美しい瞳
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翌朝、目を覚ましたヴィオラは、澄み渡った空を見上げて大きな伸びをした。
「気持ちのいい朝ね……!」
窓の外には、澄み渡る青空が広がっている。眩しい朝陽に、ヴィオラは思わず目を細めた。
ヴィオラの横で、ノクティスもぴくぴくと耳を震わせてから顔を上げる。ノクティスは、つぶらな金色の瞳でヴィオラを見上げた。
「おはよう、ノクティス」
ヴィオラが頭を撫でると、嬉しそうにノクティスが尻尾を振る。ベッドを出たヴィオラが身支度を整え終えてしばらくすると、控えめに部屋のドアがノックされた。
「はい」
(あら、カイル様かしら)
すぐにドアを開けて、にこやかにヴィオラが出迎える。
「おはようございます、カイルさ……まっ!?」
驚きにヴィオラが目を瞠る。目の前にいるカイルは、前髪が短くなって綺麗な金色の瞳が露わになっていた。
恥ずかしそうにカイルが口を開く。
「昨夜、前髪を切ったんです。おかしいでしょうか?」
「いえ、とっても素敵です! 大分印象が変わったので、びっくりしてしまって……」
これまでは、長い前髪で目元がすっかり隠れていて、どことなく暗く重い雰囲気のカイルだったけれど、前髪が短くなったことで、切れ長の美しい瞳がはっきりと見えた。どこから見ても爽やかな美青年へと変貌を遂げた彼を、ヴィオラがじっと見つめる。
「よくお似合いです、カイル様」
「……ありがとうございます」
頬を染めたカイルが、照れたように微笑む。
「昨日、ヴィオラ様が勧めてくれたので、目を覆っていた前髪を思い切って短くしました」
「ふふっ。聞き入れてくださって嬉しいです」
まだ慣れていないせいか、ヴィオラと合わせた目をふっと逸らしたカイルだったけれど、ヴィオラはあえてカイルの顔の向きに合わせて移動すると、楽しそうに笑った。
「カイル様の金色の瞳、とっても綺麗です。見惚れてしまうくらいに」
ヴィオラの言葉は取り繕ったものではなく、本心からのものだった。長い睫毛に彩られた金色の瞳と、神秘的で涼やかな目元は、目が離せなくなるほどに美しい。
ヴィオラの言葉に、カイルは耳まで真っ赤になっていた。
ノクティスもヴィオラに賛成とばかりに、カイルの足に前足をかけて立ち上がると、大きく尻尾を振った。
「ノクティスもわかっているみたいですね」
「ははっ、そうですね」
カイルが屈んでノクティスを撫でると、ノクティスはカイルの顔をペロリと舐めた。
その時、ちょうど朝食をトレイに載せた宿の使用人がやってきた。ヴィオラは部屋に二人分の朝食を運び込んでくれるよう使用人に頼むと、カイルとノクティスと一緒に部屋に入った。
皿の上ではベーコンエッグが湯気を立て、春野菜のサラダと焼き立てのパン、そして彩り鮮やかなフルーツが添えられている。
「わあっ、美味しそう!」
「いい匂いですね」
勝手知ったる様子で、ノクティスは二人の足元でちょこんとお座りをしている。ヴィオラがたっぷりと脂が乗った厚切りのベーコンを差し出すと、ノクティスは器用にパクリと食べた。
「あなたもお腹が空いていたのね!」
「僕のもあげるよ、ノクティス」
くつろいだ朝食の時間を過ごした二人は、満腹になった様子で床に寝そべったノクティスの横で、明るい窓から澄んだ青空を見上げた。
「いい天気ですね!」
「ええ。これなら、今日も順調に馬車を進められそうです。ですが、昨日もかなりの距離を移動しましたし、ヴィオラ様のご体調第一で行きましょう」
ヴィオラとカイルが目指す『幻の湖』があるカリスティード王国の最北端の山脈までは、どんなに休みなく馬車を飛ばしても半月近くかかる。ヴィオラの身体が持ちこたえられる範囲で馬車の旅をするなら、さらに時間が必要になる上に、たとえそこに到着しても、すぐに幻の湖が見付かるかはわからない。けれど、ヴィオラがこれ以上体調を崩したら元も子もないと、カイルは十分に理解していた。
荷物をまとめた二人が宿を出ようとしていると、荷物を抱えたカイルを女主人が二度見した。
「!? あらまあ……!」
まじまじとカイルを見る女主人を前にして、カイルが戸惑ったように尋ねる。
「あの、何でしょうか……?」
「いえっ、失礼しました。どうぞよい旅を!」
そう言いながらも、女主人はしばらくうっとりとカイルを見つめていた。ちらりとヴィオラに向けた視線にも、羨望の色が浮かんでいる。
居心地が悪そうに、怪訝な表情を浮かべたカイルが自分の前髪に触れる。
「……やっぱり、前髪を切らないほうがよかったかな?」
小声で呟いたカイルの横で、ヴィオラは首を横に振ると口元を綻ばせた。
「カイル様がとっても素敵なことに、宿の女主人も気付いたみたいですね。ほら、いい笑顔で見送ってくださっていますよ」
馬車に向かう二人のことを、女主人は顔いっぱいに笑みを浮かべて見送っている。どうやら、視線はカイルを追っているようだ。
カイルは困ったように頬を掻いた。
「これまでは、僕と目が合わないように避けられるばかりで、あんな笑顔で話してもらえることもなかったので、目を見て話すこと自体が、何だかまだ慣れなくて……」
「ふふっ。きっとすぐに慣れますよ」
ヴィオラの青紫の瞳に見つめられ、頬を薄らと染めてカイルが頷く。
二人はノクティスを連れて馬車に乗り込んだ。ノクティスは、すぐにヴィオラの膝の上に飛び乗って丸くなった。




