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「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん
『黒猫の魔導王と、未熟な彼女たちの宣戦布告 〜王立アカデミー・立志編〜』

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第45話:不吉な偵察者と、真理の毛繕い

「……おい、小娘。断言するが、昨今の学園の平和は、極めて巧妙に塗り固められた偽りだ。……我の鋭敏な髭が、校舎の時計塔の影から執躍しつように放たれる『漆黒の不敬な視線』を捉えたぞ。……これは、空のならず者であるあの焼き鳥が、我が秘蔵のツナ缶保管場所を特定しようと、高度な諜報活動を展開している兆候だ!」

砂漠からの帰還、そしてクロウとの劇的な(?)空中戦から数日。

アルマたちの日常には、一つの「新しいノイズ」が確実に定着していた。

中庭のベンチでアルマが次回の講義の予習をしていると、必ずと言っていいほど、近くの木の枝や、無機質な彫像の頭に、あの銀色の瞳をしたカラスが現れるのだ。

クロウは、翼を整えるふりをしながら、その鋭い視線をノアの喉元――正確には、ノアが隠し持っている「おやつ袋」へと向けていた。

「カァ。……ノア、今日は一段と丸くなったな。……もはや猫というよりは、黒いカボチャが重力に負けて地面にめり込んでいるようにしか見えんぞ。……その質量で学園の地盤が沈下し、地下の魔導回廊が崩落するのも時間の問題だな。……カカカッ!」

「(――黙れ、空飛ぶ煽り屋! ――我がこの重厚かつ神聖なフォルムを維持しているのは、万が一の事態に備えて高密度のエネルギーを蓄積しているからだ! ――貴様のような、風が吹けば羽毛ごと吹き飛ばされる骨と皮だけのスカスカな存在に、真理の重みは一生理解できん!)」

ノアは尻尾をメトロノームのように激しく振り、アルマの膝の上で威嚇のポーズをとった。

対するクロウは、器用に首を三十度ほど傾け、馬鹿にするように羽をパサつかせる。

「カァ! ……エネルギーだと? ――笑わせるな。……貴様の言うエネルギーとは、食堂の裏に廃棄された残飯の脂身のことだろう。……。……おい、見習いのアルマよ。……こんな怠惰な脂肪の塊を師と仰ぐなど、お前の将来は暗雲に包まれているぞ。……今ならまだ間に合う、空を飛べる知的な私に乗り換えるがいい」

「……あはは、クロウさん。……ノアは、こう見えても砂漠の遺跡では世界を救う一撃を放ったんだよ? ――でも、二人が喧嘩してると、全然教科書の文字が頭に入ってこないよ……」

アルマが困ったように笑いながら、二人の間に割って入る。

かつては「見習い」として怯えていた彼女も、今ではこの「黒い塊」同士の言い争いを、どこか微笑ましく眺める余裕が出ていた。

……もっとも、放置しておけば中庭が破壊されるため、止めないわけにはいかないのだが。

「(……聞いたかアルマ! ――この鳥、今、貴様を引き抜こうとしたぞ! ――あな恐ろしや、空の誘拐犯め! ――貴様のような骨張った背中に乗れば、アルマの腰が砕けてしまうわ! ――重厚な我が背中で、餅のように揺られているのが小娘にはお似合いなのだ!)」

「カァ! ――重すぎて動けないよりはマシだ。……。……まあいい。……今日は偵察に来ただけだ。……本番はこれからだからな」

クロウは不意に、視線を空の彼方、学園の備蓄倉庫がある方角へと向けた。

「カァ。……ノア、油断するなよ。……近いうちに、隣国の公爵家から献上された『最高級・魔導煮干し』が、あの倉庫に運び込まれるという極秘情報を掴んだ。……。……魔力の雫を吸って育ったという、銀色に輝く至高の逸品だ。……先にそれを頂くのは、重力に縛られた貴様ではなく、風を友とするこの私だ」

「(――何だと!? ――魔導煮干しだと!? ――おのれ、不敬な! ――それは、我が砂漠遠征の追加報酬として、学園長にそれとなく(洗脳に近い暗示で)要求していた品ではないか! ――貴様のような焼き鳥の胃袋には、過ぎた宝だ!)」

「カァ! ……早い者勝ちだ。……空に道はない。……先んじた者が、すべてのことわりを手にするのだ。……さらばだ、地を這う黒いカボチャよ!」

クロウは嘲笑うように高らかに鳴き、鋭い羽ばたきと共に空へと舞い上がった。

その去り際、一筋の漆黒の羽が、ノアの目の前にひらりと舞い落ちた。

それは、明らかな挑戦状(果たし状)であった。

「(……。……。……。……アルマ。……事態は風雲急を告げている。……。……今すぐ、エドワードの眼鏡を捕獲してこい。……。……そして、対空迎撃用の特注粘着シャボン玉と、……あのカラスの羽を全てむしり取り、二度と飛べないようにするための『強力重力結界』を開発させるのだ!)」

「……やらないってば!! ――もう、二人とも本当に仲が良いんだから……。……煮干しなんて、みんなで仲良く分ければいいじゃない」

「(――仲が良いだと!? ――断じて違う! ――あやつは、我が胃袋という名の絶対聖域を脅かす、歴史上最大の宿敵だ! ――いいか、アルマ! ――今夜から、煮干し争奪戦のための合同軍事演習……通称『美味しいものを食べるための予備運動』を開始するぞ!)」

「(……それ、結局ただの特訓ダイエットじゃない……。……しかも、動く理由がまた食べ物だし……)」

アルマの溜息が、中庭の木々に吸い込まれていく。

平和なはずの王立アカデミーの昼下がり。

地上を統べる自称・魔導王と、空を駆ける不敵な空賊。

「魔導煮干し」という、あまりにも矮小で、かつ抗いがたい究極の真理を巡る、漆黒のライバル対決は、さらに混沌と「食欲」の渦へと巻き込まれていくのであった。

「(……待っていろ、クロウ。……貴様の羽をツナ缶の空き缶で切り刻み、……そのジャーキーを我が目の前で踊り食いしてやるわ!)」

「(……ノア、顔が怖いよ!!)」

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