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零落魔導士の事始め  作者: 如月駆
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魔力測定

 入学式の会場の演習場から次の魔力測定会場である魔法実技

棟に移動すると、既に多くの新入生が集まっていた。


「随分広い場所だな」

「そうね、冒険者ギルドでもこんな広い場所では無かったわね」

「そうなんですか?魔力測定器って大掛かりな仕掛けで行うのかと思ってました」

「それにしても、よくこれだけの数集めたな」


 エレナが言う通りこの魔法実技棟は生徒を500人くらい入れても余裕がありそうなほどの広さがあり、周囲は観客席で囲まれており、普段はここで見学も出来るようだった。


 しかし、魔力測定器自体はそれほど大きい訳では無く、平均的な水晶玉くらいの大きさである。一つにつき一人ずつしか測定することは出来ないので、冒険者ギルドでも魔導師ギルドでもここまで広い部屋で行うことは無い。


 では何故、広大な学院の魔法実技棟を使用しているかというと、魔力測定器が5つ並べられている為だ。多くの人数の魔力測定を効率よく行う事を目的として、十分な広さがあるこの場所が選ばれていた。


 腕に付けた時計を確認していた先生が顔を上げ、話し始める。


「では、これより魔力測定を行う。初めて行うものも多いだろうから説明から入ろう。まずは、これを見てくれ」


 先生は部屋の中央に台座の上に置かれ水晶玉に手を向ける。


「これが、魔力測定器だ。この水晶玉がお前達が秘めている魔力量の測定を行なってくれる。皆知っての通りこれは古代魔法文明の遺産だからとても貴重な物だ。」


 古代魔法文明とは、ユージン達が存在している現在の文明よりも約1000年ほど前に存在していたと言われる。現在よりも高度な技術を持ち、魔法を使って発展していた。

 魔法を前提とした生活が日常であり、肉や野菜など食材を鮮度を保たせる為に冷やして保存する冷蔵庫、離れた場所でも会話ができる魔導話器、移動には馬車では無く離れた場所へと転移する事が出来る扉、日照りが酷くて作物が育たない年には雨を降らして実った作物を収穫していた。 

 残念ながら現在の技術では再現不可能な物を生み出して利用していた時代があった。

 そして、魔力測定器はその時代に作られた現代では再現不可能な代物でだった。


「だからと言って、扱いが難しい訳では無い。冷蔵庫なんかは現在でも一般的に普及しているだろう。それと同じようなものだ。使い方はいたって簡単。ただ、水晶玉に触れて魔力を流すだけだ、こんな風にな」


 そういうと先生は魔力測定器に近づき、手を触れ魔力を流し始める。魔力測定器が光り始め、空中に70万という数字が投影された。


「「「「「お〜!!」」」」」

「まぁ、こんな感じだ。魔力量によって水晶玉の光加減が変わって、測定された魔力総量は空中に投影される仕組みになっている。つまり、俺の魔力総量は70万という事だ。」


 今まで魔力を測ったことが無い者達は、皆驚いている。魔力は普通、相手から発されている魔力の圧力を肌で感じとり、自分よりも多いのか少ないのかを感覚で測る以外に無い。自分の魔力量との比較である為、実力が伴わない者ほどその感覚は曖昧になり、大雑把になりやすい。しかし、それが数値化されて表されるだけで相手との実力差が分かりやすくなる。


 魔導師にとっては、魔力総量が多ければ多いほどより多くの魔法が使える事になるのでこの結果はとても大事になる。


「知っての通り、この結果がクラス分けの指針になる。頑張れ、と言っても結果が変わる事は無いがやるだけやるんだぞ。では始める。各魔力測定器ごとに並べ」


 別に早く測定した方が有利というわけではないが、先程の光景を見た生徒たちは興奮を抑えきれない様子で、我先にと一斉に向かっていく。


「はぁ、面倒だけど行くか〜」

「ユージン君はあまり興味が無さそうですね」

「うん?まぁ、結果が分かりきってるっていうかなんていうか」

「え?以前にエレナさんみたいにどこかで測ったことがあるんですか?」

「いや、そういう訳でも無いんだけど」


 明らかに憂鬱だという雰囲気のユージンの態度が不思議なのかミューラが話しかけてくる。それも当然だろう。この結果がクラス分けの指針に使われると聞いてやる気の出ない生徒など普通はいないだろう。誰だって出来る限り上のクラスいたいものだ。ユージンのような態度の者は明らかに少数派だ。


