加速魔法の真髄
子爵邸へ到着後、お茶しながら義母上との顔合わせも済ませたのでいよいよ本題に入ることに。
……お茶会の際、小さな子供たちの来訪に無茶苦茶テンション上がった義母上に慄きながら4人が茶を嗜む様子は、見ていてちょっといたたまれなかったな。
子供好きだけど二十歳のオトザに対してだけは塩対応する、なんてことがなくてよかった。
でも気のせいかマールを見る目が少し変だったような……いや、まあいいや。
さて、本題だがまず実戦試験の対策を実践するために子爵邸の訓練場に集合。
学園の訓練場に比べると規模は小さいが、他人の目に触れることがないので都合がいい。
「なにすんのか知らねぇけど、わざわざコソコソこんなところでやる必要があんのかよ? 学園じゃダメなのか?」
「ダメだっつってんだろーが。理由はやってみりゃすぐに分かるさ」
いい加減しつけーなゴルディア君も。
いや、焦らしてる俺も人のこと言えた義理じゃねぇけど。
「じゃあ店長、これからこいつらの回路を開いていくんで補助ヨロシクー」
「……別にいいけどな、属性によっちゃ大事故に繋がりかねねぇぞ。大丈夫か?」
「リーリャの火魔法がちょっと危なそうだが、店長なら防げるだろ」
「油断すんなよ。ユーリの時はかなり危なかったし、同じようなことにならねぇように注意しな」
これより店長の協力の元、試験対策の準備を開始する。
口頭で注意しちゃいるが、目が笑っているぞ店長。
有望な若者たちが持つ魔法の才能を見られることに内心ウキウキだなこりゃ。
「試験対策の第1段階だが、まずはお前たちの魔法回路を解放する」
「回路の解放ぉ? んなもん6歳のころとっくに済ませてるし、そうでなけりゃ魔法なんか使えねぇだろ」
「追加の解放だよ。一回だけ回路を開いて後は自力で鍛えるのが一般的だが、追加で複数回開いて潜在能力を引き出す場合もあるんだよ」
「つっても、魔法を使うようになってから何年も経つし、開いてない回路なんてもうほとんどねぇだろ。あとは地道に基礎錬や学習で鍛えていくもんじゃねぇのか?」
「いーや、分からんぞ。もしかしたらとんでもねぇ力が眠ってるかもしれねぇ。俺自身がそうだったからな」
実際、俺の魔法回路を開いたやつは下っ端のヘボ魔術師で、最低限の回路しか開けなかった。
ラインハルトが初めて魔法を使う際、まともに発動できなかったのはそもそも細かい制御を利かせるための回路が開いてなかったのもあったかもしれない。
店長が回路を開き直してくれたからこそ、俺も一端の魔法使いになれたわけだし。
いまだにうだうだ言ってるゴルディア君をあしらいつつ、さっさと取り掛かることにした。
全員納得いってない様子だが、一人目の成果を見れば誰でもその効果を理解できるだろう。
「まずはリーリャからだ。他のメンバーは下がってろ、危ないぞ」
「……本当に大丈夫なんでしょうね?」
「大丈夫だって。リーリャにはさほど危険はない……お前が指示にないことやらかしたらヤバいけどな」
「やっぱり危ないんじゃないのよ!」
「心配すんな、事故防止のためにこの店長が居るんだからな。さて、それじゃあ始めるぞー。ほら、手を出してくれ」
「? 手?」
「ああ。まずは回路の末端から属性器官、そして魔臓炉まで俺の魔法で『加速』する」
リーリャの手を握り、『加速』属性の魔力を回路に流し込んでいく。
大筋の回路だけに流す雑な処置だが、これで充分だ。
つーか、下手に細かく流すとかえって危険だし。
「よし、準備完了。さてリーリャ、こっからが本番だ。お前が使える一番弱い魔法を使ってみてくれ」
「一番弱い魔法? 小さな火種を出す魔法の『イグニッション』とか?」
「それでいい。間違っても強い魔法は使うなよ? いやホントにマジで。……前に一度やらかしたことがあったけど、危うく死ぬところだったからな。俺らが」
「あん時ゃ冗談抜きで凍死するかと思ったね。今となっちゃ懐かしいがなハハハ」
「笑いごとで済む話なのそれ!? どこが大丈夫なのよ!!」
「ちゃんと弱い魔法を使ってくれるなら問題ねぇよ。下手こいて俺らを殺したいのなら話は別だがね」
「自分たちの命を人質にして脅すな! ああもう、一番弱い魔法を使えばいいんでしょ!? じゃあいくわよ!」
半ギレでツッコミながら、いざ魔法を発動。
俺が加速している魔法回路の中を、リーリャの魔力が通常の2倍の勢いで流れ駆け巡っていく。
「うっ……?!」
それは、今のリーリャのレベルでは本来あり得ない勢いの奔流。
魔臓炉を圧搾し、まだ未熟でか細い魔法回路の許容量を超えた魔力が、回路を押し拡げながら走り抜け、魔力を阻む魔蓋すら弾き飛ばし、発動弁を無理やり開いて外へと放出された。
「ああぁぁぁあああぁぁああぁぁああ゛っっ!!!」
ヴォゥウゥゥォオオオッッ
