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胃痛面談



 学園長のお部屋にて茶ぁしばきながら面談中。

 こう聞くとなんだか和やかなお茶会みたいな印象を抱くかもしれんが、こんなに殺伐としたティータイムがあってたまるかと言いたい。



「厳しいことを言うようだけれど、君への期待がそれだけ大きいということでもあるんだ。でなければ成績がいいからといって特待生に選ぶわけがないからね」


「恐縮デス」


「そんなにかたくならなくてもいいよ。ほら、遠慮せずお茶菓子も食べなさい」


「お構いなく」



 表向きは余裕を崩さず、目の前の腹黒初老学園長との対話に頭をフル回転中。脳焦げそう。

 営業スマイルで受け流しつつ、現状でのコイツの考えを分析して交渉のテーブルに着いてもらわなきゃならん。


 入学する前に、学園長は俺の魔法属性を二つとも把握している。

 『自分以外を対象にした高速化』という突然変異と、『加速』という他に例のない固有属性。


 魔法学園の長としては、魔法研究の貴重な資料として是非手元に置いて色々と実験してみたいことだろう。

 だというのに、試験で結果が出せなければ退学という告知をしてきた。

 もしかして、俺が思ってるよりも価値が低く見られてるとか?




「ところで今日の登校時に使っていた魔法の指弾だが、アレはなかなか見事だった。魔法だけではなく実戦に向けた訓練をしているのが分かるよ。あれほどさりげなく攻撃したのであれば、私以外には誰も気づかれなかっただろうね」


「っ……」



 ……バレテーラ。

 でもその場で注意や罰則を与えなかったあたり、セーフってことでいいのかな。



「それと、怒って魔法を放ちかかっていた君と同じ班のクライン辺境伯令嬢。先週までとは明らかに魔力のキレが違う。ほんの少し魔法回路を励起したのを見ただけで、出力も精度も段違いにレベルアップしているのが分かったよ」



 リーリャは魔法を発動しかかってはいたが、炎を出したりはしていなかった。

 発動前のわずかな魔力の動きだけでそこまで分かんのかよこのジイさん……伊達に学園長やってねぇってことかい。



「この短期間でどうやってあそこまで急激に成長できたのか、聞いてみてもいいかな?」


「さて? 彼女の素質がそれほど高かったということではないでしょうか?」


「クライン嬢以外の子たちも、魔力の絶対量が上がっているのが一目で分かったがね。そう、君以外の4人全員が、ね」


「……それは……」



 食えねぇジジイだ。

 思った以上にこちらの状況を正確に把握してやがる。




「もしも」



 どうにか誤魔化そうと言葉を選びつつ応対してると、少し大きな声で食い気味に学園長が言い放った。




「もしも今度の試験で芳しい成績を残せず君たちが退学になった時には、私の助手にならないかね?」


「はぃ?」




 ……なに言ってんだこのジイさん?

 明らかに文脈から外れた提案をしてきたことに困惑していると、一見穏やかな笑顔のまま話を続けた。



「彼女をはじめとした君のお友達の4人が不自然なまでの急成長をした理由は、君の扱う『加速』魔法の影響であると踏んでいる。違うかね?」


「……だとしたら?」


「はっきりと言おうか。もし私の予想が当たっているとすれば、二つの意味で君は危険だ。私の目の届くところに居たほうがいい」



 『二つの意味で』ってのは、『ラインの魔法は危険だ』ってことと『それを狙う輩に目を付けられる危険性がある』ってことかね。

 んなもん百も承知じゃい。だからコソコソ子爵邸に籠って訓練させてたんだっての。



「君だけじゃない。君の魔法の影響を受けた子たちも同様だ。短期間であれほどの成長を遂げたことを察知されて、ロクでもない連中に目をつけられたりでもしたらどうなるか分かったものじゃないよ」



 穏やかな笑顔で語っていた学園長の顔が少し厳し気で真剣な表情へと変わり、俺の目を見据えている。

 初老の穏やかな物腰に似つかわしくない、鋭い視線を向けながら告げた。



「悪いことは言わない。魔法を学びたいのであれば学園の生徒としてではなく、私の直轄に就くべきだ。そうすれば、君たちを利用しようとする悪しき者も迂闊に手を伸ばせなくなるし、君たちも安心して自身の魔法を磨くことができる」