「ねぇ、ユージン。あんた本当にやるの?」


 不意に真剣な表情をしたエレナがユージンに話しかける。


「はあ?受けるしか無いじゃん。あれやらないと入学させてもらえないだろ」

「そうだけど、あんたーー」

「まぁ......なるようになるんじゃないか?」


 二人の不思議な会話を聞いているミューラには意味が分からなかったが、様子を見る限りは深刻そうにしているのはエレナだけで、ユージンは相変わらず面倒くさそうにしているだけである。


「とりあえず行こうぜ。早く終わらせて帰りたい」

「......」


 会話は終わりだと言わんばかりに、ユージンはさっさと歩き出して測定待ちの列に歩き出す。


「エレナさん、私達も行きましょう」

「......そうね」


 エレナ達もユージンとは別の列にそれぞれ並んで行く。


 魔力測定は順調でどんどんと進んでいく。生徒達は皆その結果に一喜一憂している。


「おぉ〜あいつ20万だぞすげ〜」

「あっちは30万だって」

「なぁ、俺どれくらいかな?多分お前よりは多いよな」

「あぁ…たった5万しかないのかよ。くそ!」


「「「「「おぉ〜!!!」」」」」


大きな歓声が聞こえたところで、ユージンがそちらを見ると一際明るく輝く水晶玉に100万という数字が見えた。

先程のデモンストレーションをしてくれて先生よりも30万も多いので、歓声が上がるのも納得だ。

気になって測定器の前にいる人物を見ると、そこにいたのはエレナだった。


「おい!誰だよあれ!」

「先生よりも魔力が多いってどんだけだよ…」

「本当にね〜100万て桁が違うもんね」


 100万という頭ひとつ抜けた数値に周囲の誰もが讃えているが、エレナ本人は嬉しそうにする訳でも無く、当然だと言わんばかりに落ち着いている。


 エレナへの歓声のせいで影が薄れていたが、ミューラの方も50万と今まで見てきた中では中々悪くない数字だった。


 そして、ついにユージンの番がやってきた。


「では、名前を言ってくれ」

「ユージン・テイラーです」

「よし、では測定器に手を」

「はい」


 指示の通りユージンが魔力測定器に触れるが、水晶玉が光る事は無く変化が無い。他の生徒の時には1分もかからず反応していたが、既に他の生徒の倍近い時間を使っていた。


「どうしたんだ?ちゃんと魔力を流すんだ。まさか、魔力の流し方が分からないなんて言わないよな?」

「いえ、大丈夫です。今やっているので、その内結果が出ると思いますよ」


 変化が無い事に疑問を感じだ先生が話しかけてくる。

 魔力を流す事など小さな子供でも出来る当たり前の技術である為、変化が無いのはユージンがちゃんとやっていないからだと思われているようだ。 

 しかし、ユージンは至って真面目にやっているのでどうしようも無い。


 そうして、少し時間が経つとようやく変化が訪れた。

 水晶玉の色味に変化は無いが、測定されたユージンの魔力総量が空中に投影された。


「なっ、魔力総量0だと!」


 先生は顎が外れんばかりに開いて驚いている。周囲にいる生徒達も驚いているのか声も出ていない。ユージンにとっては分かりきっていた結果だったため、特に驚きは無い。


 しかし、次の瞬間には静寂だった部屋全体に笑い声が響いていた。


「ぷっ、おいおい、あいつ魔力量0だってよ」

「嘘だろ、0ってことあるのかよ」

「だめよ、笑っちゃ悪いわよ。ふふっ」

「魔力量0ってあいつ、魔法も使えねぇ屑じゃねぇか」


 ユージンを馬鹿にする声がそこかしこで上がるが、当のユージンはどこ吹く風だ。


 魔力とは人間だけで無く、この世界に存在する全ての生物にある。そして、生物はその魔力を活用することで通常では出せない力を発揮している。


