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一夜明けれどまだ蒼く熟さず




 多少危ない場面もあったが、どうにか無事に全員の魔法回路を解放できた。

 目を覚ました後もしばらくグロッキーだったが、夕食時には持ち直していたようで一安心。



 二属性持ちのゴルディアだけは寝る前にもう一度回路解放処置をする予定だがな。頑張れ。




「ぎゃぁぁぁあああああ!!!  うぎょべばばばばばああぁぁぁあああ゛!!!」




 深夜の子爵邸にゴルディアのきたない叫び声が再び響き渡り、ようやく今日のスケジュールが完了した。

 今夜はぐっすり休め。明日と明後日の2日間は文字通り普段の何倍も頑張ってもらうんだからな。





 そして次の日。

 2連休の初日だが、こっからが本番だ。



「はいはい、皆おはようさん。昨日は大変だったな、よく眠れたか?」


「おかげさまで泥のように眠れたぜ! 殺す気かテメェ!」



 恨めしそうに目を細めながら半ギレのゴルディア君。ごめんて。

 他のメンバーも昨日のことを思い出しているのか、こちらを睨んでいたり怯えたように身を竦めていたり、警戒しているのが丸わかりだ。

 つっても、今日からのスケジュールは基本的には俺や店長がどうこうする段階じゃないんだがな。

 


