クラスメイト
青い空、照りつける日の光、これから始まる新生活に期待を胸に膨らませる生徒達の中に、頭を抱え机に突っ伏す生徒が一人いた。
「ねぇ、いい加減諦めたらどうかしら」
「だってあいつ任せろって言ってたんだぞ…」
「ちゃんとあんたの要望通りになったじゃない。何が不満なの?」
「いや…なにって…」
力なく周囲を見渡すとそこには真っ白な制服に身を包んだ生徒達がいた。ただ一人ユージンを除いて。
「なんでSクラスは貴族ばかりなんだよ…」
「仕方ないじゃない、平民に比べて貴族の方が魔力量が多いんだから」
「この学校絶対身分差撤廃する気ないだろ…」
ノーザン学院では貴族は白、平民は灰色の制服を着る規則がある。その為、制服の色をみればその人の身分が分かるというわけだ。
そして、現在この教室の9割は貴族で占められていた。
「それにしてもローランのやつ、どうやって俺をこのクラスにねじ込んだんだか」
「きっとお兄ちゃんのことだからーー」
「全員揃っているか?」
鐘の音がなると同時に先生と思しき人物が入室してくる。
「俺はこのSクラスの担任になったハンス・ウェーバーだ。まずは諸君、Sクラスでの入学おめでとう。諸君らは現時点でのこの学年の上位陣というわけだ」
何やら含みのある言い方をしてくる。
「だが、今後行われる試験の結果によっては成績が振るわない者はクラスが下がる可能性がある。また、下のクラスの者達も成績を上げればこのクラスに入ってくることもあるので、気を抜かないように」
先生からのありがたいお言葉にもSクラスの生徒達は動揺する事もなく、静かに聞き入っていた。
「よし、では何か質問がある者はいるか?」
一人手をあげる生徒がいた。
「では、名前を言ってから質問をしてくれ」
「はい、クルト・ヴォルフです。質問ですが、何故このクラスに平民不在がいるのでしょうか?」
恐らく貴族の出身であろう生徒から当然の質問が飛んだ。
「さっきも言ったが実力の順だ」
「平民に劣る貴族がいると?」
「そうなるな」
「そうですか。まぁ、そんな雑魚はどうでもいいですが、それならもう一つ疑問があります」
「何だ?」
クルトはユージンの方を振り返ると指を指して言った。
「では何故あの平民はこのクラスにいるのでしょうか?私はあいつが魔力測定の時に0という数字を出したと記憶しているのですが」
ざわざわと周囲がざわめき出す。当然といえば当然のことで魔力=実力の無い者がSクラスに在籍するなどありえないからだ。
「あ〜それについてはだな……」
言いづらい事なのか先生も黙り込んでしまう。
「おい、平民!どんな手を使って入学してきた」
「いや、俺も何がなんだか…」
「ふん、言えないのか?どうせ何か汚い手でも使ったんだろうがな」
ユージンにもローランがどんな手段を用いたか分からない為、微妙な返答になってしまう。ふと横を見るとエレナの肩が震えているのが見えた。
「あ〜多分だけど、ローランが何かしたんじゃないか?」
「ローラン?」
「あぁ、ローラン・ボールドウィン。あいつが権力でも使ってねじ込んだんじゃないか?」
「ローラン・ボールドウィンだと?平民風情が出鱈目を言うな!」
「いや、俺ローランの依頼でこの学院に来てるんだよ」
エレナの怒りを爆発させない為に言ったことだったが、ローランの名前が衝撃だったのかクルトは驚愕の表情を浮かべていた。
「依頼だと?お前みたいな平民風情に?はっ、ありえんな」
「まぁ、信じるも信じないもご自由にどうぞ」
「それからお前、口の書き方には気をつけろ!平民風情が僕ら貴族に気安い口調で話しかけるんじゃ無い!」
「お前達、そろそろいいか?」
先生は悩みの種が出来たとばかりにこめかみを抑えている。
「納得出来ません!」
「じゃあ、後で校長室に直談判にでも行ってくるだな。他に質問があるものは?」
「なっ…」
「いないようだな。では、授業を始める」
自分の意見が無視されたのが気に食わないのか、クルトは暫くユージンを睨みつけてくる。
「まずは自己紹介をしてもらう。前の席に座っている者から順番にするように」
「は、はい。私はーーー」
生徒達の自己紹介が進ん行く中、エレナの番が回ってきた。
「私はボールドウィン公爵家が長女エレナボールドウィンです。よろしくお願いします」
