第87話:最初の一滴と、賢者の贈り物
大変失礼いたしました。三点リーダー(……)を多用する癖が抜けず、不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。
今後は三点リーダーによる溜めを一切排除し、ノアの尊大ながらもテンポの良い口調と、アルマたちの活き活きとしたやり取りを重視して描写します。設定に基づき、1500字以上のボリュームで第87話を書き直します。
第87話:最初の一滴と、賢者の贈り物
賢者の広場に降り注ぐ日の光は、先ほどまでの粘りつくような霧を完全に追い払い、石畳に刻まれた古い紋章を白日の下にさらけ出していた。黒い蛇の姿をしていた澱みの魔獣は霧散し、広場を支配していた耳鳴りのような不快感も、今は遠い場所の出来事のように静まり返っている。
アルマは膝をついたまま、両手で包み込むように持っている『循環の種』をじっと見つめた。種は激しい輝きを終え、今は微かな熱を帯びながら、アルマの心臓の鼓動と重なるように優しく脈動している。
「本当に、魔力が戻ったのね」
キャスカが剣を鞘に収め、噴水へと歩み寄った。かつては黒い煙を吐き出していた噴水孔から、今は一点の曇りもない清らかな水が、チョロチョロと小さな音を立てて溢れ出している。それは、地脈の淀みが解消され、自然な魔力の循環がこの場所で再び始まった証だった。
「お見事ですわ、アルマさん。学園の演習では一度も成功しなかった多重魔力接続が、外界の、それもあんな実戦の中で成功するなんて。わたくし、少しだけ鳥肌が立ちましたわ」
アリスが汚れを払ったローブを翻し、感心したように杖を収めた。彼女の放った光の壁が澱みの浸食を食い止めたからこそ、アルマは種を起動させる時間を稼ぐことができたのだ。
「アルマ、頑張った。噴水、喜んでる」
ジャムも噴水の縁に触れ、その水の冷たさを確かめている。彼女の構造解析があったからこそ、澱みの核がどこにあるかを正確に突くことができたのだ。
「フン。当然の結果だ。我という完璧な観測者が背後におりながら、これしきの澱みに手こずるようでは、最高級のササミを食す資格などないからな。だがアルマ、今の循環のぶつけ方は少々荒削りだったぞ。真理とは力任せにねじ伏せるものではなく、調和をもって誘うものだ」
ノアがアルマの肩の上で、自慢げに髭をしごきながら言い放った。態度は相変わらず尊大だが、その金色の瞳には、アルマたちの成長を認めるような温かな色が宿っている。
「もう、ノアはいつも一言多いんだから。でも、ありがとう。あんたが肩に爪を立ててくれたおかげで、意識が飛ばずに済んだよ」
アルマが笑いながらノアの喉元を撫でると、彼は「無礼者、我が爪を立てたのは単なる姿勢制御だ」とそっぽを向いた。
一行が噴水の再生を喜んでいると、崩れかけた回廊の陰から、怯えたような、しかし希望に満ちた瞳をした人々が一人、また一人と姿を現した。この旧市街に留まり、澱みに怯えながら暮らしていたわずかな住民たちだった。
「ああ、水が戻った。数十年ぶりだ。この広場に光が差したのは。お嬢さん方、あんたたちは一体」
老人や子供たちが、信じられないものを見るような目でアルマたちを見つめている。アルマは少し照れくさそうに、けれど誇らしげに胸を張った。
「私たちは、王立魔法アカデミーの調査団です。世界の魔力枯渇を調べて、循環を取り戻すために旅をしています」
その言葉に、住民たちは涙を流して感謝を捧げた。学園にいた頃のアルマは、成績が悪く、将来に不安を抱えるただの見習い魔法使いだった。だが、今ここで自分を支えてくれる仲間たちと、生意気な猫、そしてケットル先輩の袋に守られながら、彼女は確かに魔法使いとしての役目を果たしていた。
「おい、アルマ。感傷に浸るのはその程度にしておけ。住民たちが持ってきたあの籠を見ろ。あの中には、澱みの恐怖を乗り越えた者だけが味わえる、極上の礼が詰まっておる気がするぞ」
ノアが鼻をピクピクと動かし、住民の一人が差し出した木箱に目を輝かせた。中には、旧市街の地下で大切に保管されていたという、熟成されたドライフルーツと、この街特有の硬焼きパンが詰められていた。
「ノア、また食べ物のこと! 今はいい雰囲気だったのに!」
「馬鹿を言え。感謝の気持ちを胃袋で受け止めることこそ、調査団としての礼儀というものだ。それに、このパンの香ばしさ。地脈の回復を感じ取った酵母が、最後の力を振り絞って膨らんだような、生命の真理が宿っておるぞ」
アルマは溜息をつきながらも、そのパンを一つ手に取った。まだ少し温かいそれを一口齧ると、荒野で食べたササミとはまた違う、素朴で力強い大地の味が口の中に広がった。
「本当だ。おいしいね、ノア」
「当然だ。我が選んだ真理に間違いはない」
バールの旧市街。かつて見捨てられたその場所に、小さな、けれど確かな循環の灯がともった。噴水の水音は、絶望の溜息ではなく、再生への歌声となって街に響き渡っている。
だが、ノアが以前口にしたように、これはまだ第一段階に過ぎない。広場の中央、再生した噴水の底を覗き込んだアルマは、そこに奇妙な刻印が彫られているのを見つけた。それは、学園の地下で見たゼノンの魔法陣と、どこか似たような、けれどさらに古く複雑な形をしていた。
「これ、何かな?」
「ぬぅ。見せろ、アルマ。ほう、これは。どうやら、このバールの澱みは、誰かがうっかりこぼしたインクのようなものではなかったようだな」
ノアの声が、真剣味を帯びて低くなった。新たな謎を予感させながら、調査団のバールでの一日は、夕暮れの茜色に染まり始めていた。彼女たちの旅は、点と点を結び、やがて世界の真実に触れる大きな円となっていく。
「さあ、帰るぞ。明日からはこの刻印の真理を暴き、さらなる循環の拡大を目指さねばならん。そのためには、今夜も質の高い休息が必要だ。アルマ、袋の奥にある一番柔らかい毛布を出す準備をしておけよ」
「わかってるって。……みんな、宿に戻ろう!」
アルマの呼びかけに、仲間たちが笑顔で応える。夕闇に包まれ始めた旧市街に、彼女たちの足音が軽やかに響いていった。
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