と、日常ではまず聞かないような鈍く低い放出音とともに、リーリャの指先から業火が迸り前方へと放たれた。
どう見ても『指先から火種を出す』なんて規模の魔法じゃない。いいとこ火炎放射器のそれだ。
「ほいほい、火炎の防御っと」
それと同時に店長が水魔法を発動し、俺たちの周りを水のバリアーが覆って荒れ狂う炎から守ってくれた。
何度も同じ実験をした甲斐あって、さすがに手慣れてるな。
「ひぃいゃああああああああっっ?!!」
回路を駆け巡る過剰な魔力の流れに、たまらず絶叫を上げるリーリャ。
どういうわけか、回路を加速した状態で魔法を使わせるとみんな叫ぶんだよな。
別に痛いわけではないらしいが、回路の中を大量の魔力が爆速で走っていく感覚に耐え切れず、叫ばずにはいられないんだとかなんとか。
どんな感覚なんだろうな。自分で試せないからいまいち想像がつかん。
てか、眺めてる間にもどんどん炎が放出され続けてて超危ないんですが。
「ほい、ストップ!」
「に゛ゃぁぁああああ゛!!?」
店長がリーリャに弱めの電撃魔法を放ち感電させ、気絶させることで強制的に魔法を中断させた。ひどい。
つっても本当に弱めだから雷による火傷なんかほとんど負ってないし、せいぜい一時的に髪が逆立って面白いことになるくらいの被害で済んでるが。
「お、おい! リーリャ! しっかりしろ!」
気絶したリーリャのほうに、ゴルディア君たちが心配そうに駆け寄ってきた。
急に気が触れたように大声上げながら人間火炎放射器みたいな状態になってるのを見りゃ焦るわな。
「おい、今のはなんだ!? なぜリーリャがあんなことに!?」
「な、なにが起きたんだ……? 急にリーリャの魔法が暴走したように見えたんだが……」
「だ、大丈夫なんですか……!?」
「あー、心配はいらねぇぞ。さっきのは回路の解放と拡張する時の副作用で、例えるなら無理やり全力でダッシュさせたようなもんだ。一時的な負担は大きいが、さほど害はねぇよ」
「回路の解放と、『拡張』……?」
リーリャはそこそこの火魔法の使い手ではあるが、あんな高出力の炎を放出するような魔法は使えなかった。
しかし回路を解放・拡張された今では、当たり前のように行使することができるだろう。
これが『加速』魔法によるチート効果。
魔法を発動する際に、魔法回路へ流れる魔力の勢いを無理やり加速させ、強制的に高出力の魔法を使わせることができる。
加速された魔力の勢いによって、まるで十何年~何十年も魔法を使い続けてきた魔法使いのように回路は拡張されるうえ、さらに回路を塞ぐ魔蓋をも弾き飛ばして文字通りレベルキャップを解放できるという反則ぶり。
……まあ要するに、加速魔法を使えば誰でもお手軽に魔法使いとしてレベルアップできてしまうのだ。
リーリャが目を覚ました時には、別次元の魔法使いへと変貌を遂げていることだろう。
俺は他人をイチから魔法を使えるようにできる『魔術師』にはなれなかったが、後から追加で回路を解放する『魔術師補佐』としての適性はもはやバグレベルだった。
学園で実践できない理由は、よく分かってもらえたことだろう。
どんな凡夫であろうとも高位の魔法使いへと変えられる、なんてことが公になったらどんなことになるのかは想像に難くない。
俺という存在の取り合いになるくらいならまだマシだが、欲を出した魔法協会によって『高位の魔法使いを生み出し続けるだけの機械』として生き続けるように、精神魔法によって洗脳されるかもしれない。
最悪は魔法使いの界隈全体に及ぼす影響を危惧されて暗殺、なんてことにもなりうる。
ぶっちゃけこいつら4人にこの処置を施すだけでもかなりリスクが高い。
うっかり口を滑らせようもんなら、それでアウト。
家長の許可なく貴族の令嬢や令息相手に契約魔法は使えないし、どうにか固く口を閉ざすように言い聞かせるしかない。……大丈夫かな。
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「今ごろはあの子たちの回路を解放してるころかな。いやぁ、頼りになりそうなお友達ができて嬉しいなぁんふふ」
「大丈夫でしょうか……? 万が一、御同輩の方々に怪我でもされたら……」
「大丈夫だって。私の回路を解放した時も、全然平気だったでしょ?」
「ゼリアーヌ様とライン様は危うく凍死するところでしたが?」
「……ま、まあ、今はゼリアの防御魔法も精度が上がってるし、そうそう大怪我したりはしないでしょ。それよりルキナ、ちょーっといいかな?」
「どうかされましたか?」
「ラインのお友達の中に、気になる子がいてね。ちょっとその子について調べるように暗部へ指示を出して」
「かしこまりました」
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