鍛練初日(2時間半)
魔法鍛錬初日。
開始してから現在2時間24分経過。
つまり5倍速のこいつらにとっては12時間経ったことになるが、高速化した状態で色々と試している様は中々シュールだな。
『★$&K@#!』
『Ω&λ%■β!?』
……上手くいってるのかいってないのか、どっちなんだろうか。
リーリャとオトザが色々試しながら相談しているようだが、なに喋ってるのか早すぎて全然分からん。キュルキュルうるさいだけだ。
『▽……▽&、●★#αΓ」
「え、なに? ……ああ、風呂ね。パシリ1号、浴場の準備をしてやれ。もう湯は沸いてるからタオルと浴衣着の用意を」
「は、はい……」
マールが高速でもじもじしながらなにかを訴えてきて、一瞬何事かと思ったがただの湯浴みの催促だった。
事前に風呂やメシの合図は決めておいてよかった。いちいち高速化解除するのメンドイし。
「2号、3回目のメシが済んだらすぐ眠れるように寝床の用意も忘れんなよ」
「ひいぃ、忙しすぎるぅう……!」
パシリのマスク二人が目を回しながら右往左往しているが、食費がかかるしこいつらまで高速化してやるつもりはない。頑張れ。
4人とも順調なのか行き詰ってるのかもよく分からんが、このパシリどもが今の状況に慣れるだけでも意味はある。
「……あれ? そういやさっきからゴルディアがいねぇがどこ行った?」
「そういえば、ちょっと前に正門から外へ出ていったような……速すぎてよく見えませんでしたが」
止めろよ。……いや見てたとしても速すぎて止められないか。
街にでも遊びに行ったのかな? アホかアイツは。
なんせ高速化されている状態じゃ屋敷の外ではまともに生活できやしないってのに。
街で買い物や娯楽を楽しむことも無理。
仮に食堂でゆ~~っくり喋ってどうにかメシを注文できても、その後に何時間も待たされたらたまらんだろう。
『■●β$λ#*W!!』
あ、言ってるそばから戻ってきた。足はっや。
『街へ行っても全然話が通じねぇ』的な文句を言ってるようだが無視。いいからさっさと風呂入ってメシ食って寝ろアホ。
この4人にこの二日間でやってもらうのは『やれるようになるべきこと』に対し、『できること』とそれを『どう運用すればいいのか』を研究・自覚してもらうことだ。
例を挙げるのなら、リーリャは出力の高い火属性魔法を使える。
それを直接相手にブチ当てるだけで大抵は消し炭にできるだろうが、んなことすりゃ実戦試験で死人が出ちまう。
そうなりゃペナルティや退学じゃ済まん……っていうか色々と完全にアウトだ。
だから『死なない程度でなおかつ相手を無力化できる攻撃』が必要になってくるわけで、そのためにどんな魔法を使えばいいのかを試してもらってるってわけだ。
例えば火球を直接命中させるんじゃなくて、近くの地面に着弾させてその衝撃波や礫を当てるとかなんとか。
それでも殺傷力はかなり高そうだが、そこは上手く工夫してもらおう。
他のメンバーも、オトザは植物魔法で相手の動きを阻害できそうな植物や魔物の動きを制御できる植物を探したりしている。
それらを自在に制御できれば、実戦試験で大きなアドをとれるだろう。
つっても、子爵邸周辺の植物だけじゃ限界があるし、週明けに協力を得られそうな人に接触する必要がありそうだが。
マールのほうは身体操作魔法でこれまでとは違う形のアプロ―チを模索しているようだ。
例えば五感の強化。これまでは視力を強化する時には身体強化魔法と同じように、あくまで『目』の機能の範疇に留まるような強化しかできなかった。要するに視力を1.0から2.0にするくらいのもんだ。
だが、身体操作魔法ならば眼球の形状そのものを変化させることでまるで望遠鏡あるいは顕微鏡のように遠くのものを観察したり、極小サイズのものを観測できるようになる。
目玉の形が伸びたり広がったりするのはギャグマンガやカートゥーンみたいで不気味というかシュールだが。
他にも殴る蹴るの近接戦闘の訓練なんかも俺専属の講師(訓練中だけ高速化)にお願いして同時進行してもらってるが、どうにも自分から攻撃するとなると尻込みしてしまう様子だ。
どうにもマールは殴られることよりも殴るほうが苦手っぽいな。お優しいことで。
……逆に言えば、そのへんのタガが外れた時にどうなるのか分からんのが怖いがな。
さて、問題はゴルディア君だが……。
どうにも風魔法の練習を主にしていて、構築魔法のほうはほとんど進めていないようだ。
まあ、鍛錬の順番としちゃあ間違っちゃいない。
即戦力として使える風魔法にできることを優先的に鍛えておけば、とりあえず一定の成果は上がるだろうからな。
