にされていない元王女。そんな扱いをされてきたことで、この地で精神が歪みまくったアザミ。
彼女は手紙を認めた。
『アン王女が亡くなれば、クロッカスが王位を継げますのに。何か良い方法はないでしょうか?』
元より和平協定の為の結婚。迂闊に騒ぎを起こせば、アザミやクロッカスが途端に危険となるのに。
彼女の父王は、「それも一計か」と薄く笑う。
協定が破棄されても、それはそれで構わない。開戦も吝かではないのだ。
もしクロッカスが王位につけば、ソフィーナリ国を支配下に置けるかもしれない。少なくとも有利に関税などを課せることだろう。
悪い顔で企んだ後に参謀と相談の上、名医と言う触れ込みでガルシア・バロンをソフィーナリ国へと送り込んだ。
齢200の魔女である彼女を。




