帰省途中の駄弁り合い
週末の放課後。
マオルヴォル家専用馬車に全員を乗せ、いざ出発。
学園からある程度離れるまではゆっくりゆっくり運行してもらう。
人通りが少なくなったら、高速化魔法を使うとしようか。
「学園からマオルヴォル家までどのくらいかかるんだ?」
「大体5~6時間ってとこじゃない? 割と近いけど、行き帰りの往復だけで半日潰れるのは痛いわね」
「どっこい、俺が乗ってるのなら話は別だったりするんだな」
「え、どういうことだ?」
「まあ見てな」
退屈そうに窓から外を眺める一行へ、まるで手品でも見せるように気取りつつ魔法発動の準備。
高速化魔法 出力『5倍速』
対象 『馬車・馬・御者』
接触維持によるマニュアル操作
発動
「え、なんか急に速くなってないか……っ!?」
高速化魔法の影響で、のんびり走っていた馬車が急に国道を走る自動車の如く速くなった。
「うわぁぁあああ!!?」
「ひいぃいい!?」
急加速した馬車の速さにゴルディアたちが悲鳴を上げる。
店長の時もそうだったが、やっぱ馬車がここまで速く走るのは相当怖いみたいだな。
自動車の速さを知ってる俺からすりゃこれでも少し物足りないが。
「待て待て! 待ってくれ! 速い! 速すぎる!!」
「ちょ、ちょっと! いきなりどうしたのよ!? まさかこんな速さのまま走りっぱなしで行くの!?」
「そうだぞー。この速さなら……まあ1時間ちょっとありゃ着くだろ」
「いやどう考えても馬がもたねぇだろ! すぐにぶっ倒れちまうぞ!?」
「大丈夫だってば。俺が『高速化』で速くしてるだけだからな」
「は? 高速化? ……まさか、コレ魔法か?」
「ああ、馬車を高速化魔法で5倍速にしてる。馬や御者からすりゃフツーの速さで走ってるだけだ」
「高速化って……自分自身にしか使えない魔法じゃないのかよ?」
「俺は突然変異っぽくてな。自分には使えない代わりに自分以外を高速化できるんだよ」
そう答えると、リーリャがバケモノでも見るような目で睨みながら顔を顰めた。
なんつー顔だ、失敬な。
「……この魔法、相当ヤバくない? 要は他人に使えば高速化魔法使いを増やせますって言ってるようなようなものじゃないのよ。しかも元々使える魔法や技能も据え置きなんでしょ?」
「ヤバいぞ。多分、俺が特待生に選ばれたのも単に成績が良かったからってだけじゃなくて、この魔法も評価に含まれてるからだろうな」
「しかも5倍速って言ってたが、高速化魔法は普通2~3倍程度が限度だって話だぞ。出力も段違いじゃないか」
「本気出せばもう少し早くできるぞ」
「マジか」
「マジマジ。あんまり速くしすぎると事故の元だから抑えてるけどな」
「もう充分速いよぉ危ないよぉ怖いよぉぉ……!」
半泣きで呟くマールに苦笑いしつつ、しばらく雑談は続いた。
こうして同級生からラインハルトの魔法を高く評価されると、自分のことのように嬉しくなる。いや実際に半分自分のことみたいなもんだが。
「それにしても、本当に大丈夫なんだろうな? 多少のリスクは覚悟の上だが、それ以上になんの成果も上げられずに終わるほうが嫌なんだが」
「心配すんなって。試験を見る限りじゃ、植物魔法の伸びしろは相当デカいと思うぞ。まず大丈夫だ」
「そ、そうか……実戦試験で赤点をとって母上に殺されずに済むのなら、それでいいのだが」
「そっちの家の夫人は相当な女傑みてぇだな」
「女傑なんてもんじゃない、あれは母親の形をした鬼だ。私もアニザも何度診療所送りにされたか分からん。今度の試験の結果次第じゃ、比喩じゃなくて本当に殺されるかもしれん……」
「そ、そこまで深刻に悩むくらい怖いんですか……」
「う、ううぅ……もうこめかみに膝蹴りを喰らうのは嫌だぁぁ……!!」
「落ち着け」
