アダムの焦り
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一方、アダムは、魔物討伐に向かった先で、額に大粒の汗を浮かべて魔物たちと戦っていた。思いのほか強力な魔物が立て続けに現れ、戦況は厳しい。怪我人も多く出ている中で、アダムは苦い思いをぐっと呑み込んだ。
(どうなっているんだ? 今まで、こんなに苦戦することは滅多になかったのに……)
木陰から現れたオークに激しい炎を放ちながら、頭上から差した影に気付いて、ちらりと空を見上げたアダムがマイヤに向かって叫ぶ。
「マイヤ、上空のガーゴイルを頼む!」
「わかっているわ……!」
マイヤが苛立った声を上げる。どうにか持ちこたえてはいるものの、魔物たちに押されて王立魔術師団が劣勢なのは明らかだった。
カリスティード王国の中心部からさほど離れていないこの森に、魔物出没の知らせが入った時には、たいしたことはないのだろうとアダムは軽視していた。ここしばらくというもの、強力な魔物は息を潜めていたのか、王都周辺で出くわすことはなかったのだ。
けれど、今回の戦いでは、魔術師たちは高位魔物たちに苦戦を強いられている。
今更ながら、アダムは考えずにはいられなかった。
(こんな時、以前のようにヴィオラがいてくれたなら……)
ヴィオラは回復魔法だけでなく、防御魔法にも優れていた。彼女の防御魔法を盾にして魔物と戦うのと、防御魔法を使わずに戦うのとでは消耗の度合いがまるで違う。
(ヴィオラさえいれば、これらの高位魔物たちとも問題なく戦えたのに)
アダムが悔しそうに唇を噛む。一時期、強力な魔物の出没が増えた際には、アダムとヴィオラの攻守がこの魔術師団の要だった。
そのような高位魔物たちがある程度片付いたと思った頃、油断したアダムは隙を突かれて、甘く見ていた魔物に足を掬われ、彼を庇ったヴィオラが大怪我をしたのだった。ただ、その後しばらくは魔物の出没は落ち着いていたために、彼はその状況が今後も続くものと考えていたのだ。
王立魔術師団にごく少数しかいない光属性の魔術師を、この戦いにも連れてきていたアダムだったけれど、ヴィオラと比べてあまりに弱いその魔力に、彼は舌打ちをした。
(ヴィオラの魔力とは雲泥の差だ、これでは盾の意味がない。これほど魔物たちに追い詰められることなど、想定していなかったのに)
目の前の事態に納得できずに、アダムが唇を噛む。
(俺の目算では、カイルを追い出せれば、この辺りで厄介な魔物に出くわすことも減ると思ったのだが……)
カイルが自らの意思とは関係なく魔物をおびき寄せてしまうことは、アダムだけでなく、クローヴェン侯爵家の誰もが知っている。
王立魔術学校にカイルが通うようになり、闇属性の魔力の制御を覚えてからは、そのようなことはなくなっていたけれど、それでもアダムは、カイルがクローヴェン侯爵家を離れれば、対峙する魔物は減る可能性が高いのではないかと考えていた。
ただ、ありきたりの魔物が現れたところで、余裕で返り討ちにする力がカイルにあることもアダムは知っている。カイルは諸刃の剣といえる存在なのだ。
(厄介払いをしたはずが……。こんなことになるくらいなら、カイルを王立魔術師団に招聘して、魔物と戦わせるほうがましだっただろうか。だが、そんなことを考えている場合ではないな)
部下の叫び声がアダムの耳に届く。
「アダム様、援軍を呼びましょう! このままでは危険です……!」
ちらりと部下を見たアダムが、顔を歪める。
「気弱なことを言うな! そんなことを言っている暇があれば、目の前の魔物を一匹でも多く倒せ!!」
アダムは王立魔術師団の次期魔術師団長を目指している。現在、王立魔術師団に三人いる副団長の中で、次期魔術師団長候補として最有力と目されているのがアダムだった。
何としてでも魔術師団長の座を手中に収めるために、アダムは結果を残すことを最優先にしてきた。アダムの油断から、ヴィオラが彼を庇って大怪我を負った魔物討伐を除けば、彼はそれまで期待通りの成果を残していた。
このままいけば、カリスティード王国で歴代最年少の魔術師団長に就くことも夢ではないと、彼は鼻息を荒くしていたのだ。
(ようやくここまで辿り着いたんだ。こんなところで援軍など呼んで、汚点を残してたまるか)
アダムは再び手に炎を纏わせると、迫りくる魔物たちに炎魔法を放った。




