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告発状

3か月前ーーー

私は一通の告発状を受け取った。

そこには下級貴族の不正がこと細かに記されていた。


私は戸惑った。

下級貴族とはいえ、直属の上司に言っても揉み消される可能性が高い。

しかし、

告発状をなかった事にできるほど、

私は穢れていなかった。


そこで、

私は王女にこのことを託す事にした。

王女は私の学友だったのだ。


彼女なら…

そう期待した。


彼女は、

今遠くから薄ら笑みを浮かべて、

こちらを見ている。

王女は下級貴族をかばい、

学友である私をスケープゴートにしたのだ。


王女の近くにはあの下級貴族がいた。


この国の闇は、

想像以上に深かった。


……


王国を追い出された私は、

ただひたすら西へと向かった。

持っているのは、

粗末なカバンに詰め込んだ食料と短剣と毛布、そして水筒。


追放される前に、

家族とは縁を切った。


妻は反対をしたが、

追放者の末路は哀れだ。


だから、

「足手まといになる」

そう捨て台詞を吐いて、

私は逃げ出した。


道中数体のしゃれこうべを見た。


生前あったであろう肉がかけ、

空っぽになった……、

しゃれこうべ。

「次はお前だ」

と薄ら笑みを浮かべているようでもあり、

「お前はこうなるなよ」

と警告を示しているようにも感じた。


しゃれこうべ、しゃれこうべ、しゃれこうべ……、

私は意味もなく呟く。


脳の中では、

延々と複数の小さな私が、

問答をしあっている。


「いったい誰だ。

告発状など私に届けた奴は。

追放されたじゃないか」


「告発状を書いた奴は、消されているよ。

お前のようにな」


「王女よ……、

あんなに美しい顔をして、

よくこんなにも残酷なことができる」


「王女はお前と貴族を天秤にかけたのさ。ただ選ばれなかっただけさ」


「そもそも平民が、貴族と渡り合おうとしたのが、運のつきさ」


「お前も知っていただろう。この国の闇を」


「想像以上に深かったのさ」


「お前の同僚はさぞかし痛快だろう。強力なライバルがこのざまなのだからな」


うるさい黙れと叫べば、数分は静かになった。


正義感という果実を求め、

行政官という安定した職業を捨てた。


いや……、

捨てさせられた。


この国では行政官とは、

王族や貴族の不正を暴くものではないのだ。

むしろ見えなくする為に存在しているのだ。


そんな風に思えた。


「だったら……、

私も誰かをスケープゴートにすれば良かった」

私はそう呟いた。


私は思わず吐き気を催した。


自分の中にも、

奴らと同じ……、

思考が存在している。


その事実に、

心をえぐられた。


「醜い醜い醜い醜い醜い」

私は言葉を連呼する。


私は天を仰ぎ見る。


「神よ!あなたはなぜ正義を見捨てられた」

そう……、

小さな声で叫んだ。


声をふり絞る気力は私にはなかった。


そして、

この期に及んで、

神を非難する勇気はなかった。


私は下級貴族を告発した。

正しい事だと思う。


……正しいことだったはずだ。


そうでなければ、

私は何のためにすべてを失ったのだ。

しかし、

結果、追放され、

明日を探してフラフラしている。


このうえ神にまで見放されたら。

私に何が残るのか。


だから大声では叫ばない。

だから小さな声で叫ぶ。

これが私にできる最大の抵抗だった。


……


そして数日が経った。


何が起きたか覚えていない。

ただ歩いた。

川を見つけては、水を汲み、さらに歩いた。

食料も尽き果てた。


ずいぶん貯金をしたが、

貯金は全て妻にやった。


どうせ追放される前には、

一文無しになる。


だったら、

妻にやったほうが、

生きる糧にできる。


私と妻の両親は一言。

「馬鹿正直なんだよ」

そう言った。


共感の言葉も、

なぐさめの言葉も、

そこにはなかった。


実を言うと、

共感の言葉を言われたら、

「私の気持ちなんかわからないクセに」

そう言おうと準備をしていた。


なぐさめの言葉を言われたら、

「なぐさめなんか必要ない」

そう言おうと準備をしていた。


だのに……、

「馬鹿正直なんだよ」


その一言か……。


あぁたしかに馬鹿正直だ。


しかし、

もう少し言いようがあるだろう。

そんな風に思いつつ、

私が両親の立場でも、

同じ言葉を使ったかもしれない。

そうも思えた。


結局、悪者はいなく、

ただ保身で人は生きるのだ。

そんな風に思えた。


では……、

始めの悪はどこから始まる?

それも保身なのか?


そう思った瞬間。

意識は途絶えた。


……

ガタゴトと身体が揺れている。


私は目を開ける。


私は荷馬車に乗っていた。


「おぉ気がついたか」

坊主頭の屈強な男はそう言った。

黒い長髪の男。

金色の長髪の女。

そして小柄な男が手綱を握っている。


こいつらは何者だ。

盗賊か……。


「あなた達は?」

そう尋ねた。


「お前は王国の者だろ。追放者か?」

坊主頭の男は尋ねた。


「はい」


「何をやってた?」


「行政官です」


「じゃあ不正の告発か?それで追放か?」


「そうですが……」

なんだコイツは。

やけに詳しい?


「なんだコイツらは、って顔してるわよ」

女は言った。


「あぁうちらはな。お前と同じ追放者だよ」

坊主頭の男は笑った。


「私と同じ追放者?」


「俺は元騎士。そっちの女は治癒士。長髪は学者だ」


「私は御者です」

小柄な男は言った。


「あの……、この馬車はどこに向かっているのですか?」


「暁のヤギ団。スケープゴートにされた人たちが集まるコロニーだ」

坊主頭の男は私の肩を持つ。


「見えてきましたよ」

御者の声がする。


私は外を覗き込む。

そこには三方崖に囲まれた大きな町があった。


「ようこそ!ゴートタウンに」

女は言った。


馬車は丸太でできた大きな門をくぐり、

中に入っていく。


建物は王国のモノより素朴ではあったが、

機能的には申し分なさそうだった。


あちこちで美味しそうな匂いがしている。


(ぐぅ~)

お腹が鳴る。


「お前。どれくらい飯を食ってない?」

長髪の男は言った。


「たぶん3日間くらい」


「じゃあ、まずはパン粥からね」

女は言った。


「俺らは肉を食うから、お前はパン粥を食っとけ」

坊主頭の男は笑った。



もし「続きを読んでみたい」と思っていただけたら、

ブックマークしていただけるととても励みになります。


本作はすべて完結済みで、安心して最後まで読めます。


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