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百花宮のお掃除係~転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。  作者: 黒辺あゆみ
第十五章

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733話 観察者野猫

野猫イェマオは前方にある柱の影で洗濯物が入った籠を足元に置き、こちらに背を向けて立っていた。なにかを窺っているのか、首を伸ばしたり引っ込めたり、中腰になったりと忙しない。雨妹の目からも、はっきり言って不審者にしか見えないのだが。


「えっと、野猫はなにをしているの?」

「しぃっ!」


雨妹ユイメイが恐る恐る尋ねると、ぐるんと振り向いた野猫が目を吊り上げながら口の前に人差し指を立てて、「静かにしろ!」の合図を送ってきた。


 ――なんだ、なんだ!?


 ひとまず雨妹もそんな野猫に近付いて後ろに隠れるように立ち、彼女が見ている光景に目を向ける。するとそこは、上等なお仕着せを着た女三人がおしゃべりをして歩いている姿があった。


「なんだか退屈ですわぁ」

「ねぇ、建物がどこもかしこも閉鎖されていて」

「まるで廃墟じゃない?」

「まあ口が悪い、それは言い過ぎです!」

「「「ホホホホッ!」」」


その三人のこのような会話内容についてはともかくとして、非常に楽しそうであることは見て取れる。


「誰あれ? っていうか、皇后宮のお仕着せじゃあないよね?」

「おらは、あいつらが妙な真似をしないか見張っているんだ」


ひそっと雨妹が率直に尋ねるのに対して、こちらもひそっと答えた野猫のこれは答えになっていない。


「くそぅ、好き勝手に言いやがって、この辺は外れなんだから、閉まっているくらいはいいだろ!?」


野猫は小声で呻きながらギリギリと歯を食いしばって、三人を睨んでいる。あの連中は一体どこの誰なのかと、雨妹がよくよく観察していると、その答えが想定外の方向からもたらされた。


「あれは、イエ賢妃宮の者たちですよ」

「……!?」


背後から聞こえたその声に、雨妹は飛び上がらんばかりに驚くが、かろうじて悲鳴を上げなかったことを自分で褒めつつ、背後を振り返れば。


「……なんだ、ミンさんですか」


そう、後ろにいたのは卓敏であった。野猫と一緒に怪しい動きをしていた自覚があるだけに、もっとややこしい関係者に見つかったわけではないことに、雨妹はホッと安堵する。


「あなたも野次馬ですか?」


雨妹は笑みを浮かべて尋ねるが、これは場を和ませるつもりでの軽口だった。


「そのようなはしたない真似はいたしません。洗手間の帰りです」


しかし敏からこう真顔で返されて、雨妹は「あ、はい」と頷くしかできない。


「さて」


さらに敏が雨妹の横で固まっている野猫に視線を向けると、「んぎっ」と野猫が変な呻き声を漏らす。どうやら覗き見をしていた現場を見られたのが、野猫にとってはかなり拙いようだ。


「寄り道をしているようですね」

「あ、えと、その」


これが敏から叱られる行為であるとわかっていたらしい野猫は、アワアワとなにか言い訳をしようとしているが、良い言葉が見つかっていない。そして雨妹も庇えない、というよりも、どうして野猫がここにいたのかもわかっていないため、庇い様がないとも言える。

 けれど友を助ける流れになることを願い、雨妹は敏に話しかける。


「あちらの叶賢妃宮の人たちは、何用でこちらにいらしているのですか?」


雨妹からのこの問いに、敏は「ほう」と諦めのため息をひとつ吐いて、あの女三人の方をちらりと見やる。


「叶賢妃からの見舞いの使者が訪ねてきていると聞いています」

「へぇ、お見舞いですかぁ」


敏からの答えに、雨妹も裏門での忠告はこれかと納得した。

 積極的に動いているという噂ばかり聞こえていたが、いよいよ雨妹の行動範囲にその活動が入って来るとは。しかも皇后宮という、叶賢妃にとっての本命とも言える敵の本拠地である。


 ――皇后陛下へのお見舞いは、別に変じゃあないのよ。


 長く表舞台に出ていなかった皇后が顔を見せるようになったとはいえ、身体が弱っているのは見るからに明らかなので、そこを誤魔化すことはできそうにない。だから心労もあって臥せっていたという事情が公表されており、それが人為的であっただけで嘘ではない。四夫人の一人がその見舞いとして使いを送るのは、普通にあり得ることだろう。

 しかしここは雨妹が通りかかったことでわかるように、裏門に近い場所だ。そして雨妹が聞いた忠告は、表門方面に気を付けろというものだったのだが。


「えらく広範囲に動くお見舞いですね?」


雨妹はそう言いながら、しらけた目になる。

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