↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『戦えない管理人ですが、うちのボロアパートだけ成長がおかしいようです』 ~壊れたら全員即死のデスゲームで、好感度を力に最速で成り上がる~  作者: しまじろう
第"零"階層

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/10

03 最初の一人

「ほら、どうする、管理者さん。――最初の一人だ。……誰を、迎えに行く?」


 ベルフの、だるそうな声が、やけに遠くに聞こえた。


 一人だけ。たった一人だけ、この地獄みたいな世界に、連れ出していい。


 俺は、唇を噛んで、必死に頭を回そうとした。けれど、考えれば考えるほど、思考は、ぐちゃぐちゃに、もつれていく。


 ◇


 真っ先に、頭に浮かんだのは――妹の、唯の顔だった。


 お兄ちゃん、と笑う、あの屈託のない顔。今ごろ、冷たいコアの中で、どんな思いで、封じられているんだろう。考えるだけで、胸が、ぎゅっと、締めつけられる。


 すぐにでも、助け出してやりたい。


 ――でも。


(……待て)


 俺は、こみ上げるものを、懸命に、飲み込んだ。


 解放するということは、裏を返せば、この死と隣り合わせの世界に、すぐさま、引きずり出すということだ。モンスターがいて、死が本物で、ひとつ間違えれば、現実ごと、命を落とす。


 そんな場所に、いちばん最初に、大事な妹を、放り出す?


(……できるかよ、そんなこと)


 守りたいからこそ、まだ、動けない。唯だけじゃない。麻衣さんも、怜子さんも、葵も、あの一〇三号室の人も――みんな、そうだ。わけもわからないまま、この地獄に叩き起こすには、俺は、何もかもを、知らなすぎた。


 この世界のことも。戦い方も。自分に、何ができるのかも。


 ◇


 だけど、一人も解放しなければ、俺は、ただの無力な管理人のまま、何もできずに、七日後の“上納”とやらで、全員まとめて、終わる。


 誰かが、いる。


 こんな無茶に、付き合ってくれる、誰かが。


 背中を、預けられる誰か。俺がへこたれたときに、遠慮なく、引っぱたいてくれる誰か。……わけのわからない地獄のど真ん中で、「面白いじゃない」と、隣で笑ってくれる、誰か。


 ――そうだ。


 考えるまでも、なかったのかもしれない。


 こういうとき、俺が、いちばん最初に手を伸ばしたいと思う相手は。昔から、ずっと、変わらず、決まっていた。


「……ベルフ」


 俺は、顔を上げた。


「咲を。……幼馴染の、本間咲を、頼む」


 腑抜けていた俺を、引っぱたいて立たせてくれた、あいつを。


 こんな理不尽に、無理やり付き合わせることになるのは、本当は、申し訳ない。でも――あいつなら。咲なら、きっと、こう言う。「なんで最初に私を選ばないのよ、ばか」と。そう、憎まれ口を叩きながら、俺の隣に、立ってくれる。


 ◇


「あいよ。……『本間咲』、解放っと」


 ベルフが、気のない調子で、短い指を、ひょい、と振った。


 その瞬間。


 朝日荘の、ひび割れた外壁の奥――建物の、ちょうど心臓にあたるあたりが、ぼうっと、あたたかな光を帯びた。コア、というやつだろうか。その光に呼応するように、一〇一号室の扉が、ひとりでに、かたん、と開く。


