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「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん
第2章 『黒猫の魔導王と、美食を求める乙女たちの行進 〜淀んだ大地を七色に塗り替えろ!〜』

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第58話:霧の関所と、不透明な通行税

「おい、小娘。断言するが、この先の関所に漂う空気は、怠惰という名のカビが生えた最悪の官僚主義の味だ。我の髭が、門の向こうから放たれる『真理を淀ませる不透明な私欲』を捉えたぞ。これは、世界を救う我らの行進を、紙切れ一枚と銅貨数枚で止めようとする、極めて不敬な障害の兆候だ!」

オード村を越え、さらに西へと街道を進むアルマたちの前に、隣領へと続く巨大な石造りの関所が姿を現しました。かつては多くの商人や旅人が行き交い、活気に溢れていたはずの要所です。

だが、現在のその場所は、冷たく、そして視覚だけではなく魔力的な感覚さえも狂わせるほどに濃い灰色の霧に包まれていました。

「変ね。街道の要所なのに、旅人の姿が一人も見えないわ。それにこの霧、ただの天候不順じゃない。魔力の流れが完全に止まって、腐り始めてる。嫌な予感がするわね」

キャスカが剣の柄に手をかけ、鋭い眼光で門の様子を伺います。

関所に併設された詰所の扉が重々しく開き、中から数人の衛兵が姿を現しました。

だが、その瞳は焦点が合わず、肌の色も不自然なほど土気色をしています。彼らが纏う使い古された鎧の隙間からは、澱んだ魔力が黒い煤のように漏れ出していました。

「おい、お前たち。この先へ行きたければ、通行税を払ってもらおうか。ああん? 金がない? なら、その背負い袋の中身と、その小娘が持っている琥珀色の種を置いていけ」

リーダー格の衛兵が、濁った声で言い放ちます。

その手にある槍の先からは、どす黒いヘドロのような液体が滴り落ちていました。

「そんな、この種は世界を再生させるための大切なものなんです! それに、この霧は、あなたたちがちゃんと魔力の循環を管理していないせいじゃないんですか!?」

アルマが杖を握りしめ、精一杯の抗議の声を上げました。

だが、衛兵たちの反応は冷淡なものでした。

「うるさい。ここは俺たちの領地だ。俺たちが霧だと言えば霧だし、税だと言えば税なんだよ。嫌なら、そこで一生、霧に巻かれて動けなくなっていろ」

衛兵たちが槍を構えます。

彼ら自身、この土地に溜まった澱みに精神を侵食され、自分たちが何を守り、何のためにここに立っているのかさえ忘れてしまっているようでした。

「フン。哀れなものよ。循環を失った権力など、腐った肉を奪い合う野良犬の遠吠えと変わらん。アルマ、交渉は決裂だ。今すぐ貴様のシャボン玉で、この不透明な霧を丸ごと包み込み、真理の風通しを良くしてやろうではないか!」

ノアがアルマの肩の上で、漆黒の毛を逆立てて威嚇します。

「うん、わかった! みんな、準備して! 彼らを傷つけずに、この霧だけを晴らして、目を覚ましてもらうよ!」

「ジャムさん、催眠効果のある薬草を、アルマの泡に混ぜなさい。一度深く眠って、魔力の詰まりを解消してもらう必要がありますわ」

アリスが静かに指示を出し、ジャムが「はいっ!」と応じて、巨大な背負い袋から紫色の粉末を取り出しました。

「膨らめ、大盛り・浄化シャボン! 眠りの香りを乗せて!!」

アルマが杖を振ると、かつてないほど巨大な、七色の光を放つシャボン玉が展開されました。

それは関所の門と、周囲を覆い尽くしていた灰色の霧を飲み込むように膨らんでいきます。

シャボンの中では、ジャムの特製眠り粉が激しく循環し、不浄な魔力を中和しながら、衛兵たちの荒ぶる精神を優しく包み込んでいきました。

「真理の休息を知れぇぇぇ! ダイナミック・子守唄・プレスゥゥゥ!!」

ノアがシャボン玉の弾力を使い、空中を三回転して、門の上で構えていた衛兵たちの鼻先にポフンと着地しました。

その柔らかい毛並みと、シャボンから溢れる安らぎの魔力に触れた瞬間、衛兵たちは糸が切れたようにその場に崩れ落ち、深い、安らかな寝息を立て始めました。

同時に、関所を覆っていた不気味な霧が、アルマのシャボン玉に吸い込まれるようにして消滅していきます。

霧が晴れた門の向こう側からは、久しぶりに清々しい風が吹き抜けてきました。

「ふぅ。なんとかなったかな。でも、門番の人たちがこれじゃ、この先の領地はもっと大変なことになってるかもしれないね」

アルマが眠る衛兵たちに毛布をかけながら、心配そうに街道の先を見つめます。

「フン。道がないなら、我らが作ればよいのだ。おい、アルマ。この衛兵たちの詰所の奥に、不当に没収されたまま忘れ去られていたと思われる、極上の年代物ドライソーセージの反応がある。これは不当に拘束された真理を救出するための、正当なる任務(つまみ食い)だ。分かっているな?」

「もう、ノア!! それは通行料の代わりにはならないってば! でも、みんなでお腹が空いた時に、少しだけなら、いいよ?」

「半分だと!? 真理の配分としては不服だが、背に腹は代えられん。よし、出発だ! 次の獲物、いや、次の救済が我らを待っておるぞ!」

一行は重い石門を押し開き、新しい領地へと足を踏み入れました。

澱んだ霧を払い、不透明な悪意を退け、最弱パーティの賑やかな行進は、さらなる未知の地平へと突き進んでいきます。

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