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暴走



 リーリャに続き、今度はマールの回路だ。

 加速した状態で魔法を使わせると、案の定叫びながら暴走した。



「いやぁぁああぁぁぁあああ゛っ?!!!」



 マールが魔法を発動すると、左手が5倍くらいにまで巨大化してしまった。

 うわぁ……左手の腕力を少し強化する魔法を使ったはずだが、加速させるとここまで露骨に変化するもんなのか?



「んん!? 『身体強化』の魔法だって言ってたが、まさかこりゃ『身体操作』じゃないか……!?」


「? それってなんか違うのか?」


「全然違う。身体強化は『肉体が本来持つ機能を強化』する魔法だが、身体操作はそれに加えて『肉体を変化させて新たな機能を追加』できる、いわば上位互換だよ。星魔法にも劣らないくらい相当レアな魔法のはずだが、まさかこんなお嬢ちゃんが持ってるとはねぇ、驚きだ!」


「ひぃぃいいいぃぃいいああぁぁぁぁぁああぁぁあっっ!!!」


「……とりあえず、マールを止めてやってくれ。うるさくて話に集中できねぇ」


「ほいほい、ビリビリっとな」


「びゃぁぁあああっ?!!!」


「ひでぇ……」



 叫びっぱなしのマールを電撃魔法で黙らせ、二人目の処置完了。

 それを見ていたゴルディアとオトザが顔を引き攣らせているが、これからお前らもこうなるんやで。



「じゃあ次はオトザ。弱めの植物魔法を頼む」


「あ、ああ。魔力を栄養代わりにして、植物の種を成長促進する魔法『グロゥプロモ』でいいか?」


「じゃあそれで。……先に言っとくが、弾丸栗は止めとけ。危ないから」


「ああ、無害な花の種にしておくよ」



 ……にしても、属性とは別に使う魔法にいちいち固有の名前とか付けるのが普通なのか?

 漫画のキャラの必殺技じゃあるまいし。

 まあ、そのほうが魔法を使いやすいとかなら話は分かるが。



「で、では……うっ……?!」



 回路を加速した状態で魔法を発動させると、オトザが握っていた種がパキパキと乾いた音を立てながら、その表皮を開いていく。

 植物魔法によって発芽が始まったのか。



「うぉぁぁぁああああっ!!?」


「! 種を捨てなっ!」



 魔法の暴走が始まった直後、店長が叫んでいるオトザの手を弾いて種を手放させた。



「え? ……うぉわぁっ?!!」



 直後。

 手から弾き飛ばされた種から、蔓なのか茎なのかもよく分からない、ひも状で緑色の何かがウネウネと蠢きながら伸びていく。


 ……言っちゃ悪いがかなり気色悪い。

 植物魔法が暴走するとこんな感じになるのか……キモい。



「ぬぁぁぁぁあああっぁあああっ!!! っっぎゃぁぁあ?!!」


「ほいほい、ストップストップ」



 店長による本日三度目の電気ショックにより、オトザ君気絶。

 爆速で成長していた植物も、魔力の供給が無くなったためすぐに萎びてかれていく。

 意識を失ったオトザ君は、そのまま訓練場の端へリーリャたちと一緒に雑魚寝させられてしまった。扱いが雑ぅ。



「いやーあぶねーあぶねー。もうちょっと遅かったら、種がコイツの手の皮ぁぶち破りながら根っこ張って苗床にしちまうところだったね。最悪、大手術になりかねなかったよハハハ」


「ホントにあぶねぇな!? 危険はないんじゃなかったのかよ!?」


「だから危なくなる前に対処しただろ? こんくらいセーフセーフ」


「一歩間違えば完全にアウトだっただろーが!」



 正論だが、多少のリスクは承知のうえだって話だったろ、ゴルディア。

 ここまできたなら腹ぁくくれよ。それとも……。



「今更ビビッたんだってんなら、お前だけやめとくか? あー、言っとくがこれは責めてるわけじゃないぞ。無理にやらされたなんて後で文句言われるのが面倒だから、逃げ道を用意してやってるだけだ。退くなら今が最後の機会だが、どうする?」


