報告
私は起こった事を団長に報告をした。
「なるほど。わかった」
「それで、問題はありませんでしたか?」
「わからんな。問題があれば、じきに『僕は問題です』と出てくるだろう」
「ぷふ。何ですか。その『僕は問題です』って」
「ほら問題なんかさ、自分で探さなくても出てくるだろう」
「まぁ明らかに問題だというのは、わかりますよね」
「そう。それに気が付いた奴が指摘する」
「じゃあ、それまで待てと」
「そういう事」
「後手に回らないですか?」
「そりゃ後手に回るよ。でもな。必要な機能は必要になってからつける。それが一番金がかからねぇんだ」
「困った事にならないですか?」
「今までの人生を思い出せ。傘を持たずに出かけたら、急に雨になった。どうした?」
「雨やどりしたりしました」
「だろ。用意がなくても、臨機応変な対応で乗り越えることができる」
「でも毎日傘を用意していたら良いですよね」
「そりゃいいよ。でも毎日傘を持つのは重たい」
「たしかに」
「行政っていうのはな。皆の財布を預かる仕事だ。将来必要かもしれない所にかけるのも良い。でもな、将来必要になるかどうかわからないものに金をかけないのも、行政の仕事なんだ」
「なるほど。できるだけ大事に使えと」
「そういう事」
「つまり……、行政だからと、大きな仕事をするのではなく、大きな仕事をする小さな仕事を探せ。そんな感じですか?」
「筋が良いじゃねぇか。それだよ」
「そうですか。でも結構難しいですよね」
「ヤジー。お前が今回やった仕事なんぞ。それだよ」
「虫除けがですか?」
「あぁ。皆痒くて眠れなかった。それが草で寝れるようになった。皆元気になる。病気は減るよな。皆働くよな。税金も増える」
「あぁなるほど。民が元気になれば、税金も増えるのですか」
「そうそう。だからな。皆が健康になる事を一番に考えろ」
「健康になる事……、わかりました」
「いいかヤジー。行政官の仕事は、業務をこなすことでもあるが、業務を減らすことでもあるし、なによりよく考える事だ。じゃあ、次何をやれるか考えてこい」
「はい」
私は再び街に出た。
行政官の仕事は、業務をこなすことでもあるが、業務を減らすことでもある。
少し衝撃的な言葉でもあった。
私は王国で業務をこなすことに翻弄されていた。
その業務をそもそも減らすという事。
私は街のあちこちを観察する。
「臭い消しの草はいらんかねぇ。臭い消しの草だよ。兄さん。臭い消しの草。買ってかないかい?」
女が男に声をかけている。
「臭い消しの草?けっ。こんなに臭い街に、そんな草少し撒いたところで、気休めにもならねぇよ」
男は言った。
「臭い消しの草はいらんかねぇ。臭い消しの草だよ。ほら兄さん。臭い消しの草。買ってかないかい?」
女は私に声をかけた。
「こんにちは。私はヤジ―、行政官です。少しお話を伺っても」
「買ってくれるなら、少しは話をしてもいいけど……」
「では頂きましょう」
私は臭い消しの草を買った。
「それで話って?」
「この街は、なぜ臭うのですか?」
「主にし尿だね。あとは生ごみもそこらへんに捨てるし、ネズミやなんかの糞もある」
「そんな草少し撒いたところで、気休めにもならねぇ。そんな風に男の方が言ってられましたが」
「あれは言いがかりさ、気休めにはなる。まぁでもこうも臭くてはね」
「じゃあ、臭いがマシになれば、売上は良くなりますか?」
「そりゃなるんじゃない。私も草が売れるだろうし、飯屋なんか、よろこぶよ。どこの飯屋でも、クソの臭いしかしない。なんて陰口を叩かれてるんだから」
「そうか。ありがとうございます」
「はいよ。またひいきにしておくれ」
「はい」
私は団長に会いに行った。
「団長。減らせるものを見つけました」
「ずいぶん早いな。それで何だ?」
「臭さです」
「くささ?臭いってことか」
「はい」
「どうやって?」
「それを今から調べるんです」
「予算はねぇぞ。人は使ってもいいし、土地も使ってもいい」
「シェーヴルさんは?」
「あれが犬に見えるか?」
「人です。では会いに行ってきます」
「あぁ頑張れ。臭いが本当に消えたら、何にも出せないが、褒めてやる」
団長は笑った。
「はい」
私はシェーヴルに会いに行く。
「シェーヴルさん。先日はありがとうございました」
「いいよ。いいよ。私もぐっすりだからね。で、今回はどんな遊びだ?」
「遊びじゃないですよ。仕事」
「そうか?随分イキイキとしてるじゃないか。子供みたいな顔をしてるぞ」
シェーヴルは笑った。
そう……、
私は少し戸惑った。
仕事を楽しんでいる自分に。
「今回は臭いを消したいのですよ」
「それなら臭い消しの草が売ってるぞ」
「そうじゃないです。この街中の臭いを消したいんです」
「臭い消しの草が、ずいぶん必要そうだな」
「それ以外の方法を探しているんです」
「それ以外?」
「はい。何かご存じでないですか?」
「臭い消しか……。そういえば」
「はい」
「動物の糞を転がしている虫を見たことがあるな」
「そんな虫がいるのですか?」
「あぁ」
「それはなぜ転がしているので?」
「遊んでいるのかな?」
「わからないのですか?」
「虫だよ。興味がない」
「学者なのに?」
「君ね。学者がなんでも興味を持つと思ったら、大きな間違いだ。学者というのは、元来学術的偏食家なのだよ」
「学術的偏食家か……、上手い事言いましたね」
「そうか。上手い事言ったか。メモしておこう。学者というのは、元来学術的偏食家なのだよと……」
「それより臭いですよ」
「そういえば、乾いた糞なんかは、臭いが少ないな」
「乾いた糞か……、それ良いかもしれませんね」
「しかしし尿を乾かすって、大変だろ。日光に干している間は、やはり臭う」
「そっか。ところでし尿って、そもそもどこに行ってるのですか?」
「皆、好き勝手に捨ててるよ」
「うわ。だから臭うわけですね」