「……」


「学園退学の汚名も、ただ退学するというわけではなく私に見込まれて助手となったとすれば理由も立つ。できれば試験を待たず今すぐにでもそうしてほしいくらいだが、どうだろうか」



 ……なーるほどね。

 言ってることは一見筋が通ってるし、リスク防止というこちらへのメリットも決して悪くはない。

 学園長の言っていることが全て本心からの言葉であるのなら、だが。



「急な話だ、今すぐに結論を出せとは言わない。だがあまり悠長にしていると、どこから君たちの情報が洩れるか分からない。今日は一旦この話を持ち帰って、お友達や御家族に相談して判断を仰いでみてほしい」


「……はい」


「この話は、私は他の者には口外しない。後日になんの話で呼び出されたのかを教師や同級生に問われた際には『君が希望する将来や進路に対する現状のすり合わせをしていた』と答えるから、君も口裏を合わせておいてくれ」


「畏まりました。……しかし、どのみち実戦試験には参加させて頂きたく思っています」


「そうかい。まあ、自身の実力を発揮しきれないままでいるのは悔しいだろうからね。……レオポルド公爵令嬢もらしくない、随分と意地悪なことをしていたな」



 ……実技試験の妨害、学園長も気付いてたのかよ。その場で言えやジジイ。



「無様な反則や妨害は減点・処罰の対象だがね。あれほど緻密でさりげない星魔法の行使は見事としか言いようがない。仮に私が指摘したとしても、しらを切られれば証明のしようがないんだよ。ごめんね」


「いえ、おかまいなく」



 こちらの思考を見透かすように弁明するのはヤメロ。怖いわ。



「ふふふ。正直に言うと、二人の特待生のどちらに軍配が上がるのか愉しみでもあるんだ。応援しているよ、ライン・マオルヴォル君」


「どうも。……ところで、恐縮ですがこちらからも少し相談があるのですが」


「ん、なにかな?」


「今度の実戦試験……そしてその後のことですが――――」




 トップになれなきゃ即退学なんて条件を出してくるなら、こちらからもそれ相応に結果を出した時のことを提示しても失礼には当たらんだろう。


 約束を守ってくれるとは限らんが、今この場での会話もこっそりと魔具で録音してるし、反故にされた時の切り札にもなるはずだ。



「――――以上のことをこちらから希望させていただきたく存じますが、いかがでしょうか」



 俺の提示した条件を呑むべきか否か、少し考えこむように口元を軽く覆いながらため息を吐いた後、穏やかな笑顔を作りつつ返答をした。



「……うん、いいだろう。どのみち試験が始まってからの話だしね。了承するよ」


「ありがとうございます」


「話はこれで終わりかな。あまり長引くと余計な勘繰りをしてくる者も出てくるかもしれないから、そろそろ帰るといい」


「畏まりました。……それでは、失礼します」


「ああ、気を付けてお帰り」



 ……あ゙ー、胃が痛ぇ。

 偉い人の前で脳みそと舌をグルングルン回すのは前世の会社員時代だけでお腹いっぱいだっての。胃もたれするわ。


 今回の話は一応リーリャたちと義母上には伝えておくが、まだ学園長を信用してもいいかどうかの判断がつかねぇ。

 耳触りのいい言葉ばかりを並べて騙してる可能性も充分考えられるしな。要警戒。



 だが、魔法協会の関係者ってわけでもなさそうだ。

 協会関係者だったとしたら、なにがなんでも俺という貴重なサンプルを手にするためなら手段を択ばないだろう。


 こんな相談をする前に『協会に入れ、でなきゃお前も同級生も実験台として確保する』みたいな脅迫紛いの勧誘をしてきてもおかしくはないはずなのに、随分と親身になってくれたようにも見えた。

 もちろんそれも演技である可能性も否定できないが、さて。



 ……にしても、途中で少し厳しめの表情を見せてたが、実際過去になんかあったのかね?





 お読みいただきありがとうございます。

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