団長
私は食堂に案内された。
御者の男は、
馬の手入れがあるからと、店には来なかった。
テーブルに座る。
「俺ら三人は肉定食。こいつはパン粥」
坊主頭の男は注文をする。
「あの、私お金を持っていないのですが……」
「ここに来る連中は皆そうよ。でも大丈夫。タダで食わせて貰える。でも働いて貰うわよ」
女は笑った。
「仕事をさせて貰えるのですか?」
「行政官なら読み書きできるだろ」
坊主の男は言った。
「ちょいちょい。その前に自己紹介しとこう。私はシェーヴル。治癒士の女がクロタン。坊主頭の騎士がヒンザだ。あんたは?」
シェーヴルが言った。
「私はヤジー。元行政官です」
「お待たせ!」
食事が運ばれる。
「まぁ腹が減ったし、まず食おう」
ヒンザの言葉で、皆勢いよく食いだす。
私もあわてて食べようとするが、
「ゆっくり、ゆっくり食べなさい。胃がショックを受けるから」
とクロタンに制止された。
「あの胃の痛みは強烈だからな。死にそうになる。ほんと危ないからゆっくり食べとけ」
ヒンザの目は真剣だった。
「まぁ彼は経験者ですから」
シェーヴルは苦笑いをする。
私はゆっくりと味わって食べることにした。
パン粥にこんなに滋養を感じる日がくるとは、
思いもしなかった。
救われたと思いながら、
追放された者達と聞いて、
周りを見渡している自分がいる。
いくばくかの警戒感が、胃を締め付ける。
「追放者だと思って警戒してるんだろう」
ヒンザは笑った。
「いえ。そんな……」
言葉を濁すが、
明確に否定もできずにいる。
「団長!」
声がする。
見ると店の者が皆、
扉の方向を見た。
「団長!こっちです」
ヒンザが手を振っている。
団長と呼ばれる男は、
あちらこちらに愛想を振りまきながら、
こちらに来た。
「君が……」
団長は言った。
「ヤジーです」
私は立ち上がり頭を下げた。
この人はこの組織の上役に間違いない。
そう確信した。
「ヤジー君か。私はヒンジャ、暁のヤギ団の団長だ」
ヒンジャとヒンザ似ているな。
親戚か何かなのか?
「あっ言っとくが、名前は似てるけど、親戚でもなんでもないからな」
ヒンザは笑った。
「団長。こっちの席に座ってくれ」
ヒンザは椅子を渡す。
「団長、食事は?」
「肉定食を頼もうか」
「おい!団長に肉定食」
ヒンザは声を張り上げる。
「それで彼の前職は?」
団長は尋ねた。
「私は行政官です」
「なるほど行政官か……」
団長は考え込む。
行政官が活かせるポストはないのか。
自分が緊張しているのが、
ハッキリとわかった。
食堂の喧騒の中、
このテーブルだけが静かだった。
「肉定食お待ち」
「まず食べるわ」
団長は肉を食べだした。
皆もつられて食べる。
私もどうでも良い気分になり、
パン粥をすすった。
「パン粥か……」
団長が呟いた。
この団長もパン粥に思い出があるのか。
そうか……、
この団長も。
重たい何かを持っているんだ。
じゃあ、
きっとパン粥なんか見たくないだろうな。
「すみません。パン粥なんか見せてしまって」
私は唇を噛んだ。
「まったくだ」
団長は肉を置く。
テーブルは静かになる。
やはり、
嫌な思い出が……。
出だし早々失敗とは……、
いやでもこれは私が悪いのではない。
あぁ。
でも追放も私が悪いのではないのに。
そうか。
運が悪いのだ。
「すまん!私にもパン粥をくれ」
団長は手をあげた。
「やっぱりな」
ヒンザは頷く。
「そうだと思った」
シェーヴルは笑う。
「私も注文しよう」
クロタンは手を上げる。
「すみません。パン粥を3つ追加」
クロタンは大きな声を出す。
パン粥がテーブルに届けられる。
「やっぱりパン粥はうめぇな」
団長は笑う。
「ほんと。新人連れてきた後のパン粥は最高だ」
ヒンザも頷く。
シェーヴルとクロタンも無言で食べている。
「あの……嫌な思い出では」
そう言いかけ、
言葉が途切れた。
「野垂れ死にしそうになった後のパン粥は最高の味だった」
ヒンザは笑った。
皆頷く。
「このパン粥の味はな。敗北の味じゃなくって、未来へのスタートの味なんだよ」
団長は寂しそうに笑った。
敗北の味。
その言葉に団長が生きてきた世界の重みを知った。
「私もスタート地点に立てているのですか?」
私は尋ねた。
「あぁ。ようこそ暁のヤギ団へ」
団長は手を差しだした。
私は団長と固く握手をした。
「それで何から話そう」
団長は呟く。
「まずは兵役。軍事訓練からではないですか?」
ヒンザは言った。
「じゃあヒンザ頼む」
「では。俺から説明するな」
「はい」
「まずこの暁のヤギ団は、女子供老人関係なく、皆が軍事訓練と兵役を受ける」
「皆がですか?」
私は危うさを感じた。
「危うさを感じるだろ」
「いえ。まぁ」
答えになっていない。
こちらの考えは筒抜けなのだろう。
「なぜ全員なのですか」
「これはな。戦争に勝つとか、そういう理由ではない。外敵が侵入してきた時、一人でも身を守れるようにだ」
「つまり、自分の身は自分で守れと」
「まぁ結局はそうなるが、よく考えてみてくれ。
ここは見ての通り三方崖で守られている天然の要塞だ」
「はい」
「だから守るのは、基本前方だけで良い」
「はい」
「では、もし外敵が侵入してきたとなると、どんな事態だ?」
「全体にとって危機ですよね」
「そうだ。全体にとって危機の時に、誰かを守れる余力はあるか?」
「難しいと思います」
「そうだろ。つまりこの場所は自然によって守られている。しかしそれをも凌駕する脅威が現れた時、うちらにとっても余力はない。だから自分の身は自分で守れるようにしておくんだ」
「あの……、健康上の問題がある者もですか?」
「あぁ。それな……」
ヒンザは目を伏せる。
「ここにはね。健康上の問題がある者はいないの」
クロタンは言った。
「皆が健康だと?」
「あぁそうだ。ただ厳密には……」
ヒンザは言葉を濁す。
まさか。
このゴートタウンでは、健康上の問題が出れば、
スケープゴートにしてしまうのか?




