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「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん
『黒猫の魔導王と、未熟な彼女たちの宣戦布告 〜王立アカデミー・立志編〜』

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第41話:乾いた残響と、最深部への扉

「……おい、小娘。断言するが、この先の空気はもはや『無』だ。……我の髭が、魔力はおろか、生物の根源的な『熱』さえもが一定の方向に引き抜かれているのを捉えたぞ。……これは、最深部という名のブラックホールが、我らという名のササミをまるごと飲み込もうとしている兆候だ」

ボイド・クローラーの追撃を振り切り、アルマたちはさらに回廊の奥へと進んだ。

シャボン玉の中に閉じ込めた光は、暗闇を切り裂く唯一の道標だが、その光さえもが時折、何かに引かれるように最深部の方へと歪んでいる。

「……息が、苦しい……。……魔力だけじゃなくて、体力まで奪われてるみたい……」

アルマは、肩で荒い息を吐きながらも、杖を握る力を緩めなかった。

シャボン玉の出力を維持するだけで精一杯だ。一歩歩くごとに、足元から力が抜けていくような感覚に襲われる。

「……アルマさん、これを使ってくださいまし。……王都から持ってきた、魔力保持のハーブティーですわ」

アリスが、震える手で水筒を差し出す。

ジャムも、必死に自分の体温を分け合うようにアルマの背中に手を当てていた。

「(……。……。……アルマ、止まるな。……。……あそこだ。……あの巨大な扉の向こうに、この遺跡の心臓部……そして、エドワードの眼鏡が言っていた『魔力枯渇の源』がある)」

ノアが鋭い視線を向けた先。

回廊の終着点に、壁一面を覆い尽くすほどの巨大な、純黒の石扉が立ちはだかっていた。

そこには一切の彫刻もなく、ただ「空虚」そのものが形を成したような、圧倒的な威圧感を放っている。

「……開かないわ。……物理的な力でも、魔力でも……ピクリとも動かない」

キャスカが体当たりをするが、扉はびくともしない。それどころか、触れた瞬間に体温を奪われ、彼女は真っ青な顔で手を離した。

「(……フン。……当然だ。……これは扉ではない。……『魔力の欠乏』そのものを鍵としている特殊な障壁だ。……。……。……アルマ、逆転の発想だ。……満たすのではない。……この扉の前で、貴様のシャボン玉を、極限まで『空っぽ』にしろ)」

「えっ……空っぽに? ――魔力を、なくすってこと……?」

「(左様。……周囲の『吸い取る魔力』と同調するのだ。……。……中身があるから、反発する。……中身がなければ、扉は貴様を『景色の一部』と誤認し、その口を開くだろう。……。……ただし、一歩間違えれば、貴様の存在そのものが虚無に溶けるぞ。……やるか?)」

アルマは、一度だけ仲間たちの顔を見た。

みんな、限界だった。けれど、その瞳にはアルマへの全幅の信頼が宿っている。

「……やるよ。……。……ノア、私を支えててね」

アルマは目を閉じ、シャボン玉の膜から「光」を消した。

そして、内側に溜め込んでいた魔力を、ゆっくりと、しかし確実に外へと逃がしていく。

自分自身の魔力を「ゼロ」に近づけていく感覚。それは、魔法使いにとって死にも等しい恐怖だった。

「(……案ずるな、小娘。……貴様が消えそうになれば、我という名の『圧倒的な質量』が、現世へと繋ぎ止めてやる。……。……今だ、いけ!)」

アルマが「空っぽ」の杖を扉に触れさせた瞬間。

漆黒の石扉が、音もなく霧のように霧散した。

「……開いた……!」

その向こう側に広がっていたのは、想像を絶する光景だった。

巨大な空間の中央、宙に浮く巨大な水晶体が、周囲の全ての光と魔力を吸い上げ、眩いばかりの漆黒を放っている。

そして、その水晶体の下で、一人の「人影」が、こちらを待っていたかのように静かに佇んでいた。

「……ようやく来たか。……学園の見習いども」

ザイドの声とは違う、もっと冷たく、そして聞き覚えのある声。

砂塵の中から現れたその影に、アルマは息を呑んだ。

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