小さなプレゼント
宿屋で待っていたヴィオラの元に、カイルが帰ってきた。
「ただいま、ヴィオラ」
「おかえりなさい、カイル」
カイルは手に大きな紙袋を抱えていた。
「熱冷ましの薬を買ってきたよ」
手にした紙袋の中から、カイルは薬の入った袋を取り出した。
「ありがとう」
微笑んだヴィオラだったけれど、カイルの手元の紙袋を見つめて首を傾げた。薬を取り出した今も、まだ大きく膨らんでいる。
そんなヴィオラの視線に気付いたように、カイルは再び大きな袋に手を入れた。
「町でもう開いている店がちらほらあったから、ちょっと寄ってきたんだ」
カイルが袋から取り出したのは、数冊の本と図鑑、押し花の栞と、小さな望遠鏡のようなもの、そして珍しい果物と菓子類だった。
「ヴィオラがここで過ごしても、飽きないようにと思って。それから、熱があっても食べやすそうな果物と、ヴィオラが好きそうな菓子をいくつか見繕ってきたよ」
「わあっ……!」
色鮮やかで瑞々しい果物に、見た目も可愛らしい砂糖菓子は、食欲がなくても口にすることができそうだった。
落ち着いた装丁の本と図鑑、美しい栞に手を伸ばしたヴィオラが、目を輝かせる。
「どれも、読みたかった小説だわ……! この図鑑は植物のイラストが綺麗ね。押し花の栞も素敵だし、果物とお菓子も、美味しそうなものばっかり」
「それならよかった」
顔を綻ばせたカイルに、ヴィオラは不思議そうに尋ねた。
「ねえ、カイルって凄いわ。まるで、私の心を読んでいるみたい。どうして、こんなに私の好きなものがわかるの?」
「それは……ヴィオラと一緒にいれば、自然とわかるよ」
はにかむようにカイルが続ける。
「こうして一緒に旅をしていると、ヴィオラが何に興味を惹かれるか、どんなものが好きなのかが、だんだん見えてくるから。それに、ヴィオラの好みは、僕の好みとも近い気がするしね」
「ふふ、それは嬉しいわ」
(カイルは、本当に私のことをよく見ているのね……!)
ヴィオラは驚きを隠せずにいた。アダムと婚約していた頃にも、時々装飾品などを贈られたけれど、一見して高価なものだとわかっても、彼女の好みとは違うものばかりだったからだ。それでも、アダムからの好意だと喜んで受け取ったヴィオラではあったけれど、カイルからのささやかな贈り物のほうが、ずっと嬉しかった。どれも、彼女のことを考えて選んでくれたことが感じられる。
一つだけ初めて見るものに、ヴィオラは視線を移した。
「カイル、それは何かしら?」
「ああ、これはね……」
微笑んだカイルが、ヴィオラに小型の望遠鏡のようなものを差し出す。ヴィオラの掌に載るくらいの大きさだ。
「こうして斜め上に向けて、ここを覗いてみてごらん?」
頷いたヴィオラは、カイルに言われた通りに小さな穴を覗いた。美しい色合いの模様が視界に広がる。
「それから……」
カイルが筒の部分を回すと、ヴィオラの目に映る模様が、次第に色と形を変えていく。
「綺麗ね……!」
「これは万華鏡っていうんだ。ヴィオラにも見せたいと思って」
「ありがとう。素敵だわ」
ヴィオラが指先でゆっくりと万華鏡を動かす。次々に現れる模様には一つとして同じものはなく、儚さと繊細さも感じられた。
飽きずに万華鏡を覗き込んでいるヴィオラに、カイルが笑いかける。
「気に入ってくれたようで、よかった。……熱冷ましの薬も、飲んでおいたほうがいいかな」
カイルが手際よく、薬と一緒に水の入ったカップを差し出す。ヴィオラはすぐに薬を水で喉に流し込んだ。
「何から何まで、ありがとう」
「ううん、気にしないで。こうしてゆっくり過ごす時間も、たまにはいいんじゃないかな」
そうだと言わんばかりに、ノクティスは二人の横で伸びをしていた。ヴィオラがくすっと笑う。
「そうね。そう言ってもらえると、気が楽になるわ」
ヴィオラができるだけ焦らずに過ごせるようにというカイルの温かな気遣いも、言葉の端々に感じる。
「しばらくは横になって休んだらどうかな? 熱が下がって元気が出てきたら、その時に考えればいいと思うから」
「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらおうかしら」
ヴィオラはベッドに身体を横たえると、感謝を込めてカイルを見上げてから、そっと目を閉じた。
やがてヴィオラからすうすうと寝息が聞こえ始めると、カイルは静かに回復魔法を唱えた。
結局この日、ヴィオラの熱はあまり下がらず、ほぼ一日中ベッドの中で過ごすことになった。




