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小手調べ




 毒姉が去った後にすぐ昼食を済ませて、後はフリータイムだ。

 いやぁ美味かった。あのクソ姉のブチギレ顔を想起しながら食う飯は格別だったな。



「すみませーん、特待生のマオルヴォル君ですよね? 少しよろしいですか」



 同僚たちと駄弁りながらさっさと寮へ下校してしまおうとしたところで、高等級の男子に声をかけられた。

 腕章は……第2等級か。こんな上級生がなんの用だ?



「はい、そうですがなにか?」


「特待生の人には個別に面談があるので、1階の面談室まで来てほしいと先生が呼んでいるらしいです」



 んん? んな話聞いてねぇぞ?

 てかそういうのは校内放送かなんかで呼び出すのが普通じゃね?

 ……なーんか不自然だ。きな臭いな。



「すみません、そういうことなので私はここで」


「おう。そんじゃ、また明日な」



 ゴルディア君たちと別れ、面談室へと歩を進めた。





「……近くで待機してろ」


『了解』



 念のため通信魔具で一報を入れた後に、面談室の扉をノック。コンコンコン。





「お入りください」



 ノックの返事を返してきたのは、若い男性の声だった。

 こんなに若そうな先生なんかいたっけ……? オッサンやジイさんばっかだった気がするが。




「失礼します。……?」



 扉を開けて一礼しようとしたが、部屋の中に誰もいない。

 え、どゆこと? さっき返事してきたのは誰だったの?


 ……っ!?




「つっっ!!?」



 ゴッ と鈍い音とともに後頭部に強い衝撃。

 誰かに、後ろから殴られた……!?



「ちっ! ……ぐぁっ!?」



 咄嗟に前へ跳んだが、追撃によってベキリと音を立てて嫌な感触と激痛が左腕に走った。

 ……くそ、油断した! コレ絶対折れたわ! いってぇなクソがぁ!!



「おーおー、ちっせぇ割にいい動きするじゃねぇの。避けれてねぇけど」


「こんなナヨっちぃのがよく特待生なんかになれたもんだ」



 声がしたほうへ振り向くと、扉の影に二人分の影が立っていた。

 魔法学園の制服だが、腕章が外してあるから等級は不明。

 それぞれのアタマには、銀行強盗のような不格好な赤と黒のマスクを被っている。



「っ……失礼ですが、どなたですか? なぜ、このようなご無体を……?」


「はぁ? そんなことも分かんねぇの?」



 丁寧にそう問いかけてやったが、容赦のない不意打ちに軽薄な口ぶりからして、ロクでもない奴らなのは分かっている。

 現に俺の問いかけに対して肩をすくめながら嗤い、バカにしたような態度で返答してきた。



「お前さぁ、元は平民のくせに貴族様の養子だからってだけで調子に乗りすぎなんだよ。なーにが特待生だよ、どんだけ裏金流して見え張ってんだ、あぁ?」


「……は?」


「そんな頭のめでたい特待生ちゃまに、ちょーっと親切にしてあげようと思ってなぁ」



 えぇ……?

 嘘だろ? そんな短絡的な考えした挙句、ホントに行動に移すアホがいるか普通?


 いや、待て。

 なぜ、こいつらは俺が養子だということを知っている……?



 ……!


 ……ああ、なるほどねぇ。




 思った以上に反応が早いじゃないの、姉上(メリーナ)サマよぉ。




「つーわけで、ちょっとばかしお灸を据えてやるよ」


「安心しろよ、殺しゃしねぇ。ただしばらくまともにメシも食えねぇようになるくらいは覚悟しとけや―――」





 ベギョッ




 と、何かが折れたような潰れたような、なんとも名状しがたい音が面談室に響いた。




「え、え? ……あれっ……?」




 得意げに見下ろしながら嘲笑っていた赤いほうのマスク野郎が、ガクンと膝を崩し床に倒れ込んだ。

 何が起きたのか分かっていない様子で、間の抜けた声を漏らしている。




「そっちの足、随分とスリムになったな先輩」


「へ? ……ひっ、ひいぃいい!!?」



 指さしながらそう言うと、それを見た赤マスクが悲鳴を上げた。

 右足の脛あたりが、まるでスプーンですくい取られたプリンのように抉られていたからだ。



 『加速』魔法10倍速 × 『高速化』魔法5倍速

 右手に仕込んでいる分銅に『加速高速化魔法50倍速』を発動 


 目にも留まらない速さで投げて右足にブチ当て、少し骨が見えるくらいに抉り飛ばした。

 ……ちょっと加減を誤ったかな。



「う、うあぁぁぁぁああ……!!! いでぇ、いでぇぇぇえ!! あ、足が……!! チ、血が、ヒ、ヒイィッ……!!」



 足を押さえて蹲る赤マスクの足から血が流れ出ている。

 致命的に太い血管は無事っぽいが、長く放置してたら出血多量で死ぬなありゃ。

 後で早めに止血くらいはしといてやるが、それより……。



「な、なにしやがった……!?」


「……お前もこうなりたいか?」


「……くそっ! 話が違うじゃねぇか!!」



 悪態を吐きながら部屋の外へ逃げていく黒マスク。

 おいおい、相方を見捨てて離脱かい。

 俺が頭でっかちなだけの雑魚チビで、一方的にボコれる相手だとでも思ってたのか?


