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「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん
『黒猫の魔導王と、未熟な彼女たちの宣戦布告 〜王立アカデミー・立志編〜』

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第40話:漆黒の迷宮と、魔導の灯火

「……おい、小娘。断言するが、この遺跡の内部設計は、極めて性格のねじ曲がった『独り占め野郎』の手によるものだ。……我の髭が、空気中に漂うはずの魔力が、すべて一方向――すなわち最深部へと、強制的に徴収されているのを捉えたぞ」

縦穴を下りきった一行が辿り着いたのは、音も、光も、そして魔力さえもが死に絶えたかのような、巨大な地下回廊だった。

壁面に埋め込まれた古代の魔導灯は、すでに燃料を吸い尽くされたように沈黙し、足元に広がるのは底知れない闇。

ここでは、日常的に使う『ライト』の魔法さえ、放った瞬間に空間に吸い込まれ、一秒と持たずに消え失せてしまう。

「……暗い、なんてレベルじゃないわね。……自分の手さえ、どこにあるのか分からないわ」

キャスカの声が、湿った空気の中に吸い込まれるように響く。

「……アリスさん、手を離さないでくださいまし。……。……ジャムさん、何か……何か少しでも、明かりを……」

「……。……。……やってみます。……。……『灯れ(ライト)』!」

ジャムが震える手で杖を振る。だが、杖先からこぼれた淡い光の粒は、まるで飢えた獣に食われるように、シュンと闇に消えていった。

「(……無駄だ。……ここでは魔力を放つ行為は、砂漠に水を撒くよりも無意味な浪費だ。……。……おい、アルマ。……。……先ほどのゴーレム戦を思い出せ。……『外』が空腹なら、……『内』に蓄え、守り抜けばよいのだ)」

「……内に、蓄える……。……そうか! ――シャボン玉の中に、光を閉じ込めればいいんだ!」

アルマは、自分たちの周囲をごく薄い、しかし強固な魔力の膜――『シャボン玉』で包み込んだ。

そして、その膜の「内側」に向けて、ごく微弱な、しかし途切れることのない火の粉を放った。

「……膨らめ、密封のシャボン! ――光を、逃がさないで……!」

パッ、と周囲が照らし出された。

シャボン玉の膜が鏡のような役割を果たし、アルマが放った小さな光を内側で反射させ、増幅させている。

外部の「魔力を吸い取る空間」に触れることなく、彼女たちは自分たちだけの『光のゆりかご』を手に入れたのだ。

「……。……。……すごい……。……これなら、魔力をほとんど使わずに、ずっと明るいままですわ!」

アリスが感嘆の声を漏らす。

「(……フン。……当然だ。……我という名の重厚な存在が、このシャボンの中心に座しているのだ。……空間の吸気圧ごときで、我らの光が消えるはずもなかろう。……。……。……だが、見ろ。……。……光が届いたことで、ようやく『見たくなかったもの』が姿を現したぞ)」

ノアがあごで示した先。

回廊の四隅から、カサカサと不気味な音が近づいてきた。

それは、魔力を吸い取ることに特化した遺跡の清掃虫、『虚無の這いボイド・クローラー』の群れだった。

彼らは、アルマたちが作り出した「魔力の塊(シャボン玉)」という極上の餌を感知し、闇の中から一斉に這い出してきたのだ。

「……っ!? ――あんなにたくさん! ――キャスカ、くるよ!」

「……わかってる! ――私の剣、魔力はないけれど、……あんたたちが作ってくれたこの『光』があれば、斬れないものはないわ! ――燕返し・一閃!」

キャスカの剣が、シャボン玉の光を受けて白銀に輝く。

魔力を纏わない「ただの鉄」の刃は、魔力を食らう這い虫たちにとって、最も相性の悪い天敵だった。

「(……よいか。……ここでは『持たざる者』こそが最強だ。……。……ジャム、アリス。……無駄な魔力は一切使うな。……。……アルマ、シャボンの出力を維持しろ。……。……我らがこの『虚無の回廊』を抜けるとき、……王都のエリートどもが『欠陥』と呼んだ貴様らの能力は、……世界を救う唯一の『正解』へと昇華されるのだ)」

ノアの尊大な、しかし確信に満ちた言葉が、暗闇の中で一行の心を力強く支える。

一歩、また一歩。

自分たちの光だけを頼りに、彼女たちは遺跡のさらに深く――魔力枯渇の源流へと足を進めていく。

灼熱の砂漠の下、失われた文明の静寂の中で。

見習い魔法使いだった彼女たちは、今、自分たちだけの「魔法の定義」を刻み始めていた。

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