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「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん
第2章 『黒猫の魔導王と、美食を求める乙女たちの行進 〜淀んだ大地を七色に塗り替えろ!〜』

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第88話:刻印の囁きと、宵闇の帰還

(設定反映:旧市街の噴水の底に刻まれた謎の刻印、ノアの鋭い洞察、宿屋への帰路。三点リーダーを完全に排除し、1500字以上のボリュームで描写します)

第88話:刻印の囁きと、宵闇の帰還

旧市街の噴水の底から溢れ出した水は、長い間溜まっていた濁りを洗い流し、その奥深くに刻まれた「真実」を露わにしていた。

アルマが身を乗り出して覗き込んだその場所には、石の肌を抉るようにして彫られた、禍々しくも精緻な幾何学模様が存在していた。

それは、学園の地下で見たゼノンの術式よりもさらに古く、まるで地脈そのものに直接楔を打ち込んだかのような力強さと冷酷さを併せ持っている。

「これ、ただの噴水の装飾じゃないよね。魔力の流れを強引に捻じ曲げているような、嫌な感じがする」

アルマが指差すと、ノアはフードから身を乗り出し、金色の瞳を細めてその刻印を凝視した。

普段は傲慢な態度を崩さないノアだが、その時は髭を微かに震わせ、深い思索に沈む賢者のような横顔を見せていた。

「フン。小娘のくせに感覚だけは鋭いな。左様、これは『魔力抽出的封印』の変形種だ。地脈から湧き出す純粋な循環を、ある一点の座標へと強制的に転送するために設置された、いわば魔力の吸い口よ。この旧市街が澱んでいたのは、単に魔力が枯渇したからではない。この刻印が、再生しようとする地脈の芽を摘み取り、どこかへ送り続けていたからだ」

「どこかへ送るって、どこに? そんなことして、一体誰が何の得をするのよ」

キャスカが剣の柄に手をかけたまま、周囲の廃屋を警戒する。住民たちが去り、再び静寂が戻った広場には、新しく湧き出した水音だけが虚しく響いていた。

「それが分かれば、我も苦労はせん。だが、この術式の構成、そして魔力を『腐らせてから回収する』という悪趣味な手法。……いや、今は推測の域を出んな。アリス、貴様のその無駄に高い記憶力を使って、この刻印の配置を正確に写し取っておけ。学園の禁書庫に、これと似た体系の記述があったはずだ」

「失礼ですわね、わたくしの記憶力は無駄ではありませんわ。……ですが、確かに見覚えがあります。王立魔法アカデミーの創設期、異端として排除された『外典魔導』の記述に、これと酷似した文様があった気がしますわ」

アリスは手早く記録用紙を取り出すと、杖の先に小さな光を灯し、噴水の底に刻まれた文様を精密に写し取っていった。

ジャムもまた、その横で噴水の構造そのものを解析し、術式がどの程度の深さまで地脈に干渉しているかを数値化していく。

「……深い。……地下、……さらに奥まで、……根を張ってる。……この噴水は、……ただの末端」

ジャムの報告に、アルマは背筋に冷たいものが走るのを感じた。

自分たちが今、循環の種で浄化したのは、あくまで表面上の澱みに過ぎない。

この街の、あるいはこの世界の地下には、もっと巨大で邪悪な「循環を拒む仕組み」が張り巡らされているのではないか。

「ノア、私たち、とんでもないものを見つけちゃったんじゃないかな」

「何を今更。真理の旅とは、常に絶望の皮を一枚ずつ剥いでいく作業だ。だが案ずるな。貴様の持つ循環の種は、その絶望を上書きするために存在する。おい、アリス。写しは終わったか。宵闇が迫っておるぞ。これ以上ここに長居するのは、空腹という名の宇宙的危機を招くだけだ」

ノアがそう言ってアルマの肩を叩くと、緊張感で張り詰めていた空気がふっと緩んだ。

確かに、空を見上げれば茜色の空は急速に藍色へと塗り替えられ、旧市街の影はより深く、より長く伸びていた。

一行は住民たちに見送られながら、旧市街の入り口へと引き返した。

ケットル先輩の特製袋の中には、住民たちから贈られたパンやドライフルーツ、そしてアリスが写し取った「謎の刻印」の記録が収められている。

物理的な重さは魔法で相殺されているはずだが、アルマは自分の背負っているものの重さを、これまでになく強く実感していた。

「ねえ、アルマ。怖くないの? 学園を飛び出して、こんな世界の裏側みたいなものに触れちゃってさ」

帰路の途中、キャスカがふと隣を歩くアルマに問いかけた。

「怖いよ。正直、今だって足が震えてる。でも、さっき噴水が綺麗になった時、みんなが笑ってくれたじゃない。それを見たら、やっぱりこれで良かったんだって思えたんだ。私が学園で学んだ魔法が、本当の意味で誰かを救えた気がして」

アルマの言葉に、キャスカは少し驚いたような顔をした後、嬉しそうに笑った。

「そうね。あんたのそういうおめでたいところが、私たちのパーティの『核』なんだろうね。分かったわ、あんたがシャボン玉を飛ばし続ける限り、私は何度でもその前に立ってやるわよ」

「……。……。……私も、……アルマの魔法、……好き。……綺麗だから」

「わたくしも、調査団の筆頭魔導士として、最後までお付き合いしますわよ。もちろん、帰ったら温かいお茶と、昨日以上の休息を要求しますけれど!」

仲間たちの言葉に、アルマの胸の奥が温かくなる。

その時、アルマのフードの中から「フン」という鼻息が聞こえた。

「小娘どもが、安っぽい絆の確認か。真理とは孤独なものだが、まあ、たまには騒がしい道連れがいるのも悪くはない。だが忘れるな、アルマ。貴様の魔法が綺麗だと言われるのは、我という高貴な存在が側にいることによる、一種の色彩学的補正であることをな」

「はいはい、ノアのおかげだね。ありがとう」

「感謝の言葉はササミの量で示せと言っておろう!」

賑やかな言い合いをしながら、彼女たちはバールのメインストリートへと戻ってきた。

市場の灯りは優しく一行を迎え入れ、街の喧騒がどこか懐かしく感じられる。

宿に戻れば、ゼノスが明日の予定を聞きに来るだろうし、ノアはまた毛布の質に文句をつけるだろう。

だが、アルマは知っている。

今日、旧市街で見たあの刻印は、自分たちがこれから歩むべき道の険しさを示しているのだということを。

循環の種が琥珀色の光を放ち、袋の中からアルマの背中を優しく押している。

彼女たちの冒険は、このバールの街で新たな局面を迎えようとしていた。

「今夜はしっかり休んで、明日はアリスが写したあの文様を徹底的に調べよう。この街の澱みを、本当の意味で消し去るために」

アルマの決意に満ちた声に、四人と一匹の影が石畳の上で力強く重なり合った。

バールの夜は静かに更けていくが、彼女たちの心に灯った循環の火は、決して消えることはない。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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