学園生活再開
子爵邸での2日間……彼らにとっては5日間ちょっとの鍛錬が終わり、再び学園生活へ戻ることに。
2連休明けの学園は、相変わらず冷ややかな視線に満ちていた。
「オラ、道開けろやドンケツ組が! 邪魔なんだよ!」
「いって!?」
「ははは! ぼさっとしてんじゃねぇよ落ちこぼれぇ!」
「っ! アンタ……!」
「リーリャ、ストップだ」
登校途中にわざわざ罵りの言葉を投げかけつつ、ゴルディアにわざとぶつかってくるヤツまで出てくる始末。
そのまま駆けていくクソ野郎に、リーリャが半ギレで炎魔法をぶっ放そうとしているのを制止した。
「なんで止めるのよ! 今のどう考えてもわざとだったでしょうが!」
「落ち着け。今のお前が感情任せに炎魔法なんか使ってみろ。焼き殺すどころか消し炭にしちまうだろうが」
「同じ班のヤツが手ぇ挙げられたのを黙って見てろって言うの!? ますますバカにされるだけじゃないのよ!」
「できれば実戦試験当日まではむしろ舐められたままでいたほうが都合がいい。マークされていないことに越したことはねぇからな。だが……」
ポケットに忍ばせておいた小石を『加速10倍×高速化5倍』の割合で50倍速化し、笑いながら逃げていくボケ野郎の膝に向かって指弾。
分銅ほどの威力は出ないから、パシリ2号みたいに足が抉れたりはしないだろう。
「いでぇえッッ!!? あ、足がぁぁぁああ?!」
指で弾いた直後ほぼノータイムで着弾したから、なにがどこから飛んできたのかも分からなかったようで、腫れ上がった足を押さえながらボケ野郎が床を転げ回っている。
ステルス仕返しアタックだ。膝に石受けて衛兵にでもなってろバァカ。
「我慢できねぇのなら周りからバレねぇように上手くやれ。ホラ行くぞ」
「……や、やるわねアンタ……」
「ははっ! すっげぇな、お前! なにやったのか全然見えなかったぜ!」
「感心してねぇで『自分ならどうするか』とか考えとけよ。でなきゃやられっぱなしになんだぞ、こっそり仕返しする方法くらい自分で編み出せ」
それにしても……万引き野郎にメディアに赤パシリに今のボケ野郎と、人の足ぶっ壊してばっかだな俺。
殺傷の心配が薄いのと行動不能に陥らせるのに都合がいいから、四肢のいずれかを潰すのは理に敵ってはいるんだが。
今みたいな嫌がらせ程度ならどうとでもなるが、俺の時みたいに強い害意を持って攻撃された時の対処法も一応用意してある。
つっても、店長謹製の『魔導拡声機』を使って思いっきり『タスケテー』って叫ぶだけだが。
仮に住宅街で拡声機で大声を出したら2分後には治安衛兵がすっ飛んでくるほどの爆音が響く(検証済)ので、自衛にはこれで充分だろう。
そのまま教室に入りしばらく普通に過ごしていたが、今のところ毒姉からの接触はナシ。
同じ軍事部門とはいえランクが違うし、ここまで降りてくる理由がないなら当然か。
「オトザー! 居るかー! 母上から差し入れの野菜が届いたぞー!」
「……アニザ、そういうのは今日の授業が終わってから持ってきてくれんか」
メリーナ班に所属しているオトザの兄貴はフツーに訪ねてきているが。
実技試験ではバチバチな雰囲気だったが、普段はさほど険悪な関係でもない……というか普通に兄弟の距離感のようだ。
「バカモン! いいか、母上からの差し入れだぞ……? 万が一うっかり忘れて渡しそびれたりでもしたらまた飛び膝蹴りがこめかみにめり込むことになるだろうが!」
「まぁ気持ちは痛いほど分かる。直喩で。だが日中の教室に野菜の詰まった箱を置いておくのは不審がられるだろ」
「む? オレは特になにも言われなかったぞ。メリーナ様からは胡乱気な物を見るような目で睨まれたが」
「それを気にも留めないとはさすがだな、アニザ」
「ふはは。そう褒めるな、照れる」
「褒めてないが」
……うーん、いい感じにIQの低い会話。さながら男子校の休み時間のソレ。
レオポルド家がゴミ過ぎるだけで、兄弟ってのは本来こんな感じなんだよな。
「なんつーか、フツーに兄弟仲いいんだなアイツら。試験の時にはバチバチしてたのに」
「そういう状況じゃ遠慮しないようにしてるんだろ」
「ふーん、歳が近いとそんなもんなのか」
「ゴルディアには兄弟いないの?」
「今年で5歳の弟がいるけど、オレみたいにならないようにしっかり躾けられてるせいか、遊びに誘おうにも付き合い悪くてなぁ。嫌われてるわけじゃないとは思うんだが……正直もうちょっと親身になってくれてもいいんじゃないかと……」
「あ、なんか落ち込んでる」
なんとも悲し気な微笑を浮かべつつ自分の言うことにダメージを負うゴルディア君。
うんうん、兄弟との仲が深まらないのはつらいよな。
俺は毒姉と現在進行形でどんどん深まってるぞ。溝が。
さてさて、授業を受けつつ試験に向けて学園内でやっておかなきゃならんことがある。
ゴルディアたちにはそれぞれの分野で参考になりそうな意見や見本を学び、魔法の応用力を強化してもらう。
こればっかりは子爵邸の中だけじゃどうしても限界があるしな。
知識豊富な先生や資料を利用しない手はない。魔法学園ってのは元々そういう場だし。
一方、俺のほうは『お偉方』相手に裏で色々と悪だくみの予定。
え、その相手は誰だって?
『軍事部門のライン・マオルヴォル君。本日の授業が終了次第、学園長室までお願いします』
……どう接触したもんかと思っていたら、まさかあっちのほうから呼び出しがくるとは。
あれか? 期待してたのにゴミみたいな試験結果しか残せなかったから特待生の待遇の剥奪宣告とかかな?
別にいいけどな。特待生でいること自体はさほど重要なことじゃないし。
……ないとは思うが、まさか退学の通知とかじゃねーだろうな。
コネの相手は偉けりゃ偉いほどいい。相応に色々とリスクもデカいがね。
ほんじゃあちょーっとお話しましょうかねぇ。茶菓子は出るかなー。
そして放課後。
モダンな雰囲気の調度品が並ぶ学園長室にて、この学校で一番のお偉いさんとのご対面。
ぱっと見は優し気な雰囲気を纏っている初老の爺さんだが、その口から発せられる内容は容赦のないものだった。
「まず通告からだけど、今度の実戦試験で君の班がトップになれなければ全員退学ね」
「アッハイ」
うん、知ってた。
覚悟はしてたけど、こうして面と向かって言われると危機感が増しますなぁ。
「もちろん、上級生たちも含めた全ての班の中での話だよ」
「エッアッハイ」
……思ったよりもハードな要求だったわ。
学園長のほうからそこまで言うか普通?
まぁ元からそのつもりだがね。
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