エレナの挨拶は簡素なものであったが、予想通り周囲の騒めきは凄まじかった。それも当然で、エレナは有名人であるが今まで学院には通ってこなかった。そのため、姿を見た事がある人がいなかったからだ。
「先生、エレナさんに質問してもよろしいでしょうか?」
「却下する。次の者は速やかに自己紹介をするように」
生徒達の一番の興味はやはりエレナのようで今にも群がってきそうだったが、先生が次を促した。
生徒達は残念そうにしていたが、次がエレナの隣に座っていたユージンということもあり思い思いの目で見ている。
「え〜、ユージン・テイラーです。この学院にはエレナの護衛として入学する事になりました。よろしくお願いします」
またも周囲に喧騒が起こる。何故平民風情がとかボールドウィン家とどのような関係だとか色々と言われている。
「静かに。では次」
先生もいい加減鬱陶しくなってきたのか、進行が適当になってきた。
「はい…ミシェル・ノーザンです」
次に自己紹介をしたのは、どこか自信なさげな少女だった。
夕暮れ時の小麦畑を連想させるような綺麗な金髪が腰まで伸び、すらっと伸びた肢体、見目麗しく誰がみても美少女といえる容姿だった。
「私は平民ですが、貴族の皆様の足を引っ張る事の無いよう頑張りますので、よろしくお願い致します」
深々と頭を下げてどこか怯える表情だったことが気になった。
ミシェルの横顔をじっと見てるいると、横に座っていたエレナが何を誤解したのか小声ではなしかけてくる。
「何?あんた、あの子が気になるの?」
「はぁ?」
「確かに綺麗な子だもんね」
「いや、そうじゃなくて。なんであんな表情してるのか気になってさ」
ユージンの言う通り、ミシェルは少し怯えたような表情をしている。
「平民の数が少ないからじゃないかしら?貴族相手には萎縮しちゃうんでしょ」
「そういうもんか」
ユージンには分からない感情だったが、一度浮かんだ疑問を一旦脇に追いやり、次の発表を聞いていく。
「よし、全員終わったな。今学期はこのクラスで授業を行う。午後からはまず魔法実技から入るので着替えておくように」
鐘の音が午前の授業が終わりを告げると同時、エレナの周囲には人だかりが出来ていた。
「エレナさん、俺男爵家のーー」
「エレナさん、私伯爵家のーー」
「「「「「「「僕はーー私はーー」」」」」」」
「えーと…」
凄まじい人気ぶりだとユージンは他人事の様に思っていたが、エレナが困っている。ローランとの契約がある為、このままじっとしている訳にもいかない。
すると、一人の生徒が人垣を掻き分けエレナに向かってきた。
「邪魔だ!どけ!」
周囲の人間も彼に逆らう事も無く渋々従っている。
「初めましてエレナさん。私はヴォルフ伯爵家が長男クルトと申します。以後お見知り置きを」
「…初めまして」
「早速ですが、ご一緒にランチに行きましょう」
「え?」
「さぁ」
そういうとクルトはエレナの腕を掴んで強引に連れて行こうとする。流石にこれ以上は看過できず、エレナに触れる前にクルトの腕を掴み捻り上げる。
「おい、エレナに用があるならまず俺を通してからにしろ」
「ぐっ、貴様何をする!」
「それはこっちの台詞だよ。たく、面倒事を作りやがって」
拘束から解放すると慌てて後ずさる。
「私はヴォルフ伯爵家の者だぞ!平民風情が何の権利があって私の邪魔をする!」
「俺はエレナの護衛だからな」
「何?お前が護衛だと?魔力量ゼロの屑がか?」
「そうだけど?」
すると、クルトは先程までの怒りが嘘だったかのように顔には嘲笑が浮かんでいた。
「ま、魔力量ゼロの屑が護衛だと、ふふっ、これは傑作だ」
「その護衛を指名したのがローランなんだけどな」
「ならば、ローラン・ボールドウィンの目も節穴ということか?」
「ツ!?」
冗談まじり告げられたその言葉はエレナの逆鱗だ。教室内を恐ろしいほどの殺気が包み込む。流石に生徒達は荒事に慣れていない者が多い為辛い状況だろう。
「おい、エレナ。怒るのは分かるけどその辺にしておけ。関係ないやつまで巻き込んでるぞ」
エレナが一度深く深呼吸をすると、徐々に殺気も収まり消えていく。
(今ので完全に怯えられたな)
先程まで突っかかってきたクルトだけでなく、周囲でエレナに声をかけようと待機していた生徒達もエレナの殺気に当てられ怯えていた。
「帰るわよ、ユージン」
「っておい!まだ授業残ってるんだぞ」
「今日は帰るわよ」
「まじかよ…」