「さて、魔法回路を解放したことで、お前たちは昨日とは比較にならないほどの凄腕魔法使いに……なる準備ができてる状態だ」


「準備ができてるって……なんか煮え切らない言い方だな」


「もう充分に魔法の出力は上がってるわよ? ほら、昨日までせいぜいこのくらいが限界だったのに……」



 ゴゥ、と炎の柱を掌から空へ向けて放つリーリャ。

 半径約20㎝くらいの炎が、3mくらいの高さまで昇っている。

 これだけでも結構な出力だが、今のレベルの限界はこんなもんじゃないはずだ。



「ふっ!」



 リーリャが軽く気合を入れると、一気に炎の出力が跳ね上がった。

 昨日までとは桁が違う。軽く見積もっても10倍は出力が上がっているように見える。


 さらに、立ち昇るばかりだった炎の形がみるみる変わっていき、最終的に大きなネコのような姿を模った。

 ……うん、器用なのは分かるがなんでネコ……? 毛づくろいの仕草までさせる無駄な芸コマまで披露してるし。



「本気を出せばこれくらいできるようになったわ。……たった1日でここまでレベルが上がると、これまでの努力はなんだったのかって虚しくもなってくるけど」


「私も種の成長スピードが段違いに早くなったうえに、植物の操作もきめ細かい制御ができるようになった」


「わ、私も……だ、出せる力がすごく強くなりました。あ、あと、これまでできなかった体の動きも、当たり前のように……」


「俺の構築魔法は……まあ作れるもんの幅がスプーンやフォークから三叉やスコップくらいにまでデカくなったくらいかな。あと風魔法のキレもよくなったぜ!」



 ゴルディア君、やる気あんのか。

 あんだけ複雑な回路もってるのに強化されたのがサイズだけってことは絶対にないはずだぞ。もっと色々と試せや。



「正直、これだけでもここへ来たかいがあったと認めざるを得ないわね。業腹だけど」


「回路を解放する際の、あのなんともいえない奇妙な衝撃は二度と味わいたくないくらい凄まじかったな……」


「オレは二度味わってるんですがそれは」


「で、でも、これだけの力があれば、きっと実戦試験でも、結果が出せるかも……!」


「そうね、今なら上級生相手にも引けを取らないはず―――」




「んなわけあるかアホ。ちょっと強くなったからって楽観してんじゃねぇ」


「なっ……」



 既に戦勝ムードで和気藹々と話しているガキどもに、無慈悲な一言を投げかけた。

 いい気分でいたところに水を差されて機嫌を悪くしたのか、眉間に皺を寄せてこちらをねめつけている。



「仮に今の状態で前回と同じ内容の実技試験を受けたとしようか。まあ、メリーナの星魔法の影響があったとしてもそこそこの成績は修められるかもな」


「だ、だろ? そんな辛辣な言い方するほどでも……」


「でも、今の俺たちに求められているのは『そこそこ』じゃなくて、圧倒的な好成績で次の試験を終えることだ。平均前後の成績じゃ、前試験の負債を取り戻すには程遠い」



 メリーナも厭味ったらしく『平均の倍ほどの点を取れれば巻き返せる』と言っていたが、あれは決して極端な推測じゃなかった。

 アイツの言葉を肯定するのはムカつくが、そんくらいの点がとれなきゃ今後は常に『退学』の二文字が付いて回ることになる。



「そのうえ、今度の実戦試験は範囲の広い屋外での戦闘訓練だ。メリーナの妨害もより露骨になってくる……というより妨害し合うのが当たり前の試験内容になってくるだろう。今のままじゃ前回よりもボロボロの成績で終わるだろうな」


「じゃ、じゃあどうすれば……!?」


「メリーナや他の生徒の妨害を踏まえたうえで、いくつかステップを踏みつつ準備を整えることになる。そのための第一歩がこの組の基礎能力向上ってわけだ」


「基礎能力向上って、魔法回路の解放がそうなんじゃないの?」


「それだけじゃ不十分だ。これからお前らには休みの間みっちりと自分自身の魔法でなにができるのか、そしてなにができないのかを実践して把握してもらう。そんで休み明けには学校で座学面の学習をして、応用できそうな使い方を覚えていってくれ」


「休みの間となると二日だけか。回路を解放してできることの幅がかなり広がったようだし、時間がいくらあっても足りなさそうだな」




「その通り。そこで俺の出番です。オトザ、ちょっと触るぞ」


「え?  ―――■〇◇%#Ω●◇(うわ、なんだなんだ)!?」



 オトザの手を握り『高速化』魔法5倍速を発動。

 急に高速化されて困惑してるのか、キュルキュルと甲高く意味不明な声を出しながら超高速の身振り手振りで抗議し始めた。シュール。



「ちょ、いきなりなに!? オトザ、どうしたのよ!」


「$&●#%◇■!!」


「早すぎてなに言ってんのか全然分かんねぇ……」


「す、すごい速さで動いてますね……」



 高速化した時間は12秒ほど。

 解除してやると、オトザが目を見開いてへたりこんでしまった。

 いきなり自分の周囲がゆっくりになるミステリーゾーンに迷い込んだような状況に陥ったもんだから、ちょっと怖かったんだろうな。メンゴ。



「あ、も、戻った……!? なんだったんだ今のは……?」


「お疲れさん。さて早速で悪いが質問だ。オトザ、今どれくらいの間、周りがゆっくりになっていた?」


「え? だ、大体1分くらいかな……?」


「リーリャ、オトザの様子がおかしくなっていたのはどれくらいの時間だ?」


「ええと……10秒くらいかしら」


「どちらも概ね合ってるな。ごらんのように、俺の高速化魔法は対象の短い時間を長い時間へと伸ばすことができる。たったの十数秒が1分にまで伸びるってことだ」


「あ、ああ、高速化魔法だったのか。馬車でも使っていたが、高速化されるとこんな感じなのか……」


「なんでいきなりそんなことを……? ! まさか……?」

 


 勘付いたなリーリャ。

 話が早くて助かるわー



「お察しのとおり、たった二日間でも俺が高速化すれば何倍にも長引かせることができるってわけだ」


「な、なるほど。これなら充分に魔法を練習する時間が確保できるのか……!」 


「その通り。いきなりあんまり長くすると色々と問題あっから、最初のうちは5倍速で朝8時から夜の20時までの12時間だけにしとくがな」


「12時間も魔法を使いっぱなしなんてできるの?」


「高速化魔法は魔力を消費しないから余裕デース」


「12時間×2で24時間……それを5倍速だから、丸5日分の時間ができるってことか! でも、魔力を使わねぇのならなんで1日あたり12時間ずつしかダメなんだ? もっと長くできねぇの?」


