繋がる魔力と、箱庭からの卒業
「……おい、小娘。断言するが、この学園の図書館に詰まった知識は、今や貴様らの歩みを止める『重石』でしかない。……我の鋭敏な髭が、窓の外から吹き込む風の中に、枯渇し、悲鳴を上げている遠い大地の震えを捉えたぞ。……これは、安全な温室という名の平穏を捨て、真理の嵐が吹き荒れる外界へと、その一歩を踏み出すべき時が来た兆候だ」
地下でのゼノンとの死闘から数夜。
王立魔法アカデミーの寄宿舎、アルマの部屋には、キャスカ、ジャム、アリスの三人が集まっていた。
机の上には、砂漠から持ち帰り、地下の騒動を経てなお温かな光を放ち続ける『循環の種』が置かれている。
「……ゼノンさんは言っていたわ。……世界中で魔力が枯渇し始めていて、このままじゃ魔法そのものが消えてしまうって。……。……魔導院はそれを『一度壊して作り替える』ことで解決しようとしたけれど……」
キャスカが、窓の外に広がる王都の夜景を見つめながら、静かに言葉を紡ぐ。
「……私たちは、あの地下で見たはずですわ。……不揃いな私たちの魔力が、この『種』を通じて混ざり合い、新しい輝きを生んだのを。……。……これがあれば、世界を壊さなくても、救える場所があるんじゃないかって」
アリスが種にそっと手を触れると、琥珀色の光が彼女の指先を優しく包み込んだ。
「(……左様。……。……だが、その救済をこの学園の地下に閉じ込めておいては、意味がないのだ。……。……いいか、アルマ。……。……学園の教師どもは、この種を『研究対象』として管理しようとするだろう。……。……だが、この種が求めているのは、論文に書かれることではない。……。……枯れた大地に触れ、失われた循環を取り戻すことだ)」
ノアがアルマの膝の上で、金色の瞳を鋭く光らせた。
「……。……。……。……私、決めたよ。……。……この種と一緒に、外の世界へ行きたい。……。……学園で『見習い』として守られてるだけじゃなくて、……困っている人のところに、このシャボン玉を届けに行きたいんだ」
アルマの言葉に、部屋の中に沈黙が流れた。
それは、学園という「将来が約束された安全な場所」を捨てることを意味していた。
成績が悪くても、ここにいれば魔法使いとしての身分は保証される。外の世界は、魔獣が跋扈し、魔力が枯渇した過酷な現実が待っている。
「……。……。……ふふ、やっぱりそう言うと思ったわ。……。……一人で行かせるわけないじゃない。……私の剣は、あんたのシャボン玉を守るためにあるんだから」
キャスカが笑い、真っ先に立ち上がった。
「……私も、行きます。……。……アルマさんのシャボン玉の中で、私の魔法が役に立てるなら、どこへだって……。……それに、外の世界には、まだ誰も知らない食材や薬草がいっぱいあるはずですわ!」
ジャムも、目に涙を浮かべながらも、力強く頷いた。
「……決まりましたわね。……。……学園に退学届を出す必要はありませんわ。……。……エドワード先輩を通じて、『長期の実地調査』という名目で許可を取りましょう。……。……。……ふふ、私たち、もう立派な『調査団』ですわね」
アリスが名案を出し、四人は手を取り合った。
「(……フン。……。……。……。……。……ようやく覚悟が決まったか。……。……。……良いだろう。……。……真理の旅は、往々にして『無謀』から始まるものだ。……。……。……。……おい、アルマ。……。……。……出発は明日の夜明けだ。……。……。……食堂の備蓄倉庫から、……旅の景気付けとして最高級のササミを、……可能な限り『徴収』しておくことを忘れるなよ。……。……。……。……分かっているな?)」
「(……ノア!! ――それはただの泥棒だよ!! ――でも……そうだね。……。……。……新しい世界へ、みんなで行こう!)」
こうして、彼女たちは自らの意思で、学園という箱庭を飛び出す決断を下した。
それは「辞める」のではなく、学園で学んだことを「証明」するための、彼女たちなりの卒業だった。
朝靄に包まれた学園の門を抜ける時、彼女たちの瞳には、不安よりも遥かに大きな、未知への希望が輝いていたのである。
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