捨てられていた資源
「虫じゃない。ザーネンお前。街中の糞とか嫌いだったよな」
「そりゃそうですよ。汚らわしい。先日もお気に入りの服の裾が汚れてしまって」
「このヤジーがな。画期的な案を持ってきたんだ。話を聞いてやってくれ」
「ヤジーさん?あぁあなたが虫を減らして、痒み止めの薬屋の大将に殴られたっていう」
「いや……、殴られてはいないですけどね」
「あんたのお陰でよく眠れて。ほらお肌の調子もいいでしょ。ありがとうね。それで画期的な案って?」
「乾いた糞は燃料になるんですよ」
「えっそうなの?それじゃあ。どんどん燃やしてしまいましょうよ」
「それがね。抵抗感のある人も多いみたいで」
「そりゃそうだわね。乙女には抵抗あるもの。私だって……」
「じゃあザーネンお前も使わないのか?」
団長は笑った。
「私は乙女だけど、その前に清掃人よ。キレイにする宿命なの。だからどんどん燃料にしてあげるわ」
清掃人と馬小屋の人達のお陰で、街はきれいにはなった。
しかし、まだ依然として糞は多かった。
「ヒンザさん、聞いてくださいよ。清掃人と馬小屋の人達のお陰で、随分街はきれいになりました。
しかし、まだまだ多いんですよ」
「そうだな。もう少し燃料として使う所がいるんだろうな」
「ヒンザさんの所は?」
「いやぁ。ちょっと抵抗あるな」
ヒンザは苦笑いをした。
「クロタンさんの所は?衛生的にしてると、治癒士にとっても良いでしょう」
「まぁそうだけど。私も抵抗あるわ」
クロタンも苦笑いをした。
「あら。あんた虫の人でしょ」
食堂のおばちゃんに声をかけられた。
「はい」
「あんたのお陰でぐっすり眠れてね。ほら肌の調子がいいでしょ」
「そうですね」
「しかし、あんた浮かない顔をしてるわね」
「えぇ。街の糞を燃料にする事を提案して、清掃人と馬小屋の人達のお陰で、随分街はきれいになりましたが……」
「まだ物足りないって事ね。たしかに随分臭いが減ったわね。そんな事があったの」
「えぇ」
「あんた……、
そんな事は、食堂の連中に言いなよ。
一番困ってるのはうちらさ。
食堂では使えないけど、皆家庭がある。
家庭で使わせてもらうよ。
とりあえず知り合いには皆言っておくよ」
「えっ本当ですか?ありがとうございます」
「なに感謝なんていいよ。これは私らの問題なんだから。
ありがとうね」
「良かったじゃねぇか。食堂は街のあちこちにあるからな」
ヒンザは笑った。
「あの……、街のどれくらいの人が、糞を燃料に使えば、糞を増やさずにキレイさを保てるでしょうか?」
私は尋ねた。
皆考え込む。
「十人に一人……、いや二十人に一人くらいだろうな」
シェーヴルは言った。
「その理由は?」
「だいたい人が作れる糞は乾かせば小枝1本から2本分くらいだろう。二十人分くらいにならないと、十分な暖にはならないと思うんだ」
「なるほど」
「これ思うんだが、なくなるのは少し時間がかかるが、なくなりだしたら一気じゃないか?」
ヒンザは腕を組む。
「たしかに、そういう現象はあるわね」
クロタンも同意する。
「元々糞に対しては抵抗がある人が多い。そして燃料も節約したいという気持ちはある。だから十分にありえると思う」
シェーヴルは笑った。
一月ほど経った。
街から糞は大幅に減った。
「糞に灰をまぶしておくと、臭いが減るぞ」
「うちでは竈の隅に、置くようにした」
「薪代の節約になって良いわ」
そんな声が聞こえだした。
私は街を散歩していた。
「臭い消しの草はいらんかねぇ。臭い消しの草だよ。兄さん。臭い消しの草。買ってかないかい?」
女が男に声をかけている。
「臭い消しの草?ちょうど切れてたんだ。一つ貰うよ」
男は言った。
「臭い消しの草はいらんかねぇ。臭い消しの草だよ。ほら兄さん。臭い消しの草。買ってかないかい?」
女は私に声をかけた。
「あら兄さんこないだの行政官」
「お久しぶりです」
「街から糞が減ったのあんたの仕業なの?」
「ご迷惑でした?」
「迷惑なんてとんでもない。糞が減ってからね。臭い消しの草が大売れさ」
「皆さん臭い消しに?」
「糞と混ぜれば、早く乾くし、匂いも減るってね。あと燃料にもなるでしょ」
「そんな風に使われているのですか」
「そうそう。ザーネンって清掃人が教えてくれて。私が広めたのさ」
「それは良かった」
「これ一束あげるよ。お礼だ」
「申し訳ない。行政官はお礼を貰ってはいけないのですよ」
「そっかそっか。わかったよ。ありがとう」
私は再び街の中を歩きだす。
「最近糞がなくなって、ずいぶん過ごしやすくなったよな」
「でも代わりに、尿の臭いが気になるようになった」
「本当だな。誰かなんとかしてくれねぇかな」
そんな声が聞こえた。
なるほど尿か……、
すっかり忘れていた。
私は団長の元に向かう。
「団長!」
「おぉヤジー。褒めてもらいに来たか?よくやったな。ありがとう」
「あぁどうも」
照れくさくなった。
「いや。そうじゃなくって、臭いがまだあるんですよ」
「次は何だ?」
「尿です」
「たしかにな。この街は小便臭い」
「それを今度はなんとかしたい」
「しかし、お前好きだな。虫とか臭いとか、地味なの」
「まぁ地味ですが、行政なんて地味な事の連続じゃないですか」
「よくわかってるね。そうだよ。行政は地味な仕事の連続だ」
「それでやりますよ」
「あぁいつもどおりだ」
「では」
私は、
シェーヴルに会いに向かう。
「シェーヴルさん!」
「シェーヴルさんなら、軍事訓練に行かれましたよ」
他の学者が言った。
「それはどこで?」
「ヒンザさんのところ」
「ありがとうございます」
私はヒンザの所に向かう。
「ヒンザさん!」
「おぉヤジー。ようやく軍事訓練に来たか。今シェーヴルも来ている。一緒に訓練していけ」
「いや。シェーヴルさんに会いに来たのですよ」
「いいぞ。ただ訓練しながら、話をしろ」
ヒンザは笑う。
「ここではヒンザに従うしかありませんよ。それに軍事訓練は住民の義務なのですから」
シェーヴルは笑った。




