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「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん
『黒猫の魔導王と、未熟な彼女たちの宣戦布告 〜王立アカデミー・立志編〜』

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第44話:黒き頂上決戦、あるいは空飛ぶ煽り屋

「……おい、小娘。断言するが、この学園の制空権は今、かつてないほど汚染されている。……我の鋭敏な髭が、上空五メートルから放たれる『漆黒の不敬』を捉えたぞ。……これは、地上を統べる我が真理の領域に対し、空飛ぶ焼き鳥もどきが宣戦布告を行っている兆候だ!」

砂漠からの帰還、翌日。

学園の中庭、日当たりの良いベンチでアルマの膝を独占し、至福の午睡を楽しんでいたノアの平穏は、一羽の「侵入者」によって破られた。

アルマの頭上、庭園の彫像のてっぺんに舞い降りたのは、ノアと同じく漆黒の羽を持ち、どこか知性を感じさせる銀色の瞳をしたカラス――クロウだった。

そのくちばしには、あろうことかエドワード先輩の私物である「最高級・乾燥熟成ビーフジャーキー」がくわえられている。

「(……ほう。……見ろ、アルマ。……あれはただの鳥ではない。……その羽の艶、獲物を盗む際の手際の良さ……。……あれは、空の盗賊として名を馳せる不届き者だ。……我が真理の敵として、一分いちぶの隙もない生意気なツラ構えをしておる)」

「カァ。……ノア、相変わらず地上で転がっているのか。……砂漠の遺跡を救った英雄だと聞いたが、今の貴様はただの『毛の生えた文鎮ぶんちん』にしか見えんな。……カカカッ!」

「(――なっ!? ――貴様、今、我がふくよかな質量を文鎮と言ったか!? ――アルマ、聞け! ――この鳥、我を挑発しておるぞ! ――しかも、そのジャーキー……それは我が、今日の夕食に狙っていた獲物ではないか!)」

「あはは……。……ノア、カラスさんと喋ってるの? ――でも、クロウさん、そのジャーキーは返さないと……」

「カァ! ――力なき者の言葉は風に消えるのみ。……欲しくば、この空まで獲りに来るがいい。……もっとも、その重力に愛されすぎた体では、ジャンプ三センチが限界だろうがな!」

クロウはジャーキーをひけらかすように空中で旋回し、ノアを小馬鹿にするように羽をバタつかせた。

「(……おのれぇぇぇ!! ――アルマ、緊急事態だ! ――今こそ、我が質量と貴様の魔法を融合させ、あの焼き鳥を撃ち落とすのだ! ――作戦名『対空・超圧縮猫弾キャット・バズーカ』だ!)」

「……やだよ! ――ノアを投げたら、受け止める私が怪我しちゃうもん!」

「(……ならばこれだ! ――アルマ、あのカラスの周囲をシャボン玉で包囲しろ! ――そして、その内側に『最高級ツナ缶の香り』を充填するのだ! ――逃げ場のない香りの檻の中で、あやつの胃袋を屈服させてくれるわ!)」

「……。……それなら、できるかも。……いくよ、ノア! ――膨らめ、美食のケージ!」

アルマが杖を振ると、空中でジャーキーを食べていたクロウの周囲に、巨大な透明なシャボン玉が展開された。

同時に、ノアが(どこから取り出したのか)秘蔵のツナ缶をパカリと開封し、その強烈な旨味のオーラをアルマの風魔法がシャボン玉の中へと送り込む!

「カ、カハッ!? ――な、なんだこの芳醇な香りは……! ――ツ、ツナ……。……海の幸の誘惑が……羽の根元まで痺れさせる……!」

「(――ハッハッハ! 見たか、空の泥棒! ――我が魔導教育(ササミ式)の真髄、鼻腔へのダイレクトアタックだ! ――そのジャーキーを落とせば、香りだけは嗅がせてやってもよいぞ!)」

「お、おのれ……。……だが、私は空を司る者……。……こんな透明な膜など、嘴一突きで……カアアアアッ!?」

クロウがシャボン玉を突こうとした瞬間、ノアがアルマの肩を蹴り上げ、あり得ない速度で(シャボン玉による加速バフ付きで)空中へと「射出」された。

「(――真理の重みを知れぇぇぇ! ――ニャン・プレス・空中機動版!!)」

ドムッ!!

空中で、ノアのお腹がクロウを包むシャボン玉に激突した。

シャボン玉がクッションとなり、クロウはノアの圧倒的な質量に押しつぶされるように、中庭の芝生へと撃墜されたのである。

「(……よし、ジャーキー奪還だ。……。……おい、クロウ。……我が質量を侮った報いだ。……地面の味をじっくりと噛み締めるがいい)」

「カ、カァ……。……負けた……。……まさか、文鎮が空を飛んでくるとは……。……だが、覚えておけ。……次は、お前の寝首を……いや、お前のツナ缶を必ず奪ってやる!」

クロウは悔しげに羽を整えると、奪い返されたジャーキーに未練を残しつつ、再び空へと舞い上がった。

「(……フン。……いつでも来るがいい。……我が胃袋という名の要塞は、空からの強襲など一ミリも許容せぬ。……次に来る時は、もう少し脂の乗った手土産を持ってくることだな!)」

「カァ! ――貴様の毛玉、次はもっと太らせて、転がり落ちる様を笑ってやるわ!」

去り際にそう言い捨てたクロウと、それを鼻で笑うノア。

王立アカデミーの中庭に、互いを「文鎮」と「焼き鳥」と呼び合う、奇妙で騒がしい宿命のライバル関係が誕生した瞬間であった。

「……。……。……二人とも、仲が良いのか悪いのか、よく分からないね」

アルマが呆れたように呟く中、ノアは奪い返したジャーキーを満足げに噛み締め、クロウが消えた空を不敵に見つめ続けていた。

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