トラウマ想起して頭を抱えるオトザ君。ラインハルトとはまた違った形で親からDVを受けている模様。
はたから聞いてる分には笑える話だが、本人的にはマジで深刻そう。生きろ。
「大変だなぁお前は。オレは親父に文句言われず自由に遊べるようになりゃそれでいいんだけどな!」
「自堕落もほどほどにしておけよ。親っていうのはいつ我慢の限界がくるか分からんものだからな。いや本当に冗談抜きで」
「お前に言われると重いなぁ……。一応、定期的にガス抜きとして雷落とされながら怒鳴られてるけど、それ以上にキレられたらどうなるか分かんねぇもんなぁ」
「正しく叱ってくれる親を持つだけでも幸せだと思えよ。世の中にゃ自分の子供を人間扱いすらしないロクでもない親だっているんだからな」
「そういうラインの義母上はどのような方なんだ? やはり帰り際にとりあえず一発ラリアットをかましてくるような感じか?」
「お前んトコと一緒にすんな。義母上はそういう直接的な暴力は基本しないしされたこともねぇよ。無類の子供好きだし」
「その『子供を人間扱いしない親』っていうのは、アンタの本当の親だったりする?」
「さてね」
「アンタ、ホントは記憶喪失なんかじゃなくて、親から受けた仕打ちを覚えてるんじゃないの?」
「知らねーな。前にも言ったが、俺の親は義母上だけだ。血の繋がりのある他人のことなんざどーでもいいよ」
「……あっそ」
俺のテキトーな返事に不機嫌そうな顔をするリーリャちゃん。
中々鋭いじゃないの。ちょくちょく的を得た指摘をしてくるのは観察力をよく磨いている証拠だな。
……あるいは、近しい者たちの中から敵味方を見極めるために磨かざるを得なかったのか。
「それじゃあ今度はリーリャの番だ。お前のほうはどんな家なんだ?」
「クライン辺境伯って言ってたが、どのへんの地方の領主なんだっけ?」
「……東ザイドル帝国の隣よ。いつ攻め滅ぼされてもおかしくない最前線のド田舎の辺境がウチの家ってわけ」
「え゛っ……!?」
「ひ、東ザイドルって、帝国とは名ばかりのあの蛮族侵略者どもの国か? その隣って、本当に……?」
「そうそう。まったく、はた迷惑な連中よ。今はどうにかお父様たちが交渉しながら防衛に徹してるけど、本腰を入れて攻めてこられたらまず真っ先にうちの領地が奪われるでしょうね」
「まさか、魔法学園に通うようになったのは、そいつらを追っ払えるくらい強い魔法を覚えるためとか?」
「冗談おっしゃい。いくら鍛えたところで個人の魔法なんか国の軍隊相手に敵うわけないでしょ。私は……私の家を守ってくれるような、家同士の繋がりがほしいのよ」
リーリャの実家『クライン辺境伯家』は、脳筋蛮族侵略国家こと『東ザイドル帝国』の隣に位置している領地を保有している。
その蛮族国家だが、近年こちらの王国に喧嘩売るような発言をたびたび発信してたびたびニュースになっているのが耳に入ってきてたりする。
いざその蛮族どもが攻め込んできた時に、クライン辺境伯家の戦力だけではすぐに領地を占領されてしまうだろう。
クライン領が占領されているうちに王国側も防衛戦力の編成はできるだろうが、その時にはクライン家は滅亡していてもおかしくない。
「それでわざわざ魔法学園に? 家同士の繋がりがほしいなら、もっと社交重視の学園にでも通えばよかったんじゃ……?」
「……見てれば分かるでしょ。私、愛想が悪いのよ。最初の挨拶だって、どう話せばいいのか分かんなくて、あんなぶっきらぼうな感じにしかできなかったの。……感じ悪かったでしょ」
「見た目結構可愛いから、クールだなぁとは思ったけれどさほど悪い印象はなかったぜ」
