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寝床の虫

「うわ。本当だ。実は私、王国に住んでいる時に、虫除けの植物を寝床に撒いていたのです。

それで快適に眠れていたのですが、

それを団長さんに説明したら、3000人分用意しろと」


「団長に?」


「はい」


「団長。さすがに昨日来てすぐの新人に、3000人分の植物を用意させるのは、難しくないですか?」


「だからお前を呼んだ。頼んだぞ」


「はいはい。わかりました。それでヤジー君。その植物はどこに生えている?」


「ここらへんの土地勘がないので、探してみない事には」


「そうか……、とは言っても、場違いなところを探しても見つかるまい。日陰か日向か」


「日向だと思います」


「じめじめしたところか、それともからっとしたところか?」


「どちらかというと、からっとしています」


「周りに木はたくさんあるか?」


「木はあまりないですね」


「他の植物は多いか?それとも荒野のような場所か?」


「他の植物は割と多かったと思います」


「なるほど、では向かおう」


私はシェーヴルと、野草を探しに行く。

探しに行った場所は、

街から十分ほど歩いた場所だった。


私は草を探す。

「あぁこの草です」

ほどなくして、草は見つかった。


「あぁこの草か。割とどこにでもある草だな」


「そうなのですか」


「あぁ。ではどうする?」


「まずはこれを持ち帰って、皆で試してみるのは?」


「試行期間を設けて、効果があれば、採用すると」


「はい」


「わかった。じゃあそうしよう」


私達は、刈れるだけの草を刈り、街に戻った。


私は団長達に使い方を教えた。


翌日―――


「団長。おはようございます」


「ヤジーか。あれ効くな。採用だ」

団長の顔が少し元気そうだ。


「よく眠れたのですか?」


「あぁぐっすりだ。あんなに眠れたのは、ここに来て初めてだ」


「そうですか。よかった」


「それで、楽にできる方法は考えたか?」


「楽にできる方法ですか?」


「あぁもちろんだ。楽に虫除けできる方法だ。考えたのか?」


「いえ。考えていません」


「いいか。

私は基本的に皆の裁量に任せている。

ただな。

楽にできる方法を取らせるようにしている」


「そんな。いいんですか?」


「もちろんだ」


「では、あの草をこの街中に植えましょう。

それなら私が回収しなくても良い。

とても楽だ」


「それは良いアイデアだ。しかし、それで問題は起きないか?」


「問題?」


「あぁ画期的なアイデアは、何かを犠牲にする事が往々にしてある。その盲点を探すのも、行政官の仕事だ」


「わかりません」


「まぁ、とりあえず、街中をくるくる回って一日考えろ。

全体にあの草を植えるとなると、それなりに時間がかかる」


「はい」


私は街中を一人歩くことにした。


街中は王都とは違っていた。

何もかもが素朴だった。

無駄な飾りなんて一つもなかった。


はじめは、

それが寂しく思えたが、

しだいに、

それが美しく思えた。


道には色んな草が生えていた。

この草をあの草に替える。

便利で有益じゃないか。

そう思えた。

あちらこちらでイメージした。


すると、

街中が王都に見えてきた。


あぁそうか。

王都は人間に有益な物を集めた結果、

できた街並みなのか。


そう思えた。


私の今やっている事と、

王女が私にやった事と、

いったい何が違うのか?


王女にとって有益なのは、

自分達を守るための保身。

それで不正を正さなかった。


王女にとって不利益なのは、

不正を暴こうとする私。

それで私を追放した。


そして、

私は夜眠れない。

そして、

草刈りをしにいくのが面倒という理由で、

街の植物達を追放しようとしている。


王侯貴族が卑劣で傲慢だと、

心の中で否定しながら、

自らが権力を得た時には、

同じ事をする。


自己嫌悪と同時に、

これは人の特性なんだと、

理解もした。

だから、

やはり恨むのではなく、

事務的に流そうと、

そう思った。


しかし、

事務的に流す。

それは草を街中に生やすという事か。

いや、

それは違う気がする。


わからなくなったので、

私はシェーヴルに会いに行った。


シェーヴルは一人本を読んでいた。


「シェーヴルさん。おはようございます」


「あぁおはよう。昨日はよく眠れた。あれは良いものだ」


「本を読んでいらしたのですか?」


「まぁ、これも仕事のうちだ。それでどうした?」


「あの草の件で、住民の分を手配するという」


「あぁ」


「街中に植える事を考えたのです」


「まぁそれは便利そうだね」


「しかし、団長に『良いアイデアだが問題は起きないか?画期的なアイデアは、何かを犠牲にする事が往々にしてある。その盲点を探すのも、行政官の仕事だ』と言われました」


「それで盲点は見つかったのかい?」


「盲点と言えるかどうかわかりませんが、他の草を追い出すというのは、私が王都で受けた事とまるで同じだと、そう思いました」


「確かにね。心情的にそこに反感を持つ住民も出てくるだろう」


「そうですよね」


「しかし、君の一つの場所にまとめて植えるというのは、悪くないアイデアだと思うよ」


「そうですか」


「あぁ、それと団長に『楽をしろ』と言われたんだろ」


「はい」


「なら、そこから話を膨らませて、楽ができる方法を模索したら良い」


「たとえば、街の近くに、あの植物の群生地を作り、自由に取っても良いとするのは?」


「悪くないだろうね。ただ取りすぎる者がいるかもしれない。商売を始める者がいるかもしれない」


「監視しますか?」


「それで君は楽かい?」


「いえ。面倒です」


「よく考えてごらん」


「よくですか……」


「いっその事配給なんかしなければ良いのでは?」


「団長は配給しろと言ったのか?」


「住民分を手配してくれと言われました。

たしかに配給しろとは言われてはないです」


「ヤジー。君は行政経験があるから、わかるだろうが、行政サービスを皆が使うか?」


「いえ。使いませんね。図書館など、いつもガラガラです」


「そうだろう」


「なるほど。私は群生地を一つか二つ確保して、この草で虫除けができると宣伝し、あとは皆さんに任せたらいいのですね」


「そういう事」



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