第37話:黄金の海、砂漠への第一歩
「……おい、小娘。断言するが、この世で最も理不尽な環境とは、魔力が薄いにもかかわらず、日差しだけが過剰に供給されるこの『砂の地獄』だ。……我の漆黒の毛並みが、太陽の熱を無差別に吸収し、内部温度が限界に達しようとしているぞ」
王都から魔導列車を乗り継ぎ、さらに数日の旅。
アルマたちが辿り着いたのは、地図の南端に広がる広大な『魔導砂漠』の入り口だった。
見渡す限りの黄金色の砂丘。陽炎が揺れ、空はどこまでも高く、乾いている。
アルマの肩の上で、ノアは普段の威厳をどこへやら、べったりと力なく伸びていた。
その体は、太陽の熱を溜め込んで、ちょっとした湯たんぽのような熱さを放っている。
「……もう、ノア。暑いのはみんな一緒だよ。……。……でも、本当にすごいね。……こんなに広い砂漠、初めて見た……」
アルマは、眩しそうに目を細めて地平線を見つめた。
傍らには、学園の制服ではなく、砂漠用の白い防寒・防砂ローブを纏ったキャスカ、ジャム、アリスの姿がある。
「……暑いわね。……でも、ここから先は学園の先生も、エレーヌ先輩もいない。……私たちだけで、あの『遺跡』を見つけなきゃいけないんだから」
キャスカが、腰の剣を握り直し、砂を蹴って前へ進む。
「……水、多めに持っていて正解でしたわ。……ジャムさん、魔法で冷やしておいてくれますか?」
「はい、アリスさん。……でも、魔力の使いすぎには注意しないと。……。……あ、でも、あそこ! ――何か動いてます!」
ジャムが指差した先。
砂丘の向こうから、巨大な「何か」が砂を巻き上げながら、凄まじい速度でこちらへ近づいてきた。
それは、砂漠に生息する魔獣『砂潜り大蠍』だった。
「(……ほう。……。……挨拶代わりの刺客か。……。……よいか、小娘ども。……砂漠の魔獣は、王都のなまくらなスライムとは格が違う。……。……アルマ! ――修行の成果を見せろ! ――砂を操るのではない、砂の『流れ』を掴むのだ!)」
「……うん! ――いこう、みんな!」
アルマが杖を構える。
大蠍は、巨大な鋏を打ち鳴らし、砂を噴水のように吹き上げながら突進してくる。
「私の剣……。……砂に足を取られても、心までは沈まないわ! ――燕返し・砂塵斬り!」
キャスカが砂を蹴り上げ、視界を塞ぐ。
「今ですわ! ――ヒール・粘着ジャム!」
ジャムが放った魔力が、大蠍の足元をネバネバのジャム状に変え、その機動力を奪う。
「(……甘いぞ! ――アルマ、今だ! ――あの蠍の背甲、一点に狙いを定めろ! ――リリに教えた『質量』の真理を、今度は貴様が証明するのだ! ――重力よ、我が肉球の意思に従え!)」
ノアが鋭く鳴き、アルマの魔力に共鳴する。
アルマは、ノアの重さを魔力の指針にして、空中に巨大な『密度の塊』を練り上げた。
「……落とせ! ――重圧のシャボン・アイアンヘッド!」
アルマが杖を振り下ろすと、透明なシャボン玉の中に極限まで圧縮された「重みの魔力」が、大蠍の脳天へと直撃した。
ドォォォォン!! という衝撃波と共に、砂漠の主は砂の中に深く沈み込み、動かなくなった。
「……。……。……やった……倒せた……」
「……お見事ですわ、アルマさん。……一年前の私たちなら、逃げ出すだけで精一杯でしたのに」
アリスが微笑み、アルマの肩を叩く。
「(……フン。……当然だ。……我の指導を受けて、これしきの虫けらに苦戦するなど、あってはならんことだ。……。……。……だが……)」
ノアは不意に、砂漠のさらに奥、陽炎の向こう側を見つめた。
「(……小娘。……気を引き締めろ。……今のは、ただの門番に過ぎん。……。……あの砂の嵐の向こう側に……我の記憶にある『古代の匂い』とは違う、もっと禍々しい何かが……蠢いているぞ)」
砂漠の風が、アルマたちのローブを激しくなびかせる。
一歩進むごとに、王都の常識が通用しない未知の世界へと引き込まれていく。
見習い魔法使いだった彼女たちの、本当の「戦記」が、今、熱風と共に始まった。
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