「結構は余計よ。田舎出身の私には都会の貴族令嬢らしい習い事や趣味もイマイチよく分からないけれど、魔法っていう共通の話題があれば仲が進展できるかもしれないし、そこから大きな家との繋がりを持てるんじゃないかって思ったんだけど……特待生のラインは大怪我したせいでテスト0点だったし、この班の中で一番格式高い侯爵家のアンタはこの有様だし……」
「あー……」
「この有様ってなに!? オレってそこまで失望されてるの!?」
全員から同情と納得の混じった視線を向けられ、狼狽しながらツッコむゴルディア君。
リーリャもここまで洗いざらい包み隠さず言うあたり、半ばヤケクソになってきているのかもしれないな。
……てか、このメンツ相手に繋がりを持ったとしても、大して防衛に役立ちそうにないからかもしれんが。
「お父様とお母様はまだ大丈夫、って言っているけれど、本当はいつまでこの状況がもつか分かったもんじゃないことくらいは察しがついてるわ。そして、この状況を動かせるのは私くらいしかいないから、こうやって足掻いてるってワケ」
「た、大変な事情があるのですね……それでも、諦めずにどうにかしようと、頑張ってて、す、すごいです……」
「あなたはどうなのよ、マール。魔法学園で平民の身じゃ肩身が狭いでしょうに、そんなに魔法を学びたかったの? それとも、学ばざるを得ない事情でも?」
「そ、それは……」
『ミナサマオマタセイタシマシタトウチャクデスオツカレサマデシタ』
リーリャからの質問にマールが答えようとしたところで、馬車が停まった。
どうやら子爵家へ到着したようだ。
御者が俺たちに向かってなにか喋っていたが、高速化の影響で滅茶苦茶早く甲高い声になっててなに言ってんのか全然分からんかったな。
「え、なに今のキュルキュルって変な音は……?」
「ああ、着いたな。降りるぞーお疲れー」
「え、もう着いたのか!? 早すぎだろ!」
驚いた様子で喚くゴルディア君を適当にあしらいつつ、馬車から降りる準備。
「……ほっ……」
その際に、安心したような様子で溜息を吐くマールの姿がやけに印象に残った。
どうやらまだ自分自身のことを話すのには抵抗があるみたいだな。
この子はこの子で面倒そうな事情を抱えているのかもしれない。
……ああもう、ラインの復讐だけでも手いっぱいだってのに。
どいつもこいつも負けず劣らず厄介な事情抱えやがって。
どのみちこいつらの力を借りなきゃお話にならんし、力になれるのならついでにどうにかする算段も考えておこう。
さて、子爵邸へ無事着いたことだし、念のため全員へ忠告しておこう。
「みんな、さっきも言ったが義母上は無類の子供好きでな。おかしなテンションで接してくることがあるかもしれないが深く考えずテキトーに流してく―――」
「ラ゛イ゛ぃぃぃいいいンッッ!!! お゛か゛え゛り゛ぃいいいぁぁぁぁああああああ゛!!!」
……忠告の途中で、義母上が正門を蹴破りすさまじい勢いで俺に抱き着いてきおった。
ちょーっと予想よりも動きが早かったな。てかうるせぇ。号泣しすぎだろ。
いきなり絶叫しながら出てきた義母上に、4人ともドン引きしてるし。
「ライン! 腕、折られたんですってね! 痛いでしょ!? ルキナ! すぐに治療ポーション持ってきて!! 早く!!」
「落ち着いてください義母上。気持ちは嬉しいのですが、まずは同級生への挨拶をしていただきたいのですが」
俺の骨折した腕に気を取られて完全に他の4人が目に入っていない模様。
来客無視して身内の心配ばかりする義母上に、ゴルディア君たちも思わず苦笑い。
「……た、大切に思われてるみたいで羨ましい限りだな、うん」
「気ぃ使わなくていいぞオトザ」
そんな顔引き攣らせたまま言われても全然羨ましそうじゃねぇぞ。
……とりあえず茶でも一服しばいてから、本題に入るとしますかね。
お読みいただきありがとうございます。




