730話 相談には賄賂付き
皇后宮で片付けの報告を代表でやったり、野猫の案内で卓敏と会ったり、立彬や秀玲と話をしたりと、雨妹が一日忙しく動き回った、その翌日。
仕事を早めに切り上げた雨妹は、陳に相談しようと医局へやって来た。
もちろん手土産付きだ。面倒事になる可能性もあるため、お詫びの先回りとして糕を美娜に頼んで作ってもらっている。
「おやおや、まぁたなにかやっているのかい?」
美娜はそう言って笑いながら駄賃と引き換えに糕を作ってくれたが、これが厄介事の詫びの品だというのが言わずとも察せられているのには、雨妹は笑って誤魔化すしかない。
というわけで。
「陳先生、一緒に糕を食べましょ~!」
「お~、なら茶を淹れてくれぇ」
雨妹が医局の入口からお誘いの声を掛ければ、奥から陳の声が返ってきた。
「はぁい!」
なので雨妹がいつものように慣れた足取りでお邪魔すると、陳はちょうど薬を作っていたところであった。室内は薬の材料の色々な匂いが混じった香りが充満しており、作業机の上は散らかっている。
――私は慣れた匂いだけれど、これも馴染まない人には臭いよね。
雨妹はそんな風に思いながら、ひとまず休憩できる場所を作ろうとして、いつもお茶を飲むのに使われる卓が隅に追いやられているのを見つけた。なにかの荷物を運ぶ際に邪魔になって避けてから、そのまま放置されているのかもしれない。
「適当に場所を作りますんで」
「頼む」
雨妹がそう言うのに、陳がこちらを見ないまま頷く。雨妹なら変な物を触らないという信頼というか、これまでの実績があるからこそだ。
とにかく了承されたので、雨妹は避けられていた卓を空いている場所に設置し、持っていた手巾で天板を拭いてから糕を置く。本当は換気をして室内の薬臭さを飛ばしてあげたいところだが、風で色々と舞い上がってしまっては惨事になりそうなので、そこは雨妹も気にしないことにした。
そして竈までお湯を貰いに行って、近くに置いてあるお茶一式を借りて戻れば、陳の方も作業のキリをつけたらしく、卓に座っていた。
「集中していたから疲れたよ、甘味は嬉しいなぁ」
陳は長時間集中していたのか、目をショボショボとさせながら卓の上の糕の香りをクンクンと嗅いでいる。
「ずっと作業していたのですか?」
「まとめて作っていたんでな」
雨妹がお茶を淹れながら聞くと、陳がそのように答える。薬にも使う都度作らなければならないものと、ある程度保存が効くために作り置きができるものとがあり、今日は保存が効く薬をまとめて作る作業をやっていたということだ。
「来たついでに、出来上がったものをいくらか小分けにして包んでくれや」
「いいですよ」
陳がついでと言いながらも結構面倒な作業を頼んでくるが、雨妹としてもいつもお世話になっているので、すんなりと請け負う。
なかなかいい感じにお茶を淹れられた雨妹は、お茶が注がれた杯を陳に渡し、自分も喉を潤してから、糕にかぶりつく。
「美味しい~♪」
「この台所番は、都でも屋台を出せば人気になるんじゃないか?」
幸せな顔になる雨妹を眺めながら、陳も糕を頬張ってそんなことを言う。確かに、美娜が屋台を出していれば、雨妹ならばなんとしても通いに行く気がする。
「私がちょいちょい美娜さんにおやつを頼むものだから、他の人からもたまに手土産を頼まれるそうですよ。それが良い小遣い稼ぎだって言っていました」
加えて雨妹はそんな事情を陳に教えた。美娜のところへ食材を持ち込む依頼人もいれば、食材費込みでお金を渡す依頼人もいるらしい。
「それはすごい、結果としてお前さんが宣伝して回っているということか」
「私は美娜さんの料理の一番の支持者ですからね!」
陳に感心されたので、雨妹は胸を張っておく。なんにせよ、美娜も依頼人も幸せであればそれでいいのだ。
こうしてお茶と糕でお腹と心が満たせたところで。
「それで、なんの話なんだ?」
さすが雨妹への理解がある陳により、余計な問答をせずに本題に促された。




