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ドンケツ組




 学園生活3日目。

 そう、実技試験の次の日である。


 俺に襲いかかってきたマスクバカコンビは、重大な校則違反とみなされ即日退学処分になった。

 二人が貴族だったなら家からの抗議やらなんやらで拗れたかもしれないが、平民の身分の抗議なんざたかが知れてる。


 学生同士の争いの結果ではあるが、貴族に平民が悪意を持って重傷を負わせた罪は軽くない。

 まだ未成年とはいえ、しばらく牢屋にぶち込まれることになるだろう。

 ……本来なら、の話だが。




 そんなこんなで襲撃事件についてはひとまずケリがついた。

 だが、負った傷による被害は身体的なものに留まる話ではなかった。




「見ろよ、あいつらが例のドンケツ組だぞ」


「試験で100点中ひと桁のやつらなんか初めて見たぞ」


「ぷぷぷ、特待生とか持ち上げられてたのに、とんだ落ちこぼれじゃねーかバーカ」



 俺の組こと軍事部門第5等級E組の状況だが、最悪のさらに下。

 実技試験の総合評価は100点中8点。

 俺は骨折のせいで試験に参加できなかったので0点で、他は全員2点ずつ。

 学園始まって以来の劣等組のレッテルを貼られてしまっているのが現状である。



「……」


「……」


「……あ、あぅ……」



 昨日まであんだけ元気だったゴルディア君を含め、皆死んだような顔で上の空。

 マールちゃんに至っては沈黙に耐えかね涙目で呻いている。


 いやー酷かった。

 親善交流を兼ねた対人試合だってのに、まったく相手になってなかったな。







 ~~~~~




 


 試合は5人の組それぞれで1対1にて行われる形式だった。

 最初に先輩方の1組と試合をして、その後に同等級の組と総当たりをするというもの。

 なぜ先輩たちの組を始めに相手にするかというと、あらかじめ洗練された相手との組手を経験しておいたほうがいい刺激になるからだとか。



「そこーっ!! 遅いぞ、何をやっていたぁ!!」


「す、すみません、トイレが長引いて……」


「制裁!!」


「ぼへぁっ?!」


「よし、許す! ではさっさと定位置に着け!」

 

「りょ、了解……!」


「なにしてるのよ……」



 薄緑の髪をオールバックにした青年が少し遅刻してきたのに対し、実技試験担当のハゲ顧問がビンタを食らわせ制裁し、何事もなかったかのように試験を進行させた。

 ペナルティがビンタ一発で済むのは、はたして優しいのか厳しいのか。マジで痛そう。


 珍しく毒姉(メリーナ)も頭抱えて呆れとるし。

 同じ腕章をつけてるところを見るに、遅刻した奴、同じ組なのね。



 そのまま遅刻した青年を含めた俺以外の全員が対戦相手のチームと握手を交わし、まず先方はオトザ君と遅刻青年の対戦。

 双方、親善試合とは思えないほど剣呑な雰囲気で睨み合っている。



「やれやれ。相変わらず腹と頭の具合が悪そうだな、アニザ」


「やかましい! たまたま昨日食った激辛肉煮込みが当たっただけだ! 貴様こそ今のうちに医者を呼んでおくんだなオトザ!」


「試験の前日にそんなもん食うなよ……」



 アニザ? え、オトザ君の知り合い……てか、もしかして兄弟か?

 よく見たら髪の色と顔つきがそっくりだ。髪型一つでここまで印象が変わるもんなんだな。




「では、試合開始!」




「ふんっ!」



 試合が開始すると同時に、オトザ君が掌からなにかを射出し地面に撃ち込んだのが見えた。

 一瞬でよく見えなかったが……木の実のような種のような、小指の先ほどの小さな物体だった。



「植物魔法か! 何を植えた!?」


「『弾丸栗』の実だ! 成長し、実った栗の実の弾丸がお前に襲いかかってくるぞ!」


「な、何ィ!? あんな危険植物を!? 貴様、コレが試験であるということを忘れたか!」


「ふははは! もう遅い! 5分後には芽を出し、1時間後にはアニザへ向けて数十発もの栗の実が放たれることだろう!」



 ……。



「……それまでどうやって戦うつもりだ?」


「打つ手は、ない」


「アホかお前は!」


「ふふふ、自分でもそう思う ゴハァッ!!」



 ……アニザ君がオトザ君の腹に土でできた弾丸の魔法を直撃させて、試合終了。

 ちなみに弾丸栗の芽が出たのは後の試合全部が終わったころだった。

 ……ビックリするくらい役に立たんかったな、植物魔法。



 その後もオトザ君ほど酷くはないが、全員パッとしない試合が続き、惨敗。

 先輩方相手はおろか、同等級の組相手にも後れを取る始末。




「弱すぎるぞ。立派なのは爵位だけか侯爵家令息殿よ」


「ぐっ……!」


「悔しければさっさと這い上がってこい。士爵の家如きにデカい面させてたまるかくらいの矜持を持て雑魚助が」


「ふふ……ズートゥ、あんまり虐めちゃ可哀そうよ。ほどほどにしておきなさい」


「……御意に」



 ゴルディア君に圧勝し罵倒を浴びせ、毒姉に諫められているのはズートゥ・コロンブス士爵令息。

 褐色の肌に金髪で、小太りだが動きが俊敏の動けるデブだ。


 あの体型を見るに、()()()()()()()調()()()()()()




 俺の見立てじゃ、決してゴルディア君たちは弱くない。

 先輩相手ならまだしも、少なくとも同世代の連中と比べて大きく劣っているようには思えなかった。




「グッ……?! なんだ、体が……?」


「お、重っ……!? ぐぇっ!!」




 ただ、試合最中の要所で頻繁に動きが鈍り、その隙にやられるパターンが多く見られた。

 ()()()()()()()()、毒姉め。


 想定内だ。


 今回の試験で妨害してくることも、ボロボロの結果でドンケツになることも全て。

 ……だが、やはりムカつくもんはムカつくわ。




「あらあら……散々な結果だけれど、どうか落ち込まないで。3ヶ月後に実戦試験があるのだから、そこで平均の倍ほどの点を取れれば巻き返せるわよ。うふふ、頑張ってねぇ」




 俺へ向けて優し気に嗤いながら去っていく毒姉の姿を、網膜に焼き付けた。

 ……今日、お前は大きな過ちを犯したぞ、メリーナ。

 ラインハルトの復讐に加え、この分の借りも必ず返す。覚悟しろ。




「そこぉーっ!! 貴様、裏から魔法で妨害をしおったな!! そんな無様な工作で我が目を誤魔化せると思うなぁ!!」


「げ! ば、バレた……!」



 とかなんとか復讐の誓いをより強くしているところに、後ろのほうからハゲ顧問の怒号が響いた。

 どうやら他の試合の途中で後ろに控えていた生徒が、相手の組の生徒の試合をこっそり魔法で妨害していたようだ。


 よく見ると怒られてる生徒の指先から細い糸のようなものが伸びて、相手の組の生徒の体に絡みついて動きを阻害している。

 蜘蛛の糸のように細いが目敏く見抜いていたようで、指摘するハゲ顧問の顔は青筋を浮かべ大口を開けて怒鳴っている。



「妨害行為により、貴様はマイナス10点! さらに罰として今日の授業が終わり次第、反省室にて24時間飲食禁止で過ごすこととする!」


「い、飲食禁止ぃ!? 嘘だろ、死んじまうって!」


「丸一日飲まず食わずで過ごしたくらいでは死なぁーん!! 例え貴族や王族であろうとも同様の罰を受けてもらう! もしも罰から逃れようとしようものならば即刻退学になるからそう思え!!」



 また地味にきついペナルティだな。

 毒姉の妨害が指摘されなかったのは単に気付かれなかったからか、それとも気付きにくく微妙な魔法の使い方だったから『無様な工作』ではないと判定されたからか?

 どちらにせよ、この場で俺が指摘したところでしらを切られれば簡単に誤魔化されてしまうので毒姉を反省室送りにすることはできん。残念。




「くそっ……! せめてあと1時間あれば……!」


「んな時間あるわけないでしょ。バカなの? ……ああもう、いつものことだけれど力がないって言うのは歯痒いもんだわ」


「どうすんだよ……親父に殺される……」


「あうぅ……」




 ……嗤いながら去っていく毒姉の姿よりも、絶望した表情の4人の痛々しい顔が、かつてのラインにダブって見えて目に焼き付くようだった。









