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「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん
第2章 『黒猫の魔導王と、美食を求める乙女たちの行進 〜淀んだ大地を七色に塗り替えろ!〜』

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第53話:救世主は丸かった、あるいはチーズの洗礼

「……おい、小娘。断言するが、この村の民たちは今、極限の恐怖から解放された反動で、知性のリミッターが完全に消失している。……我の髭が、背後から迫る『感謝という名の過剰な抱擁』を捉えたぞ。……これは、世界の救世主である我が、無礼な人間どもの手によって『巨大な毛玉』として揉みしだかれようとしている、未曾有の危機的兆候だ!」

広場を覆っていた澱みの怪物を、ノアの「物理的真理ボディプレス」で粉砕してから数刻。

地下の避難所から這い出してきた村人たちは、浄化された空気と、目の前に転がる「黒くて丸い何か」を見て、一斉に歓喜の声を上げた。

「……お、おお……! ――神様、仏様、黒猫様だ! ――あの恐ろしい泥の化物を、一撃で平らげてくださった……!」

「(――平らげてはおらん! ――断じて食うてはおらんぞ! ――あんな泥、我が至高の胃袋に一ミリも入れたくはないわ!)」

だが、極限状態から生還した村人たちの耳に、ノアの尊大な抗議は届かない。

筋骨隆々の村長を筆頭に、村の男たちがノアを取り囲み、代わる代わるその豊満な腹部を「わっしょい! わっしょい!」と担ぎ上げ始めた。

「……あはは……。……ノア、人気者だね」

アルマが引きつった笑顔でそれを見守る中、ノアは空中で「フニャァァァ!?」と情けない声を上げながら、四肢をバタつかせている。

「(――やめろ、無礼者め! ――我が腰のくびれが……いや、我が神聖なる質量が、貴様らの汗臭い手の平で汚されていく! ――アルマ! ――見てないで助けろ! ――このままだと我が、村の守護聖獣マスコットとして像を建てられてしまうぞ!)」

「……まあ、いいじゃない。……。……それよりノア、約束の『チーズ貯蔵庫』が解放されたみたいだよ?」

キャスカが指差した先では、村の女性たちが、澱みから守り抜かれた巨大なホールチーズを抱えて集まってきていた。

「……魔法使い様、これをお召し上がりください! ――村で一番の熟成チーズです! ――その……猫神様にも、ぜひ!」

その瞬間、担ぎ上げられていたノアの動きがピタリと止まった。

村長の腕の中から、液体のようにスルリと抜け出し、着地したかと思うと、一瞬で「真理の求道者」の顔に戻り、チーズの前に鎮座した。

「(……。……。……。……。……フン。……。……。……。……民草よ。……。……貴様らの誠意、しかと受け取った。……。……どれ、この我が、その発酵の真理が淀んでいないか、厳格に『査定』してやろうではないか)」

ノアは前脚を器用に使い、差し出されたチーズの欠片を口に運んだ。

その瞬間、ノアの瞳がカッと見開かれ、背中の毛が「ふにゃふにゃ」と波打った。

「(……なっ……!? ――この香気、そして鼻に抜ける重厚なコク……。……。……。……。……アルマ、聞け! ――この村には、魔導院の古臭い教科書よりも価値のある真理が眠っていた! ――このチーズ、……。……。……。……このチーズを、我がシャボン玉の中に百ホールほど密輸しろ! ――今すぐだ!)」

「……百ホールなんて入るわけないでしょ!! ――村の人たちが食べる分がなくなっちゃうよ!」

「……。……。……あ、あの……魔法使い様。……。……。……猫神様は、もしかして……もっと食べたいとおっしゃっているのでしょうか?」

村人たちが恐る恐る尋ねると、アルマは溜息をつきながら答えた。

「……ええ。……。……『美味しいから、全部よこせ』って、ワガママ言ってます」

「……。……。……まあ! ――なんて頼もしい神様でしょう! ――さあ、みんな! ――猫神様のために、蔵にある最高のバターと燻製肉も全部持っておいで!!」

「(――おおお! ――話の分かる民ではないか! ――よろしい、特別だ。……今日からこの村を、我が『第一次ササミ補給基地』に指定してやろう!)」

結局、村の浄化を祝う宴は、いつの間にか「ノアに貢ぎ物を捧げる会」へと変貌してしまった。

アルマ、キャスカ、ジャム、アリスの四人は、村人たちの過剰な感謝(と、ノアへの大量の供物)に圧倒されながらも、久しぶりの温かい食事を囲んだ。

「……ノア。……あんまり食べ過ぎて、また『黒い球体』にならないでよ?」

「(――フン、失礼な。……。……。……我は、エネルギーを循環させているだけだ。……。……。……うぷっ。……。……。……。……。……アルマ、……少しだけ、……そのシャボン玉の中で、……『消化促進の加護』を掛けてくれ。……。……。……。……真理が……腹の中で……暴走しておる……)」

「……だから言ったじゃない!!」

王都を出て最初の村。

世界を救う第一歩は、黒猫の食べ過ぎによる「うめき声」と、村人たちの底抜けに明るい笑い声の中で、賑やかに更けていくのであった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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