バーター取引
「農家さんが言うには、藁に尿をすると、臭いがマシになるし、乾燥すると」
「たしかにそれはあるかもしれませんね」
「そしてその尿のついた藁を回収して堆肥化すると、おそらく肥料になるだろうと」
「はい。続きをどうぞ。最後まで聞きますので」
「答えは出たのですが、問題は引受先です。ここで止まってしまった。そして話している時に花売りの少女に出会い、孤児院の話を聞いたのです」
「院長先生。帰りました。あれさっきのお兄さん」
「あぁ、さっきはありがとうね」
「この子からお花を買ってくださったのね。ありがとうございます」
「いえいえ」
「そうですね。藁はどうされるおつもりですか?」
「それは考えていませんでした。住人の方に準備していただこうと」
「あの……、うちの孤児院から藁を住民の方に売るのはどうですか?」
「団長に聞いてみないとわかりませんが、それでどうされるのですか?」
「売る度に、古い藁を回収するのです」
「あぁ。つまり……」
「院長先生。なかなか賢いですね。つまり孤児院側は、藁を売ることで利益を得る。そして藁を回収して堆肥化することで、肥料代をタダにすると。そういう事ですね」
シェーヴルは笑みを浮かべる。
「そういうことです。
子供達の生活がかかってますからね。
宗教者といえども、商売人になりますよ。
ただ本当に堆肥として使えるか。
それは試させてくださいね」
院長は笑った。
「ヤジー君。良い話だと思うよ。どうせ藁は必要になる。そして回収も必要だ。孤児院と住民の間に立って、交渉していけば、話はまとまるんじゃないかな」
シェーヴルは言った。
状況は理解した。
「団長に一度相談してみます」
私は答えた。
「そうだね。じゃあ行こうか」
シェーヴルは笑った。
院長は見送ってくれた。
私達は団長の元に向かう。
「団長」
「おぉ、決まったか?」
「はい。一か所に集める案を考えましたが、風下だと王都にバレる可能性があり却下しました」
「道理だな」
「次に穴を掘って溜める案を考えましたが、地下水に混入すると汚染される可能性もあり、却下しました」
「それで」
「最終的に残った案が、藁などに尿をしみこませ、定期的に回収し、それを堆肥として活用する案です」
「それ良いじゃないか。引き取り先が問題だよな」
「一つ。孤児院が引き取る可能性があります」
「条件があるって事だな」
「孤児院が藁を売る。住民が買い取る。孤児院が尿の染みこんだ藁を回収という案です」
「なるほど。良いだろう。しかし子供達にさせるのは、申し訳ない気がするな」
「そうですね」
「まぁいいか」
「問題はないですか?」
「そんな事。わかる訳がねぇだろ。とりあえず、ここらの区画で試験的にやってみろ。上手くいったら、街全体に広げる」
「はい」
それから私は、
住民に説明に回った。
藁の価格は回収費も含め、
通常の価格より、
三割ほど高く設定した。
意外とあっさりと進み、
街の臭いは大幅に削減された。
取り組みは全区画に広がり、
孤児院の収支は大幅に改善され、
食事や教育面でも、力を入れられるようになった。
「ヤジー。お前の案、良かったな。
臭いが無くなるだけだと思っていたが、孤児院の問題まで解決しやがった」
「たまたまです」
「たまたまにしろだ。ありがとう」
「団長大変です!」
ヒンザが血相を変えてやってきた。
「どうした?」
「パサン族の連中が攻めてきました」
「またあいつらか。行くぞ」
「はい」
ヒンザは団長についていく。
絶対厄介事だ。
私は知らぬふりをして、
立ち去ろうとする。
「良かったな。初陣だ」
ヒンザは私の首根っこを掴む。
「あの……、私は行政官なので」
「もちろんだ。この街では戦には全員参加だ。差別はねぇよ。安心しな」
ヒンザは楽しそうだ。
「ちょっと待ってください。
パサン族って、そもそもなんなのですか?」
「国境沿いをねぐらとする部族だ。
普段は大人しいが、なにかあると好戦的になる。これまでも十回ほど戦った」
「なにかあると好戦的になるんでしたら、話し合いをしては?」
「話し合い?何故?」
「いや。何か理由があるのなら、聞きましょうよ」
「あいつらは、いきなり攻撃をしかけてくる。現に今も戦ってる」
そんな話をしてると、
もう街の防壁の所までやってきた。
「ほら見ろよ」
ヒンザは言った。
パサン族の男たちがいた。
屈強な肉体に、全身に入った刺青。
(ウォー)
槍を持ち、雄たけびを上げている。
(ずんどこずんずん。ずんどこずんずん)
男たちの周りを子供達が太鼓を叩いて鼓舞している。
「話し合いしそうに見えるか?」
私は思った。
まったく見えない。
しかし、
言い出した手前。
どう言おうか迷っていた。
「そうかヤジー。お前は勇気があるな」
団長は言った。
「はっ?」
「交渉しに行こう。そう思っているんだろう」
「いや。あの」
「そうみたいだ団長。俺は止めたんだが」
「ヒンザ。男が決めたことを、止めたら駄目だ」
ちょっと待ってくれ。
「良し行ってこい。帰ってこれたら、パン粥を奢ってやる。
皆縄梯子を降ろせ。
ヤジーが、ヤジー行政官が話をしに行く」
団長は叫んだ。
攻撃はパタッと止まる。
パサン族の太鼓の音も止まった。
ひけない。
あぁ、
もうひけない。
私は縄梯子を一歩一歩と降りていく。
地面に着くと、
揺れて気持ち悪かったのか。
少し吐き気がした。
上を見上げると、
団長とヒンザが笑っているように見えた。
おいおい。
悪い冗談だ。
ちょっと待てよ、
パサン族とは言葉が通じるのか。
私は手を挙げ、
攻撃の意思がない事を示す。
屈強な男二人が俺に近づき、
武器がないか確認する。
武器は街に置いてきた。
完全に丸腰だ。
私は長の元に連れていかれる。
「行政官のヤジーです」
「パサン族の族長だ」
「今日はなぜ攻めに?」
「病気が流行った。だから薬を奪いに来た。お前を人質に薬奪う」
「病気が流行ったと。どのような病気ですか?」
「わからない。
呪術師でも治らない病。
呪術師言った。
あの街なら治せるかもしれないと。
だから奪う」