「に……逃げねぇよ! マールやリーリャまで体張ってんのに、オレだけ尻まくるなんざダサすぎるだろ!」


「うんうん、よく言った」


「男の鏡だぞゴルディア君」


「その胡散臭い笑顔止めろお前ら! かえって不安になってくるっての!」



 店長と一緒にすごーく優しい笑顔で励ましつつ、ゴルディアの処置を始めた。

 うわ、魔力を流してみて分かったけど、ゴルディア君の回路って他のメンバーに比べてかなり複雑みたいだ。


 大筋の回路から枝分かれしてる数が他の倍近い。ラインハルトほどじゃないが、かなりの大器晩成型っぽいなこりゃ。

 しかも属性器官が二つある。コイツも複数属性持ちか。



「随分と複雑な回路だが、使えるのは試験の時に使ってた『風』魔法と……もう一つはなんだ?」


「『構築』魔法だよ。魔力を使って武器や道具を一時的に作ることができる魔法だ。つっても、今んとこあんまり使いもんにゃならねぇけどな」


「そりゃなんで?」


「サイズがデカかったり、構造が複雑な道具はうまく作れねぇんだ。絵描きだって練習しなきゃ上手い絵なんか描けねぇだろ? それと一緒だよ。今んとこせいぜいフォークやナイフくらいの簡単で小さなもんしか無理だな」


「つまり、これまで構築魔法の練習サボってたから使えねぇってわけか」


「……」



 もったいねー。

 要は物質を創造できる魔法ってことだろ? 汎用性抜群じゃねぇか。

 鍛えればどれだけ……ん? 店長、そんな深刻そうな顔してどしたの?




「……ライン、コイツの回路を開く前にアタシを高速化しときな」


「へ?」


「構築魔法は暴走した時、どんな結果になるか分からん。即座に対処できなきゃ危ないかもしれねぇ。ヤバそうならすぐにコイツを気絶させるから、先に準備をしときな」


「……了解」



 いつになく真剣な表情の店長の迫力に、こちらも意識を引き締めた。

 眉間に皺寄せながら口を一文字にしてる時は一切おふざけ厳禁の合図だ。気を付けよう。



「準備完了だ。先に『構築』魔法のほうから頼むわ」


「……分かった。じゃあ、スプーンを作る魔法でも……う゛っ……?!」









「ッッ!! ハナレロ(離れろ)ォオオッ!!!」






 魔法を発動した直後、高速化されていて何を喋ってるのかは分からんかったが、店長が滅茶苦茶甲高い声を上げたのが聞こえた。

 それと同時に、ものすごい勢いで視界がスライドして、一瞬のうちに魔法の発動した場所から離れたのが分かった。


 店長が、俺とゴルディアを抱えて走ったんだ。

 魔法で防ぐでもなく、必死の形相で歯を食い縛りながら子供二人分の重量を持ち、運動不足の四肢をフル稼働しているのが高速化していても分かった。



「うぁぁぁぁあぁぁああ゛っ?!!」


「チィッ! ネテナ(寝てな)!!」


「ぎゃあぁぁぁあ!!」



 叫び続けているゴルディアに、店長が本日4度目の電気ショックを打ち込んで気絶させた。電撃魔法って便利。

 にしても……いったいなにが起きたってんだ?

 店長があそこまで焦ることなんてそうそうない……え?



「……ナンダアリャ(なんだありゃ)

 


 

 ゴルディアが魔法を発動させた場所を見て、思わず絶句。

 いったいなにを創り出したのかと思ったら……







『いつまで身勝手を続ける気だ』

『次はいつ会えますか』

『将来は放蕩を繰り返すろくでなしにでもなるつもりか』

『お前はやればできる』

『まぁ! さすがは領主様の御子息ですわ!』

『ゴルディア!! また勉強を怠り抜け出しおったなぁ!?』

『ざまぁねぇなぁ! 魔法もロクに使えない落ちこぼれがよぉ!』

『うそつき』





 それは、名状しがたいカタマリ。

 サイコロの煮凝りとでもいえばいいのか、無機質な立方体がグチャグチャに重なり詰み上がっているビルのような、奇妙な構造物に無数の有機的な口がビッシリとついていて、それぞれ要領を得ない言葉を撒き散らし続けている。



 ……暴走した結果とはいえ、いったいどんな精神構造してたらこんなもんを産み出せるんだ……?



 お読みいただきありがとうございます。

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