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「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん
『黒猫の魔導王と、未熟な彼女たちの宣戦布告 〜王立アカデミー・立志編〜』

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第42話:虚無の心臓と、鏡写しの解答

「……おい、小娘。断言するが、あそこに立っているのは生身の人間ではない。……我の髭が、あれを『遺跡が吐き出した、最適化された悪意』だと断定したぞ。……見ろ、あの顔。……鏡を見るよりも不愉快な、貴様自身の『影』だ」

霧散した扉の向こう側。

巨大な漆黒の水晶――遺跡の心臓部である『虚無の核』の直下に立っていたのは、アルマと全く同じ姿をした、しかし色彩を失ったような灰色の少女だった。

「……私の、影……?」

アルマが息を呑む。その「影」の少女は、アルマと同じ杖を構え、その肩にはノアと同じ形の、しかし魔力を吸い込む黒い穴のような猫を乗せていた。

「驚くことはありません。……この遺跡は、侵入者の『最も優れた部分』を解析し、それを超える防衛機構を生成する。……あなたたちの勝利の鍵が『微弱な魔力の効率化』であるなら、この影は『完全なる魔力のゼロ』をもって、あなたたちを抹殺するでしょう」

空間の隅から、ザイドが静かに見守っていた。彼は助ける様子もなく、ただこの「究極の模倣」の結果を待っている。

影のアルマが杖を振った。

放たれたのは、シャボン玉ではない。周囲の空間そのものを削り取るような、透明な『虚無の弾丸』。

「……っ!? ――防いで、アルマさん!」

アリスが叫ぶが、ジャムのヒールもアリスのバフも、影の少女が歩くたびに霧散し、エネルギーとして吸収されていく。

「燕返し……! ――っ、手応えがないわ!」

キャスカの一閃も、影の身体をすり抜けるだけだった。影には質量がない。あるのは、あらゆる魔力を無効化する「絶対的な欠乏」だけだ。

「(……おのれ、不届きな複製品め。……我が肉球のふくよかさまで、ただの空洞に書き換えおって。……アルマ、怯むな! ――あやつが『無』であるなら、貴様は『有』の極致を見せつけてやれ!)」

「有の極致……? ――でもノア、私の魔力じゃ、あんなに大きな力は……」

「(……量ではない、密度だ! ――あの影は、周囲の魔力を吸い取ることで形を保っている。……ならば、吸いきれないほどの『意味』を、そのシャボン玉の中に詰め込んでやれ! ――いいか、思い出せ。……貴様のこれまでの歩みを。……王都で食べた美味しいパンを、仲間の温かさを、……そして我という名の、この重厚なる真理を!)」

「……。……。……わかった……!」

アルマは杖を両手で握りしめた。

影の少女が再び虚無の弾を放とうとした瞬間、アルマは自分の魔力だけでなく、自分の中にある「記憶」と「感情」のすべてを、杖先のシャボン玉へと注ぎ込んだ。

「……膨らめ、万物のシャボン! ――ただの魔力じゃない……私の、私たちの、全部を……閉じ込めて!!」

放たれたシャボン玉は、眩いばかりの七色に輝いていた。

そこには、ノアの重み、キャスカの鋭さ、ジャムの優しさ、アリスの明るさ……それらすべてが、濃縮された思念として渦巻いている。

影の少女は、そのシャボン玉を「魔力」として飲み込もうとした。

しかし、吸い込んだ瞬間に、影の身体が激しくひび割れた。

「(……ハッハッハ! 良いぞ! ――あやつが望んだのは『無機質な魔力』だ。……だが、貴様が放ったのは『生の執着』そのもの! ――計算式に組み込めぬ感情の奔流に、その空っぽの器は耐えられんのだ!)」

「……これで、終わりだよ!!」

アルマが杖を突き出すと、七色のシャボン玉が影の内側で爆発した。

「無」の世界に「意味」が溢れ出し、影の少女は耐えきれずに霧散し、背後の漆黒の水晶を巻き込んで砕け散った。

その瞬間、遺跡全体を支配していた吸魔の圧力が、一気に消え去った。

「……。……。……。……ふぅ……」

アルマはその場に崩れ落ちた。

最深部を満たしていた闇が晴れ、古代の魔導灯が、今度は穏やかな黄金色の光を灯し始める。

「……見事だ。……自分を無にして扉を開き、自分を全にして影を討つ。……見習い魔法使い、いや、アルマ。……お前は今日、この砂漠の真理を一つ越えた」

ザイドが歩み寄り、砕け散った水晶の中から現れた、小さな、古びた金属の箱を拾い上げた。

「これが、お前たちが守り抜いた『遺跡の心臓』だ。……王都へ持ち帰るがいい。……この中には、枯渇した世界を再び潤す、古代の『循環』の種が入っている」

「(……フン。……当然の結果だ。……。……おい、ザイド。……。……そんなことより、……この遺跡の最深部には『最高級の干し肉』が眠っているという伝承があったはずだが……。……それはどこだ。……我の鼻が、まだ諦めておらんぞ)」

「(ノア! もう、雰囲気ぶち壊しだよ!!)」

アルマの叫びが、ようやく静寂を取り戻した遺跡の最深部に、明るく響き渡った。

砂漠の試練を乗り越え、彼女たちはまた一つ、自分たちだけの「魔法」の輪郭を確かなものにしたのである。

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