「理由はいくつかあるが、まず俺が健康的に生活するためだ。いたいけな9歳児に対してそれ以上不眠で高速化魔法を維持しろってのは酷な話だぜゴルディアお兄ちゃん」


「あ、そうか。スマン」


「いたいけな……?」



 なにか言いたいことがあるなら聞くぞマールお姉ちゃんよ。

 他のメンバーも眉間に皺寄せて疑問符浮かべてんじゃねぇぞコラ。



「次に、長時間の高速化は便利ではあるが、反面いくつかのデメリットがある点だ」


「デメリット?」


「当たり前のことだが、高速化してる間の生命活動も倍速化されているから、その分相対的に老ける」


「ふ、老ける!? 高速化されるとすぐにジジイになっちまうってのか!?」


「アホ。何年も毎日高速化したりでもしないとンなことにゃならねぇっての。3か月後の実戦試験までの間、週末の2連休だけ高速化して過ごすだけならさほど影響も大きくねぇだろ。後半に倍速の倍率上げることを考えても、せいぜい他と比べて2~3か月歳をとるくらいで済むから大きな問題にゃならねぇだろ」


「そ、そうか……よくよく考えたら、高速化された状態で普通に丸5日過ごすってだけの話だし当然か」


「まあこれはいいとして、問題はもう一つのデメリットのほうだ。さっきも言ったが、生命活動も高速化されているってことは、その分の生活費用や手間が何倍にもかかるってことになる」


「生活費って……また生々しい問題ね」


「実際大変だぞ? メシ作る手間や風呂に身嗜みに睡眠・排泄まで常人の何倍も必要になる。倍速化されてる側はいいが、それらの世話をするほうの身にもなってみろ。使用人の手が足りねぇし、財布が軽くなっちまうわ」


「そう言われると、高速化魔法も便利なだけじゃないんだな」


「世話係も高速化すりゃ問題ねぇんじゃねぇの?」


「そいつらの食費も倍になっちまうぞ。生活費については来週から対策を実行するとして、等倍速のままで馬車馬の如く働く人間が必要になってくる」



 パチッと指を鳴らすと、後ろのほうに待機させておいた二人分の人影が駆け寄ってきた。

 黒いマスクを被った執事服の男と、赤いマスクを被り松葉杖をついている男。


 そう、数日前に俺を襲った平民のアホどもだ。

 あのまま牢屋にぶち込んでもよかったが、こいつらの身の回りの世話をさせるバイトとして有効活用したほうがよさそうだと判断して、子爵邸で飼うことに。

 なお、義母上から死ぬほど(物理的にも)冷たく諭されて完全に心が折られているので、いくらコキ使っても反抗の心配はない。


 あとマスクは被ったままにさせといた。

 ぶっちゃけこいつらの顔なんか覚える気にもならんし。



「つーわけで、こいつらの出番ってわけ。今後倍速化中のお前らをサポートするパシリ1号と2号だ。メシや寝床の準備についてはこいつらに言いつければすぐに対処させるからヨロシク。ほれ、挨拶しな」


「よ、よろしく、お願いします……」


「……マスク被ってるうえに赤いほうは片足引き摺ってんだけど、大丈夫なのかそいつら」


「だいじょぶだいじょぶ。2号はポーションで治療中だが、来週にはフツーに歩けるくらいにはなってるだろうし、こんな状態でもさほど問題はねぇはずだから遠慮することなくガンガン使ってやってくれ」


「ひでぇ……そいつらがいったいなにしたってんだ?」


「俺の頭を殴ったうえに腕を折った。そのせいで試験がゼロ点になって俺たちがこんな苦労してるってわけだ」


「よし、使い潰す勢いでコキ使いましょう」


「ひいぃ……!」



 悲壮感に満ちた声漏らすな2号。自業自得だろうが。給料は払ってんだから文句は言うなよ。


 さてさて、説明も済んだところでいよいよ5倍速鍛錬の開始である。

 今はとにかく強化された魔法に慣れること、そしてその次には魔法の連携を覚えてもらおう。


 上手くいけば、この世界初の戦術を駆使して暴れ回ることも可能だと踏んでいるが……そのためにはゴルディアの魔法がカギとなる。

 コイツにやる気を出してもらわにゃならんが、構築魔法に慣れてないせいかまるでポテンシャルを活かしきれてない。

 ……ならば、モチベを引き出すために新たな口車に乗せるとしますかね。ケケケ。

 お読みいただきありがとうございます。

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