その先に居場所はあるのか?
なるほど、
この人達には交渉という考え方がないのか。
「わかりました。治癒士と学者を連れて行きましょう。ただし兵は引いてください」
「お前ら嘘つく」
族長は睨みつける。
「嘘をついたら、また攻めてきたら良いではないですか」
私は笑みを浮かべた。
余裕の笑みではない。ただの諦めの笑みだった。
「お前の目。嘘つきに見えない。信じてやる。では呼んで来い。兵は引く」
パサン族は数名残してねぐらに戻って行った。
私は縄梯子を再び昇る。
「団長。
病気が流行ったから薬を奪いに来たそうです。
治癒士と学者を連れて行くと言いました」
「そうかそうか、じゃあシェーヴルとクロタンの出番だな。誰か呼んで来い」
団長の声に、
二人が呼ばれる。
「パサン族が病気で困っているそうだ。ヤジーと共に行ってくれ」
「はっ?
どういう事?
殺されるかもしれないじゃない。嫌よ」
クロタンは突っぱねる。
「そうか。じゃあヒンザ!お前は護衛として付いて行ってやれ」
「ちょっと団長!」
「あれ?ヒンザさん。もしかして怖いんですか?」
私は少し仕返しをした。
「ふん。怖くなんかねえよ」
「私は行くのは平気ですよ」
シェーヴルは笑った。
「怖くないの?」
クロタンは目を細める。
「知らない部族だぞ。楽しいじゃないか。それに知らない薬草だってあるかもしれない」
「そうね。知らない薬草があるかもしれないわね。まぁいっか。行きましょう」
私達は、
パサン族の男達についてく。
パサン族の集落は歩いて2時間ほどの所にあった。
「ここだ」
パサン族の集落は、異様な臭いで包まれていた。
「族長連れてきました」
「こっちだ」
族長は病人の元に案内する。
「皆腹を壊している。昔は木の実でなんとかなったが、わからない」
「シェーヴル。これは何だと思う?」
クロタンは眉を顰める。
「集団食中毒だとすれば、食べ物か……水が原因だな」
「皆同じものを食べているの?」
クロタンは尋ねた。
「だいたい同じ」
「しかし、それだと全員が腹を壊していないとおかしい」
「あの……、水の汚染では?」
私は言った。
「族長。水場はどこに?」
シェーヴルは尋ねた。
「上と下、二か所ある」
「患者はどちらかの住人?」
クロタンは尋ねた。
「あぁ下だ」
「シェーヴルさん。糞尿で下の水場が汚れている可能性が高そうですね」
「あぁ。族長!下の水場は汚染されている。しばらくは飲まないでおいてくれるか?」
「わかった!
おいお前ら、あの街の呪術師が、下の水場は穢れていると言った。しばらく飲むな」
「族長。糞や尿はあちこちでしているのですか?」
私は尋ねる。
「だいたいあそこら辺だ」
原因はわかったが、
どう伝えよう。
説明は理解できるのか?
「族長。あの病の原因は、糞や尿をあちこちでした事が原因で、土地の神様が怒っているのです」
シェーヴルが言った。
「それは本当か?おい呪術師を呼んでくれ」
族長は呪術師を呼んだ。
「この男は、糞や尿をあちこちでした事が原因で、土地の神様が怒っていると言っている。正しいか?」
「そうだと思う。この男は嘘は言っていない」
「では、お前は何故わからなかった?」
族長は呪術師を睨みつける。
「この土地には複数の神様がおられる。力のある呪術師でも、全部の神様の話が見れるわけではない」
シェーヴルは族長を制止する。
「そうですよね」
シェーヴルが言うと、呪術師は頷いた。
「どうしたら神様は許してくれる?血を流すか?」
「この神様は血を流せば、余計に怒る。そうではないです」
「ではどうする?」
「まずは乾いた糞を集め、火の神様に捧げます。まずは火の神様のご機嫌を取りましょう」
「おい。乾いた糞を集めろ!全部だ!全部集めて持ってこい!」
族長は叫ぶ。
多量の糞は一気に燃やされる。
生乾きの糞も近くに積まれ、
乾いて引火して、
燃えていった。
その間、
クロタンは、水を沸かさせ、患者に薄い塩味のぬるま湯を飲ませていた。
「塩気のある薄いぬるま湯を少しずつ飲ませて。腹を壊しているからって、水を止めたら駄目よ」
悪臭は徐々に薄まり、
パサン族の者達の顔も徐々に穏やかになってきた。
「臭くなくなった」
族長は言った。
「糞を放置すると、神様は怒ります。これからも糞を乾かし、燃やして暖にしてください」
シェーヴルは言った。
「暖まっても良いのか?」
「えぇ、もちろん」
「乾いていない糞はどうする?」
「乾くまで置いておき、乾いたら燃やします。
糞に灰をまぶしておくと臭いが減ります」
「そうか。みんなにやらせる」
「あと尿は葉っぱや枯草などに染みこませて、溜まったら堆肥にしてください」
「そうか。それで神は機嫌が良くなるか?」
「はい。機嫌が良くなります」
「しかし、ずいぶん神様を怒らせた。
誰か生贄にするが、誰が良い?呪術師か?娘か?」
「生贄はあの糞達です。そして今度堆肥になる尿達が生贄です」
「そうか。神様はいらない物が好きなのか……」
「そうなのでしょう」
シェーヴルは笑顔を見せた。
私は族長の、
『神様はいらない物が好きなのか』
という言葉がやけに気に入った。
王都からいらない物とされ、追放されたゴートタウンの皆。
ゴートタウンのいらない物だった糞や尿。
全てが繋がり、形となった。
そして、その考えは、
無駄なスケープゴートを減らしてみせた。
智恵があれば、
スケープゴートなんて、必要ないのかもしれない。
それでも今日もどこかで、
野に山羊は放たれるのだろう。
山羊は生命力が強い。
誰も食べない草を文句ひとつ言わず食っていく。
捨てられた山羊は、今もどこかで生きている。
その先に居場所はあるのかって?
違う。
捨てられた山羊は、
居場所を作ることができるのだ。
それほどまでに、
生命力が強いからこそ……。
選ばれたのかもしれない。
そう私は思いたかった。
運命を肯定するために……。
END
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
この作品は完結していますが、
反響があれば続編を書く可能性があります。
ブックマークしておくと、もし更新された場合に追いやすくなります。
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