 逃がすかボケが。






「メディア! 面談室から職員室方向へ黒いマスクの野郎が―――」


『はい、ただいま確保しました』


「……仕事早いな」



 通信魔具であらかじめ近くに待機させておいたメディアに指示を出そうとしたが、既にミッション完了したと返ってきおった。

 黒マスクが逃げた方向へ足を進めると、巨大な水の球が黒マスクの全身を覆って拘束しているのが見えた。



「ご覧の通り、黒いマスクの不審者を捕縛いたしました」


「がぼごぼげごぼぼ……!!」



 水球の中で泡を吹きながら暴れ回る黒マスク。

 脱出しようともがいているが、窒息したのかそのまま気絶して大人しくなった。



「よくやったメディア。グッジョブ」


「恐縮です」



 いやぁ、しかしやっぱえげつないなメディアの水魔法。

 当初は水道の蛇口くらいの機能しかなかったのが、今じゃこの有様。相性上、俺でも勝てん。

 珍しくいい働きだし、たまには労ってやるか。



「後でご褒美だ。希望はあるか?」


「で、では、旦那様が持たせてくださった今期流行りのプリンセスコーデの試着をしていただければ……!」


「やっぱなし」


「そ、そんなぁ~!」



 前言撤回。調子に乗んな駄メイドが。

 てか義母上もなに持たせてんだふざけんなマジで止めろ。





 溺れて気絶したままの黒マスク野郎を面談室へ運び、赤マスクの隣に転がした。

 いまだに悶絶したまま動けないでいるマスク野郎どもの頭を蹴り、叩き起こす。



「ヒギィ!! や、やめで、ぐれぇ……!!」


「ゴホゴホッ、ガハッ……!!」


「答えろ。お前ら、誰の差し金で襲ってきやがった。ただ自分たちがムカついたからってわけじゃねぇだろ?」


「お、オレたちは、メリーナ様に、メリーナリス様に、言われて……!」



 あっさりゲロりやがった。拍子抜けだな。

 にしても、このマスク野郎ども毒姉の刺客にしちゃなんというか雑だ。


 常在戦場が求められる軍事部門とはいえ、こんな問題行動を起こせば退学だけじゃ済まない。

 被害者・加害者で貴族の家同士の問題にまで発展することくらいは分かってるはず。

 毒姉のレオポルド家もタダじゃ済まない。なぜこんな隙を見せるような真似を……?



「マスクを取れ。どこの家のもんだお前ら」


「お、オレたち、平民なんだ。……なんでお前は、お前だけ貴族になってんだって、羨ましくて、それでメリーナ様にそそのかされて……」


「平民……? ……うーわ、そういうことか」



 こいつら捨て駒だ。

 毒姉が俺への嫌がらせに使うだけの、ただの鉄砲玉。


 こいつらが貴族だったならば、被害者のマオルヴォル家と、実行犯のこいつらの家、そして指示を出したレオポルド家の大問題に発展する。

 だが実行犯が平民ならば話は別だ。


 もしもこいつらが自白しても『こんなヤツらのことは知らない』と毒姉がシラを切れば、それでレオポルド公爵家はなんの関係も無くなる。

 ただ平民のこいつらが全ての罪を背負って裁かれて、退学なりなんなりされた後に子爵家が煮るなり焼くなりすればそれで終わり。


 ……クソッタレ。中々狡猾じゃねーの。

 俺もこの腕じゃ明日の実技は無理だ。試験はなしで評価点ももらえないだろう。

 それだけで退学になったりはしないが、3か月後に控えてるメインの実戦試験で一定以上の点を取れなきゃ学園に留まることは難しくなる。


 そこまで考えてこいつらに襲わせたとなると、思った以上に頭が回るようだ。

 ……所詮はガキだと少し舐めていたか。



 面白れぇ。


 考え方によっちゃ、むしろ好都合だ。

 釣りのエサも用意してあるし、だんだんとシナリオの大筋も組み上がってきた。

 せいぜいこの状況を利用して、お前への報復をより派手に彩ってやるよ、姉上サマよぉ……!!






 ~~~~~






 やるじゃない。

 腐ってもレオポルドの血を引いてるだけあるわね。

 でも、片腕を負傷した状態じゃあ明日の試験は受けられないわよねぇ。どうするのかしらぁ。



 3か月後の実戦試験で、ラインを単位に満たない成績にまで貶めて退学させてやるわ。

 そうなれば子爵家からも見捨てられるでしょうし、行く宛てが無くなってどうしようもなくなった時に私が掬ってあげるの。


 一生、私の奴隷として傍に置いてあげる。

 契約魔法を使って自決すら許さず死ぬまでこき使ってやるわ。



 ……それにしても、あのメディアを傍に置いているあたり、記憶がないというのは本当だったのかしら。

 公爵家を解雇された後に子爵家へ拾われたみたいだけれど、まさかまたラインの侍女になってるとは思わなかったわ。

 記憶が残っているのであれば、あれほどひどい仕打ちをしていたメディアを傍に置くなんてありえないし。



 だとしたら、私への当てつけのような言い回しも無意識に行っていたのかしら……。

 ……いいえ、だとしても許さないわ。自分だけ忘れてのうのうと生きていくなんて絶対に許さない。



 遠眼鏡越しに見たメディアの魔法はかなりの腕前だった。

 ラインのついでに、メディアも私の部下として雇い直すのも悪くないかもしれないわね。

 ……少し、カマをかけてみようかしら。

 お読みいただきありがとうございます。

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