だが俺が期待してるのはそれじゃない。
コイツの魔法の可能性は、まだまだそんなもんじゃないはずだ。その程度で満足してもらっちゃ困る。
などと現状の課題やら考察やらをノートにまとめていると、微妙な顔をしたパシリたちが話しかけてきた。
「あの……ゴルディアさん、寝て起きたかと思ったら今度は庭の木の上に登ってボーっとし始めたんですけど」
「魔法の鍛錬してるようには見えないっていうか……ぶっちゃけサボってるよなアレ」
パシリたちが指さす方を見ると、ゴルディアが両手の指を組み枕にして呑気に寝そべって空を眺めながらダラダラしていた。
……ちょーっとこれはお話が必要ですね。
ゴルディアの高速化を解除し、気の上で寝そべってるアホの顔面目掛けて、加速した分厚いノートをぶん投げブチ当てた。
「ぶごぇっ?! 痛っってぇえええっ!! な、なにしやがんだライン!」
「サボってんじゃねーぞバカ野郎! 真面目にやらねぇとメシ抜くぞテメェ!」
「や、やろうとはしてるっつーの! ……ただ、ちょっとスランプになってるだけで……」
「スランプだぁ? いくらなんでも早すぎるだろ。まだ始まったばかりでいくらでも鍛えようはあるだろうが」
「風魔法を色々試してみたんだが、竜巻を作って操ったりだのカマイタチで切り裂いたりだの、もうできることの大半は把握できちまったよ。これ以上どう鍛えろってんだ?」
……意外と鍛錬自体は真面目にやってたみたいだな。
あくまで風魔法のほうは、だが。
「構築魔法のほうはどうした?」
「あー……正直言って、どう扱えばいいか、どう鍛えればいいのか全然分かんねぇんだよ。剣とか武器を創り出すこともできるけど……ほら」
魔力でできた光る糸のようなものが掌から伸びて、グルグルと編み込みながら調整しつつ剣の形を形作っていき、1分ほど経ったところでようやく構築完了。
見た目は完全に金属製の剣そのものだが、ちょっと時間がかかってんな。
「見てのとおり時間がかかるし、そもそも剣がほしけりゃわざわざ魔法を使う必要ねぇだろ。フツーに本物の武器を用意したほうが楽だぜ」
「やっぱりか……ゴルディア、お前はちょっと普通の鍛錬は中断して、構築魔法の設計訓練を進めてみないか?」
「設計……訓練? どういうことだ?」
「お前、見たところいちいちゼロからイメージして構築してるだろ。そりゃ時間かかって当然だろーが。なんで『保存回路』を使わねぇんだよ?」
「……すまん、保存回路ってなんだ?」
「お前、マジか……」
嘘やろ。保存回路の存在を知らずにこれまで魔法使ってたのかよ。
安定して魔法を使う上で欠かせない回路だぞ。逆にすごいわこいつ。
『保存回路』とは、言ってしまえば魔法のセーブ&ロード機能を司る回路だ。
例えば火球を放つ魔法を使う際に、いちいち『掌大の規模』で『球状の炎』を『前方に発射』という手順をゼロから踏んでいたら時間がかかって仕方ない。
それをあらかじめ決められた挙動をとるように保存できるのが『保存回路』。
後から調節も利くし、素早く魔法を使うのに不可欠な回路だ。
ちなみに俺も『2倍速』とか『5倍速』とか速度の調節をするのに保存回路を利用している。
もっとも、最初っから保存回路に頼りすぎると細かい制御が苦手な魔法使いになってしまうこともあるから、俺も店長から教えてもらったのはかなり後になってからだったけどな。
……待てよ、それでここまで精巧な形の剣を1分程度で作れるってことは、保存回路を使えばもっと複雑な構造の物体や道具もすぐに作り出せるってことか……?
これは、鍛え方次第で思ったよりもできることの幅が広くなりそうだ。
「ちょっとこっちこい。店長も呼んでくるから。お前には特別講習コースを進めてもらう」
「え、ちょっ、なんだそのどこか陰のある笑顔は? なんか猛烈に嫌な予感がするんだが……? お、おい、なにするんだ!? マジでなにするつもりなんだよ!?」
喚くゴルディア君を引き摺りつつ、スペシャル講習コースへとご案内。
頼むぜゴルディア君。今回の試験、もしかしたらお前がキーパーソンになるかもしれねぇぞ。
そうだ、この際ゴルディアやマール以外のメンバーにもそれぞれ専属の講師を担当させようか。
高速化される人数が増えるからパシリたちの負担も増えるだろうが、まあそこはどうでもいいや。
……さて、それと同時に俺のほうも今後のプランを練っておかねぇとな。
試験で好成績をとる以外にも、同時進行で取り掛からなきゃならんことが山積みだしな。あー忙しいわー。
お読みいただきありがとうございます。




