始まりの風と、枯れ果てた街道
「……おい、小娘。断言するが、この王都の堅牢な城壁を一歩越えた先に広がるのは、もはや教科書に載っているような優雅な庭園ではない。……我の鋭敏な髭が、大地の奥底から漏れ出す『乾いた悲鳴』を捉えたぞ。……これは、世界の血管という名の魔力ラインが、何者かによって強引に堰き止められ、壊死の危機に瀕している兆候だ!」
王都の巨大な門が、重々しい音を立てて背後で閉ざされた。
アルマたちが最初に目にしたのは、かつては豊穣の土地として王都の胃袋を支えていたはずの、無残にひび割れた大地だった。
街道沿いに並んでいたはずの並木は、葉の一枚も残さず枯れ果て、まるで天を呪う骸骨の指のように枝を突き出している。
空はどんよりとした灰色の雲に覆われ、太陽の光さえもがどこか濁り、冷たく、生命を育む力を失っているように見えた。
「……ひどい。……。……王都の中では、みんなあんなに平和そうに笑っていたのに。……一歩外に出るだけで、こんなに魔力が感じられないなんて」
アルマは杖を握りしめ、足元の乾いた土を踏みしめた。
砂漠での過酷さとはまた違う、世界そのものが活力を失い、静かに死を待っているような、耳が痛くなるほどの静寂が辺りを支配している。
「(……。……。……左様。……これが、魔導院という名の化石どもが、民衆から隠し続けてきた『世界の真実』だ。……。……循環を止めた魔力は、水と同じく一箇所に溜まり、そして腐っていく。……。……アルマ、その手にある『琥珀色の種』の重さを忘れるな。……。……それが、この死にゆく大地に再び鼓動を刻むための、唯一の心臓なのだからな)」
ノアはアルマの肩の上で、金色の瞳を鋭く光らせ、周囲を警戒するように見渡した。
普段の傲慢な態度の中にも、かつての魔導王としての「怒り」が滲んでいるようだった。
「……アルマ、見て! ――あそこに村があるけれど、……なんだか様子がおかしいわ。……。……煙が上がっていないし、……あんな色の霧、見たことがない」
キャスカが指差した先。
街道の少し先に、小さな集落『オード村』が見えた。
しかし、そこには村としての活気が一切なく、家々の屋根や壁には、どす黒い、泥のような魔力の残滓が、まるで巨大なナメクジが這った跡のようにべったりと張り付いている。
「……あれは、『魔力の澱』ですわ。……。……循環を失った魔力が、行き場を失って腐敗し、物理的な毒として形を成したものです。……。……。……。……。……このままでは、あそこに住む人たちは、……呼吸をするだけで精神を蝕まれ、やがては土に還ることもできなくなりますわ」
アリスが顔を曇らせ、防御の呪文を呟きながら杖を構える。
魔力枯渇は、ただ魔法が使えなくなる不便な現象ではない。
淀んだ魔力は疫病のように土地そのものを侵食し、生きた者が立ち入れない「禁域」へと変えてしまう、世界の壊死なのだ。
「……。……。……。……。……いこう、みんな! ――私たちの魔法が、……学園で笑われたあのシャボン玉が、本当に世界を救えるのか、……ここで証明するんだ!」
アルマが駆け出すと、キャスカたちがそれに続く。
村の入り口に一歩足を踏み入れた瞬間、肌を刺すような冷気と、敗した魔力が放つ独特の「金属質の臭気」が一行を襲った。
「(……。……。……。……。……フン。……良いだろう。……。……。……。……。……。……真理の旅、その最初の試練だ。……。……。……。……。……。……。……アルマ、……。……。……。……。……一つ忠告しておくが、……あの村の中央広場にある、……『地下熟成チーズの貯蔵庫』だけは、何としても澱による汚染から死守しろ。……。……。……。……。……。……それが、この旅を成功させ、我の士気を維持するための、……最優先の防衛ラインだ!)」
「(……ノア!! ――真面目な話をしてる時に、また食べ物のことばっかり!! ――でも……。……。……そうだね。……。……。……そんなものまで腐らせちゃったら、この村の人たちはもう生きていけないもんね!)」
アルマの叱咤が、静まり返った街道に響く。
村の奥からは、淀んだ魔力が形を成した異形の怪物たちが、ズズリ……と音を立てて這い出してきた。
「……キャスカ、前をお願い! ――アリス、ジャムさんは後ろの浄化を! ――いくよ、ノア!!」
「(……。……。……。……。……。……。……良かろう! ――我が質量の真理で、……この淀んだ空気ごと押し潰してやるわ! ――小娘、……。……。……。……。……全力を出せ!)」
見習い魔法使いたちの、本当の戦い。
学園という名の箱庭を飛び出した彼女たちの歩みは、重々しい足音と共に、枯れ果てた大地へと深く刻まれ始めたのである。
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