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「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん
第2章 『黒猫の魔導王と、美食を求める乙女たちの行進 〜淀んだ大地を七色に塗り替えろ!〜』

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第59話:澱みの貯水池と、真理の釣り名人

「おい、小娘。断言するが、この先に広がる水の匂いは、真理が腐敗してドロドロに溶け出した最悪の『廃液』だ。我の髭が、村外れの貯水池から放たれる、生命への冒涜的な異臭を捉えたぞ。これは、人々の喉を潤すべき清流が、不浄な魔力の停滞によって、巨大な毒の皿へと書き換えられようとしている兆候だ!」

関所を越えた一行が辿り着いたのは、霧に包まれた領地の中でも比較的大きな規模を持つ「水の村」でした。しかし、村の生命線であるはずの巨大な貯水池は、透き通るような青さを失い、今や不気味な紫色に変色して、ドロリとした重い水面を晒していました。

「これじゃ、お料理どころか顔を洗うこともできないわ……。ジャムさん、この水、浄化魔法でなんとかなりそう?」

アルマが心配そうに池を覗き込むと、水面からポコポコと腐敗した魔力の泡が弾け、鼻を突くような金属臭が広がります。

「ううん、アルマさん。表面だけなら浄化できますが、この底の方には、もっともっと深い『澱みの核』が沈んでいる気がしますわ。それを引きずり出さない限り、何度浄化してもすぐにまた腐ってしまいます……」

ジャムが悲しげに首を振ります。池の底には、長年の魔力停滞によって生み出された、ヘドロのような怪物が潜んでいる気配がありました。

「フン。底に沈んでいるなら、釣り上げればよいではないか。アルマ、貴様のシャボン玉と、ケットルの洗浄砲のホース、そしてキャスカの頑丈な釣りワイヤーを貸せ。我が、この澱みの深淵に潜む『真理を拒む粗大ゴミ』を、一本釣りにしてやろうではないか!」

ノアがアルマの肩から飛び降り、自信満々に池の縁へと立ちました。

「釣りって言っても、ノア、餌はどうするのよ? あんなドロドロの化物が食い付くようなものなんて……」

キャスカが呆れたように尋ねると、ノアは不敵な笑みを浮かべて、巨大背負い袋の隅から「あるもの」を取り出させました。それは、昨晩の闇鍋で奇跡的に生成された、異様に強い魔力の輝きを放つ「光るキノコの焦げカス」でした。

「これを我が『質量の真理』で包み込み、シャボン玉の浮力で調整した特製のルアーとする。名付けて、『真理の爆釣・猫神スペシャル』だ! いけ、アルマ! 投射せよ!」

アルマが半信半疑でシャボン玉に包まれた焦げカスを池のど真ん中へ放り込むと、ノアがそのシャボンの膜を魔力で操り、水底へと沈めていきました。

数秒の静寂の後、池全体が地震のように激しく揺れ始めました。

「キ、キタッ! ノア、凄い引きだよ!」

「フニャァァァ! 重い! だが、これが真理の重みだ! 全員、引けぇぇぇ!!」

アルマの杖、キャスカの腕力、さらにはアリスとジャムがシャボン玉に「強化」の魔法を注ぎ込み、全員で目に見えない糸を引き上げます。

ズバァァァァァン!!

水面を割って現れたのは、巨大な古タイヤや壊れた農具、そしてそれらに澱んだ魔力が絡みついて巨大化した、不定形の泥の化物『スクラップ・スライム』でした。

「真理の洗浄を知れぇぇぇ! ダイナミック・高圧洗浄・パンチッ!!」

ノアが洗浄砲の勢いを借りて、空飛ぶ砲弾となって泥の化物へ激突しました。

洗浄砲から放たれる浄化の激流が怪物の体をバラバラに解体し、アルマのシャボン玉がその一つひとつを逃さず包み込んで、琥珀色の光で消滅させていきます。

数分後。

池の底に溜まっていた「ゴミと澱み」は完全に一掃され、紫色の水は嘘のように透き通り始めました。

「……ふぅ。まさか、池の掃除をすることになるなんてね」

アルマが汗を拭いながら笑うと、村の広場からは、水の戻った音を聞きつけた村人たちが次々と姿を現しました。

「フン。当然の結果だ。水が清まれば、次は美味い魚が戻ってくる。アルマ、村人たちに伝えろ。一番太った川魚を、我が特製ソースで塩焼きにする準備を整えよと。これが、真理を釣り上げた王への、正当なる報酬だ!」

「もう、ノアったら、結局は食べることばっかりなんだから!」

清らかな水のせせらぎが村に戻り、一行の冒険はまた一つ、枯れた大地に輝きを取り戻したのでした。

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