 光の粒が、扉の内側から、ふわりと、こぼれ出してきて。


 その中から、一人の人影が、転がるように、現れた。


「――っ、ぁ……。え、ここ……?」


 咲だった。


 寝起きのままの、よれたTシャツ姿。髪は乱れ、顔は、血の気が引いて、真っ青だ。何が起きたのかわからない、という顔で、きょろきょろと、あたりを見回している。


 その視線が、へたり込んでいる俺を、捉えた。


「……和馬?」


 ◇


「和馬……!」


 次の瞬間、咲は、転がるように、俺のところへ駆け寄ってきた。


「あんた、無事だったの!? ……ってか、なにこれ。街、どうなってんのよ。人、どこ行ったの。っていうか――」


 そこで、咲の視線が、俺の隣で欠伸をしている、小さな悪魔を捉えて。


「……なに、その、コウモリみたいなの」


「失礼だな、姉ちゃん。悪魔だよ、悪魔。……ベルフさんだ」


 ベルフが、だるそうに、ひらひらと手を振る。咲は、ひっ、と小さく息を呑んで、俺の腕を、ぎゅっと掴んだ。その手が、小刻みに、震えている。


 ――ああ。


 こいつも、怖いんだ。


 いつも威勢のいい、気丈な幼馴染。それでも、こんなわけのわからない状況で、平気なわけが、ない。震える手の冷たさが、それを、何よりも、正直に語っていた。


「……咲」


 俺は、その手の上に、そっと、自分の手を重ねた。


「順番に、説明する。……たぶん、すぐには、信じられないと思う。俺だって、まだ、信じられてない。……でも、たぶん、これは、ぜんぶ、本当だ」


 そして俺は、ベルフから聞かされたことを、ひとつずつ、咲に伝えていった。


 世界が、ゲームになったこと。みんなが、このアパートのコアに、封じられていること。この世界で死ねば、現実でも死ぬこと。拠点が壊されれば、全員、死ぬこと。……そして、生き延びて、このボロアパートを育てきれば、みんなを、取り戻せること。


 ◇


 咲は、話の途中で、何度も「は?」と顔をしかめ、何度も「嘘でしょ」と呟いた。


 けれど、人の消えた街と、目の前の悪魔を前にしては、信じないわけには、いかなかった。話が終わるころには、その顔から、笑みは、すっかり、消えていた。


「……つまり」


 咲は、ゆっくりと、言葉を選ぶように、口を開いた。


「生き延びて。この、ぼろっちいアパートを、どうにか育てて。……そうすれば、唯ちゃんも、みんなも、助けられる。そういう、ことなのね」


「……ああ。気が、遠くなる話だけどな」


 俺は、力なく、頷いた。正直、ひとつも、勝算なんて、見えていない。戦う術も、知らない。こんな状況で、何から手をつければいいのかも、わからない。


 ――けれど。


「……はっ」


 俺の、情けない顔を見て。


 咲は、ふっと、口の端を、吊り上げた。


 青ざめて、手を震わせて。それでも、その目には、昔から、何ひとつ変わらない、あの、負けん気の強い光が、灯っていた。


「……面白いじゃない」


 ああ、やっぱり。


 こいつは、こう言ってくれる。俺が、思っていた、通りに。


「泣き言はあとでいくらでも聞いてあげるから。……今は、やるしかないんでしょ。唯ちゃんを――みんなを、迎えに行くんでしょ、和馬」


「……ああ」


 俺は、きつく、唇を、噛みしめた。


 震える手を、握り返す。すると咲も、負けじと、強く、握り返してきた。その手の震えは、まだ止まっていない。それでも、確かに、あたたかかった。


 一人じゃ、ない。


 ただ、それだけのことが、こんなにも、心強いなんて。


 ◇


「……ふぁあ。やっと腹くくったか」


 俺たちのやりとりを、心底どうでもよさそうに眺めていたベルフが、大きく伸びをした。


「じゃ、感動の再会も済んだとこで。……そろそろ、“現実”ってやつを、見せてやるよ」


 ベルフが、だるそうに、指を鳴らす。


 すると、俺と咲の目の前の空間に、半透明のウィンドウが、すう、と、浮かび上がった。


 そこに表示された“数字”を見て。


 俺は――これから自分が、どれほど絶望的な場所に立っているのかを、思い知ることに、なる。


お読みいただきありがとうございました。

続きが気になったら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。