 ~~~~~









 そんな具合に、実技試験のほうはゴミみたいな結果で終了。

 次の実戦試験でも無様を晒そうもんならば、特待生といえども退学の危機だ。


 ……ああ、なんて―――




「……くくくっ」


「ら、ライン? どうしたんだ……?」




 無意識だった。

 不意に漏れ出た含み笑いに、4人が怪訝そうな顔で俺を睨むように見た。



「ああ、すまない。悪気はないんだが、あんまりにも……ふふふっ……」




 あんまりにも


 なんて、都合のいい状況だろうか。




「……気でも触れた? 言っとくけど、泣いても笑っても私たちは次の試験で結果を出さなきゃならないの。今やるべきことは自嘲することでも皮肉を言うことでもなくて、試験に向けてどう対策を取るか考えることよ」


「正解だ、リーリャ。それで、どうする?」


「どうする、って……」


「言っとくが、仮にこの場の全員が寝る間も惜しんで死ぬ気で努力して試験に臨んだところで、芳しい結果を残せる可能性は低いと思うぞ」


「そ、それは……やってみなきゃ分かんないでしょう?」


「いーや、無理だね。俺は……いや、俺たちはメリーナリス・レオポルドに目ぇ付けられてるからな。また余計なちょっかい出されりゃ、それで努力は水の泡さ」


「な、なんで私たちがメリーナ様に……? というか、また? どういうことよ!?」


「気が付かなかったのか? お前ら全員、試合の最中にちょくちょくメリーナから魔法による妨害を受けてたんだよ。あんな状態じゃ、まともに試合なんかできるわけねぇだろ?」


「なっ……」


「……んだってぇ!?」





 ありがとうございます、姉上サマ。




 テメェが余計な手出しをしてくれたおかげで、スムーズに話を進められそうだよ。


 お読みいただきありがとうございます。

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