善と悪
私は責めるきっかけをなくしてしまった。
そもそも、
責める必要があるのか。
悪いのは王国だ。
でも、
煮え切らない。
「悪いのは王国です。でも煮え切らない」
「それで良い。私も同じだ。常に煮え切らない」
団長はじっと私を見る。
悪……、
心の中で形にしようとしても、
すぐに消えていってしまう。
悪……、
そうか、
私は今王国の民の中では、
私こそが悪なのか。
「団長、教えてください。善とは?悪とは?」
「善と悪だって?君はずいぶんと難しく考えたがる。単純だよ。善と悪は、お化粧のようなもの」
「お化粧?」
「あぁ私達の送った告発文を見て、どう思った?善か悪か?」
「善です。だから告発した」
「あれが善の化粧だ」
「善の化粧」
「あぁ貴族の不正の告発というのは、一見すると善のように見える。だがしかしだよ」
「はい」
「治安維持を掲げる王国からすればどうだ?」
「不正は取り除かないといけないのでは?」
「君はわかっていないな。不正というのは、ただそこを切れば済むという問題でもないのだよ。一つを切れば、芋づる式につながってくる。あの下級貴族の不正も、蔓をたどれば王室につながる」
「だから王女は」
「あぁそうだ。下級貴族を罰すれば、自分の身も危うい。そんな事に助力すると本当に思うのかね」
「いえ、思いません」
「そうだろう。だから王室はヤジー君に悪の化粧を施した。追放される前、どんな噂が立ったか知っているだろう」
「はい。とんでもない嘘ばかり」
「それが悪の化粧だ」
「つまり事実は、それがどうであれ、悪にも善にも見せることが出来うると」
「現実にはどうかはわからんが、それが政治というものだ」
「私はどうやれば、善人になれるのですか?」
「善人?君は善人だと信じ行動し、そして悪人になったじゃないか?」
「それでも善というのはあるはず。
団長を信じれば、善人でいられますか?」
「そんな事は知らないよ。
私も含め、ここの連中は追放されたものばっかりだ。
追放したところに恨みはある。
でも別に復讐しようと思う連中ばかりじゃない」
「団長は復讐心はないのですか?」
「ないと言ったら嘘になる。でもそんな事より、この団の存続のほうがよっぽど大切だ」
「善に生きようと思わないのですか?」
「だから言っただろう。善も悪も化粧みたいなものだと」
「それじゃあ王国と一緒じゃないですか!」
「ヤジ―!言いすぎよ。団長になんの恨みがあるの」
クロタンは叫ぶ。
「恨み?ありますよ。あんた達の手紙がなければ、私は王国の中で妻とノンビリ生活ができた。それがたとえ、虚飾に満ちた世界でも……」
「じゃあ私たちが手紙を送らなかったら、お前は幸せだったのか?」
団長はため息を吐くように呟いた。
「わかりませんよ。わかりません。でも静かには暮らせたでしょう」
「そうか……、そうかもしれんな。ところでヤジ―君。君は本が好きか?」
「本ですか?もちろん好きです」
「なぜ好きなんだ?」
「新しい知識を与えてくれるからです」
「知識を得て、後悔したことはあったか?」
「ありました。知った事がショックで、でも今となっては、知ってて良かったなと思います」
「そうか。それは全ての知識における共通点かもしれない」
「後悔することですか?」
「あぁ知識というのは、大なり小なり、既存の認識を壊す。今回の件もそうだ」
「あれも、本を読んだのと同じ。私は追放されたのですよ」
「それは君が行動したからだ」
「そうですが……、あの手紙は行動を促した」
「促されたのは、君だけだ」
私は頭の中がゴチャゴチャしてきた。
「あぁ、もう良いです」
「それで君はどうする?」
「どうって、行くところないですから、ここで雇ってもらいます」
「あぁ、もちろん構わない。私達はいつでも歓迎さ」
「それで何をしたら良いですか?」
「そうだな。行政官として、システム造りに力を貸してほしい」
「そんな私をですか?団長に恨みがあるかもしれないのですよ」
「そうだろうな。それがどうした?」
「変な事をするかもしれない」
「君はそんな事ができる人間か?」
「いや、そうじゃないですけど」
「ヤジー君。ここに来る連中はね。よく言えば愚直。悪く言えば、馬鹿正直で要領の悪い人間ばかりなんだ。そんな奴が王国の連中のように、不正を働けるわけないだろう」
「ずいぶん信頼しているんですね」
「あぁ。王国が排除する連中はみんな馬鹿正直だという事をな」
団長は力なく笑った。
食事を済ませ、
私は部屋を与えられた。
明日から仕事、
今日はゆっくり休めと言われた。
翌朝、
私は団長の元を訪れた。
「おはようございます」
「よく眠れたか?」
「疲れて眠りはしましたが、寝床に虫が多くて」
「そうか。最近虫が多いとよく聞くな」
「虫よけのハーブは置かないのですか?」
「なんだそれ?」
「寝床につく虫が嫌がる野草があって、それを撒くと、虫が減ります」
「そんなのがあるのか?」
「はい。この近辺にもあると思いますよ」
「そうか。じゃあそれを住民分手配してくれ」
「住民分ですか?何人いるのですか?」
「3000ほどかな」
「私一人で?」
「あぁ」
「何から始めれば?」
「お前は行政官だ。国民の生活を守るのが仕事。お前が考えろ」
「予算は?」
「予算はない。土地は使え。人も暇な奴を使え。わかったか?」
「せめて、はじめだけでも、だれか付けてくださいよ」
「たしかにな。シェーヴル!シェーヴルはいるか!」
「はい。団長お呼びですか?」
「あぁ。なんだっけ。ヤジー説明しろ」
「はい。シェーヴルさん。おはようございます。昨日はどうも」
「あぁ、よく眠れたか?」
「それなのですが、虫が多くて、眠れなかったんですよ」
「あぁ、虫がよく出るな。私も昨日刺されまくって、ほら背中を見てくれ」




