レアナ・グラナディフォン侯爵令嬢 その3
全てを諦めた時、彼女の元に客人が現れた。
レアナの祖父母が来ても、体調が悪いと会わせずにいたブルニュストだが、その彼が断れない相手。
それはアン王女付きの筆頭侍女である、ライムだったからだ。
彼女は屈強な10人の騎士を連れ、王女の命であるとして乗り込んで来たのだ。王位継承権第一位であるアン王女の。
「まずはガルシア・バロンを拘束しろとのご命令です。彼女を拘束し、薬剤・ノート・備品など全てを押収します」
「そ、そんな横暴です! どうしてですか?」
慌てて抗議するブルニュストに、ライムは告げる。
「前侯爵であるアヴィラの死に毒殺の疑いが浮上し、薬剤制作者はガルシア・バロンだからです。もしかして侯爵も関係がおありですか?」
「ま、まさか、私は関係ない。捜査なら止めないから巻き込まないでくれ!」
動揺激しいその様子に、ライムや騎士、使用人までもが疑いの眼差しを向けた。傍らではマーガレットとリンディが固唾をのむ。
◇◇◇
そんな騒ぎの中でも、一人寝台に横たわるレアナ。彼女はジャスミンのことを案じて泣いていた。
(ごめんなさい、ジャスミン。それに彼女の弟にも辛い思いをさせてしまう。私が早く死なないから)
「…………うっ、うぐっ、ごめ、ごめんなさ、い」
聞き取れないくらいの小さく掠れる声と涙が流れ続ける。
そんな彼女の部屋へ、ライムは訪れたのだ。
「遅れてごめんなさいね。私はライム・プラネルタ。貴女の母親とは親友だったの。ずっと連絡を取ろうとしていたのだけど、貴女の父親に阻まれてたの。今回は神託があって突入したのよ」
(神託? 今さら何を?)
「アン王女様は毒で昏睡状態なのです。それを救うことが出来るのは、レアナ嬢だけだと言うお告げです」
そう言うとライムは、彼女に魔法をかけた。
「貴女もまた瀕死の手前です。ですから私の魔法により、体に悪影響を及ぼしている細胞活動を停止させます。楽観視は出来ないですが、痛みや苦しみは和らぐ筈です。お辛いと思いますが、王宮に同行して頂きますね」
王族の命令に逆らえる筈もなく、レアナは頷いた。起きようとして体を支えると、今までのような息苦しさがなかった。
「苦しくない! 嘘でしょ?」
驚愕の彼女にライムが言う。
「良かったです。けれど治った訳ではありませんので、無理はなさらないように」
「はい、分かりました」
頷くレアナをライムは抱え、ずんずんと歩いて行く。
「あ、歩けますから」
「レアナ嬢。少し我慢して下さい。今は一刻を争うのです」
「分かりました。お願いします」
◇◇◇
玄関ホールではガルシアが暴れ、ブルニュストに向かって喚いていた。
「ちょっと、助けなさい。全部バラすわよ。体まで差し出したのに、このクソ野郎が」
「煩い、平民が! 嘘ばかりついて、迷惑なんだよ」
「ちょっと、私は子爵令嬢よ。平民と一緒にしないで」
「没落貴族ごときが煩いぞ。ほぼ平民だろうが」
罵り合う彼らのことは騎士に任せ、ライムはレアナの登城要請書をチラリとブルニュストに見せて、横をすり抜けた。
「何で死にかけのレアナを? ちょっと待って下さい!」
「国王命令ですので、失礼致します!」
「駄目です。待ってくれ!」
「………………(無理。待てんわ、クソが!!!)」
細マッチョで美しいライムは、レアナをお姫様抱っこしたままブルニュストをぶっちぎった。
温かな腕の中で、泣きたいくらい安堵している自分を不思議に思う。あのまま死ぬ筈だったのに、何故か城へと向かっているのだから。
体が揺られているせいか瞼が重くなる。眠らないように目に力を入れるのだけど……。うつらうつらが止まらない。
「少しお眠りなさい。これからが大変ですから」
「はい、それでは…………」
声に甘え、微睡んでいくレアナ。
彼女は寝間着姿に毛布をくるまれ、正装もしていないまま王宮に向かっていた。