 つまり、魔力が0ということは身体能力の底上げも出来ず、まして魔法など使う事が出来ない生物としての欠陥品とも同然だった。


「よ、よし。ユージン・テイラー、もう行っていいぞ」

「はい」


 促されるままにユージンは歩きだす。周囲では未だに嘲笑が響いているが、欠陥品の自分には仕方のない事だと割り切るしかない。

 既に測定が終わっているエレナは教室の隅の方でミューラと共にユージンを待っていた。


「あ、あのユージンさん」

「ん?そんな心配そうな顔しないでよ、ミューラさん」


 ミューラは善人なのだろう周囲の状況に呑まれず、ユージンを心配そうな表情で見ていた。


「結果は分かりきってるって、さっきエレナと話してたの聞いてたでしょ。まぁ、自分の事は一番自分が分かってるからな」

「そうですか......だからエレナさんはユージンさんが魔力測定をやる時に聞いてたんですね」


 エレナは先ほどから俯いて黙り込んだままだ。魔力が少ない者を馬鹿にする風潮はあるが、この部屋はそれが顕著に現れた空間だっだ。

 自分の知り合いが馬鹿にされて気分のいい者はいないだろう。エレナの感情の揺らぎによって魔力の制御が乱れ、周囲を重苦しい圧力が支配する。


「魔力測定も終わったし、帰るぞエレナ」


 ユージンはその圧力をものともせず、エレナの肩を軽く叩く。

 魔力測定は、終了した者から帰宅できるので、エレナに声をかけるが返事は無い。ただ黙って、ユージンの後ろをついてくる。

 ほとんどの生徒が帰宅していないのは、他の生徒の結果が気になっていた為だろう。


「それじゃあミューラさん、俺とエレナはこれで失礼するよ。もし、同じクラスだったらよろしくな」


 ユージンはヒラヒラと手を振ると出口へ向かって歩き出した。




 ボールドウィン家への帰路の途中エレナはまだ黙ったまま歩いていた。


「お〜い、そろそろ機嫌直せよ。別にあれくらいよくあることだろ」


 その言葉に、今まで黙っていたエレナが漸く顔を上げる。


「悔しくないの、ユージン!あんなに馬鹿にされて!」

「う〜〜〜ん、別に」

「私は悔しかったわ!本当だったらーー」

「まぁ、今それを言ってもしょうがないしな」


 やはりユージンは馬鹿にされた事など、大して気にした様子も無い。


「そういえば、エレナ。お前手を抜いてただろ。さすがに、100万は少なすぎるだろ。あんなんじゃ、中途半端な連中に舐められるぞ」

「別にいいわよ。かかってくるなら、正面から叩き潰してあげるだけよ」

「いや、俺の護衛の仕事増やすのやめろよ…」

「あら?誰かさんが守ってくれるんじゃなかったの?」

「はぁ......やっぱり、この依頼受けるんじゃなかったかな」


 面倒くささを隠そうともしないユージンの態度が面白かったのか、エレナの表情に笑顔が戻ってきていた。


「それにしても、あれがクラス分けの指針になるんだよな?」

「そう言ってたわね」

「てことは…俺、絶対お前と別のクラスじゃん…」

「そうでしょうね」

「だよな…これ、護衛の仕事どうすればいいんだよ」

「そこは僕に任せておいてくれ」


 急に会話に割り込んで来た声の方向を向くとローランがいた。


「ッ!?…お、お前いつからいたんだよ!」

「ついさっきだよ、エレナに悪い虫がついてる予感がしてね」

「お前の感覚どうなってんだよ…」


 ローランとの付き合いは長いが、もはやユージンには驚きを通り越して呆れしかなかった。


「まぁ、さっきの話だけどクラスについては僕に任せておいてくれ。僕にいい考えがあるんだ♪」


ローランの笑顔に嫌な予感を覚えつつも、自身ではどうする事も出来ないためユージンほそこで思考を放棄した。

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