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胡散臭い与太話





「どういうことだよ!? メリーナリス様がオレたちの妨害してたって!?」


「心当たりがあるだろ? 試合中に『体が重い』って感じた瞬間が何度もあったはずだ」



 要所要所で動きが鈍ったり体勢が崩れたりしていたが、あれは試験の緊張でパフォーマンスが鈍ったとかそういう類のものじゃない。

 どう見ても外的要因によるなにかが妨害しているとしか思えなかった。



「た、確かに、相手の魔法を避けようとした時とか、なんか、体がズシッて重くなった気が……」


「……それが、メリーナリス様の仕業だと?」


「ああ。メリーナの魔法は『星』属性、重力を操る希少な属性だ」


「ほ、『星』ぃ? んな属性、聞いたことねぇぞ?」


「ものすごくレアだからな。世界中探しても片手で数えるくらいしか例のない、マイナーかつ強力な魔法なんだよ」



 メリーナの星魔法には、公爵家に居たころのラインハルトも散々苦しめられてきたもんだ。

 飢え細ってガリガリの軽い体がまるで銅像のように重くなって、自重にすら耐え切れず体中の骨が軋み悲鳴を上げるような仕打ちを何度も何度も何度も受けていた。

 ……いや、ホントよく生きてたなラインハルト君……。



「あ、あの……じゅ、重力? って、なんですか……?」



 およ? 重力を知らぬとな?

 子爵家じゃ普通に学習範囲に入っていたが、地球ほど一般的な概念じゃないのかな。

 


「重力ってのは、星が俺たちを引っ張る力。身近な例を挙げると、熟したリンゴが木の枝から地面に落ちるのも重力の作用だ。それで、星魔法はその重力の強さや向きを操作できる。例えば、試合の最中に一瞬だけお前らの体を強く引っ張ったりとか、な」


「っ……気付いてたのなら、どうしてそれを言わなかったのよ! アンタ、私たちが妨害されてたのを分かってたのに、黙ってのんびり見物してたっていうの!?」


「星魔法は火や水みたいに分かりやすい視覚効果エフェクトは出ない。指摘しようにも、一瞬だけの重力操作じゃそれを証明する術がなかった。現に、妨害を受けていたお前ら自身ですら原因が分からなかっただろ?」


「うっ……」



 星魔法はゲームや漫画のように、いかにも『ズシンッ』って感じのエフェクトが出るような魔法じゃない。

 地味どころか無音無色透明無味無臭、しかし効果は絶大という厄介ぶりである。



「多少魔法の扱いが上達しても、次の実戦試験でも同じことをされたらそれで終わりだ。フツーに鍛錬や学習するだけじゃ今回の二の舞になるだけだろうな」


「……じゃあどうすればいいのよ!? 努力するだけ全部無駄だって言いたいの!?」



 ドンッ と机を強く叩き、睨みつけながらリーリャが啖呵を切った。

 正論を言われて逆ギレした……というわけでもなさそうだ。



「私は、私は諦めないわよ! 目をつけてきたのが公爵家だろうがなんだろうが、結果も出せないまま諦めるわけにはいかないのよ!!」


「お、オレも……いい成績とって、親父に認めてもらわなきゃヤバい。次の試験でボロ点とって、またサボってるとか思われたりしたら、下手すりゃ勘当されちまう」


「私も似たようなもんだ。下手をせずとも母上に殺される。いや冗談じゃなく本当に」


「わ、私も……このまま、終わりたくなんかないです。た、たとえどんなことをしても、次の試験で結果を残したいです……!」



 ……強いねぇ。

 ()()()()()()()()のあるリーリャだけでなく、気弱そうなマールをも含めた全員が奮起して状況の打開を望んでいる。

 

 どんなことをしても、という言質はとった。

 各々のっぴきならない事情がある状況でここまで追い詰められれば、藁にも縋る思いで俺の話を呑むことだろう。

 


「素晴らしい、その意気だ。……では、そんな君たちに俺から次の実戦試験に向けた提案があるんだが、聞くか?」


「うわ、怪しい! なんつー胡散臭い笑い顔してやがんだよお前!?」


「というか、さっきからアンタ口調がおかしくない?」


「初日はあんなに丁寧な言葉遣いだったのに、素はそんな感じなんだな……」


「こ、怖いです……」



 繕うのをやめた素の口調に、顔を引き攣らせながらこちらを警戒した様子で見る4人。

 コワクナイヨーアヤシクナイヨーホントホントー。



「話に乗る気があるなら、週末に授業が終わった後に俺の家へ招待しよう。そのまま二連休は泊まり込みになるが、了承してほしい」


「ラインの家……マオルヴォル子爵家へか?」


「ああ。学校でするにはちと避けたい話なんでな」


「……怪しいわ。まさか、犯罪に巻き込まれたりするんじゃないでしょうね」


「しない。信用できないってんなら無理にとは言わないが、これだけは言える」



 もったいつけて一拍置いた後、なるべく優し気な笑顔を意識しつつ口を開いた。



「保障しよう。休み明けのお前らは、今とは別次元の魔法使いになっていると。どうだ、乗るか?」



 俺の問いかけに、各々が考え込むように顔を伏せたり顎に手を当てたりしながらしばし黙り込んだ。

 10秒くらい経ったところで、ゴルディアが沈黙を破った。



「……正直言って不安ではあるけどな。乗ってやるよ、お前の胡散臭い与太話によぉ」


「ほ、他に手もないので、の、乗ります……!」



 覚悟を決めた様子でゴルディアとマールが陥落もとい合意。

 オトザとリーリャも多少疑わしそうにしつつ、他にとれる選択肢がないのでやむを得ず乗らざるを得ない、といった様子だ。



「ホントに大丈夫なんでしょうね……? 危なそうな薬を飲めとかヤバそうな魔道具の実験台になれとか言われても絶対に嫌よ」


「薬なんか使わねぇよ。魔道具の類も一切いらん。ただ俺とお前らが居ればいい」


「何をするつもりか知らんがそれで本当に上手くいくのか? 何をするつもりなのか知らないが、この場でお前の策を実行することはできないのか?」


「ぶっちゃけできなくはない、がこの場じゃ色々とまずい。準備ができてる状況じゃなけりゃ大事故に繋がりかねんからな」


「やっぱりなんか危ないことしようとしてるんじゃないの!」


「正直言って、多少のリスクはある。だがそれを乗り越えた末のリターンはデカいぞ。ちゃんと準備さえしてりゃ命の危険はないさ。ほぼな」


「『ほぼ』……?」



 この世に絶対大丈夫なんてこたぁ滅多にない。

 ほんのわずかでも危険性を秘めているのなら、それを伝えないのは不誠実だ。

 つーか、ぶっちゃけ仮になんかあって後から文句言われた時の反論材料をあらかじめ仕込んでるだけだがな。『ほぼっつってただろ』って。


 なんやかんや説得の甲斐あって、ひとまず全員を週末に子爵邸へ迎える手筈が整った。

 義母上たちには昨日の時点で通信魔具越しに下話をしておいたし、今頃は準備を整えてくれていることだろう。



 この4人の魔法は現時点でも決して悪くない腕前だ。

 俺が処置をしたらどこまで化けるか見ものだな。


 お読みいただきありがとうございます。

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