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「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん
『黒猫の魔導王と、未熟な彼女たちの宣戦布告 〜王立アカデミー・立志編〜』

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第46話:煮干しの防衛線、あるいは深夜の空中戦

「……おい、小娘。断言するが、今夜の月明かりは殺気に満ちている。……我の髭が、上空二百メートルから急速に接近する『不浄な羽音』を捉えたぞ。……これは、空の強盗であるあの焼き鳥が、我が正当なる権利――すなわち最高級・魔導煮干しの領有権を侵害しようとする、明白な宣戦布告だ!」

王立アカデミーの深夜。

普段なら静寂に包まれるはずの備蓄倉庫街は、今、一触即発の緊張感に包まれていた。

アルマは、パジャマの上に慌ててローブを羽織り、眠い目をこすりながら杖を構えている。その肩の上では、ノアが夜闇に溶け込むような鋭い眼光を放ち、尻尾をバチバチと地面に叩きつけていた。

今回のターゲットは、公爵家から届いたばかりの『魔導煮干し』。

魔力の奔流で育った魚を、新月の夜に干し上げたというその一品は、一口食べれば魔力が全回復すると言われる至宝である。それが今、この厳重に封印された倉庫の中に眠っているのだ。

「カァ! ……ノア、深夜のパトロールご苦労なことだ。……だが、地上を這うだけの鈍重な貴様には、この風の速さは捉えられまい。……煮干しの香りは、すでに私の鼻腔を支配しているぞ!」

漆黒の空から、声が降ってきた。

時計塔の頂からダイブするように、クロウが銀色の魔力を翼に纏わせ、弾丸のような速度で倉庫の天窓へと突進してくる。

「(――させるかぁぁぁ! ――アルマ、今だ! ――対空防御陣、第一層展開! ――あの焼き鳥を、甘美なる粘着の檻に閉じ込めろ!)」

「……もう、夜中に大声出さないでよ! ――膨らめ、強力粘着のシャボン!」

アルマが杖を振ると、倉庫の周囲に数千もの小さなシャボン玉が展開された。

ただのシャボンではない。エドワード先輩の助言(という名の余計なお節介)により、内部には「触れた瞬間に糸を引く、魔導納豆の粘り気」が凝縮されている。

「カァ!? ――なんだこの、不潔で、かつ芳醇な大豆の香りは……! ――翼が、翼が絡みつく……!」

「(――ハッハッハ! 見たか! ――空の優位性など、我が粘着の真理の前には無力よ! ――アルマ、追撃だ! ――第二層、重力圧縮シャボンを撃ち上げろ!)」

「(……ノア、それちょっとやりすぎじゃない!?)」

「カァッ!! ――舐めるなよ、毛玉! ――風よ、我が羽の動きに従え! ――『真空のバキューム・エッジ』!」

クロウが空中で身を翻し、鋭い翼の一撃を放った。

鋭利な風の刃がアルマのシャボン玉を次々と切り裂き、粘着液が夜空に飛び散る。

クロウは、その隙間を縫うようにして、ついに倉庫の天窓に足をかけた。

「カァ! ――勝負あったな。……煮干しは、私の……」

「(――甘いぞ、焼き鳥ィ! ――貴様が天窓を狙うのは計算済みだ! ――アルマ、今こそ我が『究極の質量』を射出せよ! ――作戦名『黒い流星ブラック・メテオ』!)」

「ええい、もうどうにでもなれ! ――飛んでいけ、ノアァァァ!!」

アルマが、ノアを包み込んだ巨大なシャボン玉を、全力の風魔法で上空へと叩きつけた。

加速、さらに加速。

ノアの圧倒的な質量が、シャボン玉の弾力によって「超高速の砲弾」へと変わる。

「カァ!? ――文鎮が、浮いた……!?」

ドムゥゥゥゥゥン!!

天窓の直前で、ノアのお腹がクロウの胸元にクリーンヒットした。

夜空に「カハッ!」という短い悲鳴が響き渡り、クロウはノアの重みに押しつぶされるように、倉庫の屋根から中庭の植え込みへと真っ逆さまに墜落していった。

「(……ふんっ。……地上を統べる我が、空の戦い方を心得ていないとでも思ったか。……。……おい、アルマ。……。……あやつが落とした、……あやつが口にくわえていた『倉庫の合鍵(どっから盗んだ)』を拾え。……今こそ、煮干しの祭典の始まりだ!)」

「(……ノア。……それ、結局二人ともドロボウになっちゃうよ……)」

結局、騒ぎを聞きつけたエレーヌ先輩がブランシュを連れて現れ、ノアは「一週間のササミ禁止」、クロウは「翼の洗浄(納豆のネバネバ除去)」という、両者敗北の結末に終わった。

翌朝、中庭で互いにボロボロになった姿で睨み合う一匹と一羽。

「カァ。……。……ノア、昨日の体当たりは……少しだけ、認めてやろう。……。……だが、魔導煮干しの味を知らぬまま、一週間ササミ抜きとはな。……カカカッ、傑作だ!」

「(――黙れ! ――貴様こそ、その羽から一生納豆の匂いをさせて、メスのカラスに振られるがいいわ! ――真理の煮干しは、逃げはせん。……次に食べるのは、この我だ!)」

王立アカデミーの朝。

地上と空、二つの漆黒の意地がぶつかり合う日々は、煮干しの香りよりも深く、そして騒がしく続いていくのであった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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