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「魔法使い見習いと生意気な猫」  作者: れおん
『黒猫の魔導王と、未熟な彼女たちの宣戦布告 〜王立アカデミー・立志編〜』

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第36話:月下の祝勝会と、重なり合う決意

「……おい、小娘。断言するが、この勝利の余韻に浸るよりも先に、我が髭は遥か南の彼方から漂う『乾いた不穏の香り』を捉えている。……これは、平穏という名の器が、未知の試練によって試されようとしている兆候だ」

学年対抗戦。

エドワード先輩の狡猾な揺さぶりを、仲間との連携と機転で跳ね返し、劇的な勝利を飾った二年生チーム。

競技場を埋め尽くした観客たちの熱狂が冷めやらぬ中、アルマたちは学園のテラス席で、新入生たちを交えた祝勝会を開いていた。

「アルマ先輩! 見てください、優勝カップに僕たちの名前が刻まれてますよ!」

レオが興奮気味にカップを磨き、リリ、ポプリ、ルルの後輩たちも「信じられないですわ!」とはしゃいでいる。

彼らにとって、この勝利は単なる結果ではなく、未熟な自分たちの「特性」が、誰かの助けになることを証明した記念すべき瞬間だった。

そんな賑やかなテーブルに運ばれてきたのは、豪華な肉料理……ではなく、エレーヌ先輩が用意した『彩り野菜のデトックス・サラダ』だった。

「……皆様。……。……本日は、皆様の『特殊な戦術』による過剰な内臓負荷を考慮し、特別メニューを用意いたしましたわ。……しっかり咀嚼そしゃくして、自分たちの成長を噛み締めなさいな」

エレーヌ先輩の言葉に、ノアはいつになく神妙な面持ちでレタスの一片を掴んだ。

「(……ヌォォォォ……。……浄化、される……。……我が内なる混沌とした魔力が、大地の恵みによって……なぎのように鎮まっていく……ゴロゴロ……)」

「あはは! ノアが野菜を食べてる! ――本当に、今日は良い日ね!」

キャスカがサラダを頬張りながら笑い、ジャムとアリスも、教え子たちの成長を眩しそうに見守っている。

そこには、かつて「自分たちは見習いだから」と、どこか何かに怯えていた彼女たちの面影はもうなかった。

宴が中盤に差し掛かり、後輩たちが疲れ果ててうたた寝を始めた頃。

アルマはそっと席を立ち、テラスの端で夜空を見上げているノアの隣に並んだ。

「……ねえ、ノア。……。……今日は、本当にありがとう。……。……ノアがいなかったら、私は今も……自分の魔法に自信が持てないまま、立ち止まってたと思う」

アルマは、夜風に揺れる自分の掌を見つめた。

魔法使いとしては、まだ微弱な火の粉しか出せない。

けれど、今日、リリと一緒に放ったあの「浮力」の感触だけは、確かに自分の内側に、消えない熱を持って残っている。

「(……。……。……。……小娘。……勘違いするな。……貴様を動かしたのは、我の言葉ではない。……。……我はただ、貴様の喉元に『意志』という名の火を点けたに過ぎん)」

ノアは金色の瞳を細め、南の空を指し示した。

そこには、王都の灯りの届かない、暗く深い砂漠の地平が広がっている。

「(……よいか。……我らのような、既存の枠に収まらん魔法使いは、常に『正解』という名の壁に突き当たる。……他人の決めた尺度で自分を測るのをやめたとき、初めて貴様は、貴様だけの魔法を手にするのだ。……。……。……アルマ、貴様はその杖で、どんな未来を描きたい?)」

「……。……。……未来なんて、まだ大きなことは言えないけど。……。……でも、今日みたいに……一生懸命な誰かが、自分のせいで泣かなくて済むような……。……。……未熟な私たちが、胸を張って歩ける場所を、守っていきたい」

アルマの瞳には、かつての迷いはなかった。

それは、見習い魔法使いとしての自覚と、それを超えようとする「決意」の輝きだった。

「(……。……。……フン。……。……ならば、準備しろ。……。……。……エドワードの眼鏡が、さっきからあそこで、嫌な匂いのする書状を持って待機している。……。……どうやら、我らの休息は……このサラダの最後の一口で終わりのようだな)」

ノアの言葉通り、影からエドワード先輩がゆっくりと歩み寄ってきた。

その眼鏡の奥の瞳は、これまでにないほど真剣で、厳かなものだった。

「……やあ、ベルンさん。素晴らしい祝勝会だ。……。……だが、君たちには、もう一段高い『真実』を見てもらう必要がある。……隣国の『魔導砂漠』。……そこで、数千年にわたり眠っていた、古代遺跡が覚醒した。……。……そこは、あまりに強大な魔力を持つ者が踏み込めば、その魔力そのものを食らい尽くすという、呪われた回廊だ」

エドワードが差し出した書状は、南風にさらされたように乾き、かすかな熱を帯びていた。

「……君たちの『効率を極めた、緻密な』魔導こそが、その迷宮を解く唯一の鍵なんだ。……。……。……アルマ。……見習いとしてではなく、一人の魔法使いとして。……行けるかい?」

アルマは一度だけ、すやすやと眠るリリたちの顔を見た。

そして、自分の肩にずっしりと乗る、相棒の瞳を見つめた。

「……。……行きます、エドワード先輩。……。……。……私たちが、どこまで行けるか……。……砂漠の果てまで、確かめに行きたいから」

ノアは不敵に喉を鳴らし、アルマの頬にそっと顔を寄せた。

「(……決まりだ。……。……砂の海に眠る、古代の亡霊どもに教えてやろう。……真の魔導とは、高みから見下ろす知識ではなく、……泥をすすりながらも明日を掴もうとする、意志の輝きだということを)」

祝勝会の明かりが静かに消えていく。

三日後の出発。

彼女たちは、初めて「自分たちのため」ではない、本当の冒険へと足を踏み出すことを誓った。

灼熱の砂漠。そこには、彼女たちの知らない、残酷で、しかし美しい世界の真実が待ち受けている。

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