団長の矜持
私は再び団長に会いに行った。
「考えてきました」
「それで」
「群生地を一つか二つ確保して、この草で虫除けができると宣伝し、あとは皆さんに任せようと思います」
「なるほど。悪くないな。街中に生やす件はどうなった?」
「ははは。あれはまるで王国のやり方だと思い……」
「確かにな……、ここにいる連中には、なんとなく苦いやり方だ」
「団長は気付いてらっしゃったんですか、私の意見が王国と同じだと」
「なぁヤジー」
「はい」
「そもそも人間っていうものは、弱いからつるんでんじゃねえのか」
「そうですね」
「それをだよ。国の中で、強さを競いあって弱いものを排除する」
「……」
「本末転倒じゃねえか」
「……」
「俺はそう思う。考えが甘いのか」
「そうですね……」
言葉に詰まる。
胸の奥が苦しい。
「考えが甘いかもしれません」
「でも私も……、
いや……、
私はその考え、好きです」
言い切った瞬間。
胸の奥のつかえが取れ、
涙が溢れた。
この人は……、
悪なんかじゃない。
いや……、
この人が悪なら、
私も悪で良い。
そう確信した。
「あの団長、一つ聞いて良いですか?」
「なんだ?」
「団長はなぜここに?」
「……私はある下級貴族の次男だった。
そして、相続の関係で親兄弟の計略に遭いスケープゴートにされた。
よくある話さ」
「それは酷い」
「笑えるだろ。本当に傑作だ」
「笑えませんよ」
「はは。そうだよな。私は計略に遭った瞬間、財産だけじゃなく、家族も失った」
「そうですね」
「あれはな。お前は家族ではありません。そういう事なんだ」
「それは言いすぎでは?」
「そうなんだよ。だから私も何度も考えた。彼らにも事情があると……」
「でも……、構造は同じなのですよね」
「あぁ、そう。王国とまるで同じ」
「家族を憎んでいますか?」
「それがな。わからないんだ。
顔を見れば殺意が湧くかもしれない。
でも、それも確かじゃない。
感情が静まりきって、静かな泉のようにも感じる。
ただ静かな泉ゆえ、少しの揺らぎも波紋になる。
そんな気さえする」
「達観されておられるのでしょうか」
「達観なんぞしないよ。
ただ激しい恨みや怒りはもう消えた。
それはハッキリと思う。
でも火種は消えていない気もする。
だがね。
彼らには幸せになって欲しいとも思う」
「それは何故?」
「私を犠牲にしたんだよ。幸せにならないのなら、何の犠牲だ」
「お優しいのですね」
「何が優しいものか……、幸せになって欲しいとも思うという心の裏には、
彼らは確実に不幸になるとの確信が詰まっているのだから」
私は団長の言葉が、
少しわかった。
しかし、
わかったという言葉が口からは出てこない。
わかったという言葉で、
底の浅い私を、
団長に知られたくはなかったのだろう。
「そうですか……」
そう返すのがやっとだった。
私はシェーヴルさんに再び会いに行き、
群生地の探索に同行してもらった。
そして近場で3箇所群生地を見つけ、
街で宣伝して回った。
宣伝にはまる10日間かかった。
ある日、
街で男に捕まった。
「お前か。虫よけの草の宣伝をしてる奴は」
男は怒っている。
「どうかされたのですか?」
「どうかされたじゃねぇよ。お前のせいで、こっちは売り物が売れねぇじゃねぇか?」
「売り物?」
「あぁ痒み止めだよ」
「あぁ……、それは……」
いや待てよ。
私が謝ることなのか?
「気持ちはわかりますが、私が謝る事なのでしょうか?」
「何を。ぶっ飛ばすぞ」
「私は行政官です。街の人の健康を守るために、草の宣伝をしただけです」
「それが余計な事だって言ってるんだ。民業圧迫だ」
この男のいう事は、
もっともだ。
しかし、
この男は人々が痒がることで金を儲けていた。
「あなたは虫がいることで金を儲けていた」
「それの何が悪い。こっちは家族をこれで食わせてるんだ」
家族を食わせていた。
そうか……、
私は仕事を奪ったのか。
「それにお前だって、人々が痒がることで、成果を出したじゃねぇか。お互い様だろ」
私は言葉を詰まらせた。
人々が痒がることで、成果を出した。
言われてみればそうだ。
人の不幸で成果を出したんだ。
「俺はな。今まで感謝されて仕事をしてきたんだ。あんたの薬はよく効くよってな。それが虫がいることで金を儲けていただと」
私は流れで人を、
生活の流れから排除してしまったのか?
悪気はないんだ。
決して悪気は……。
「そんな悪気はないんだ」
「当たり前だろ。
悪気があってたまるか。
あんたが正しい事くらい、子供だってわかる。
でもな。
わかるか?
生活を奪われた身を」
「わかりますよ。私も不正を告発したら、追放されここに流れてきた」
「あぁ、そうだろうな。あんたの気持ちもわかる。
でも、
もう……どん詰まりだ」
どん詰まり。
私はその言葉に違和感を感じた。
なぜ違和感を感じる。
あぁそうか。
王都では痒み止めは売れていた。
「あの……、あの草は王都で流行っていた草です。
ほとんどの人が使っていたと思います。
でも痒み止めの薬も売っていた」
「なに?あの草が流行っていても、痒み止めが売れてた」
「はい。私もよく買っていました」
「そうなのか。まぁ寝床の虫だけじゃないからな。しかしな。売上は下がったんだ」
「あの……、ではあの草を売られては?」
「草を売る?ただで手に入る草だぞ」
「はい。私もただで手に入るのは知っていましたが、王都では、毎週買ってました」
「そうなのか。安くしたら売れるという事か」
「そうですね。安くしなくても、適正な値段であれば、売れるとは思います。ただすぐにという訳ではなく、皆が取りに行くのが面倒だなと思うくらいの時期なら、売れやすいかなと」
「おぉそうか。じゃあ、そっちを検討してみるわ。なんか責めて悪かったな。ありがとうよ」
そう言って、男は去っていった。
私は少しほっとした。
何にほっとしたのだろう。
罪悪感の解放か?
それとも、
責められなくなった事なのだろうか。




