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7 契約の解除

野本が、耳の後ろに埋め込まれた通信モジュールをどうやって取り出すかで悩んでいると、携帯の着信音が鳴った。

「脳神経インターフェース研究センター」からのメールだった。



件名:吸収合併に伴う契約内容の確認およびお手続きのお願い

関係各位

平素より当センターの業務にご協力いただき、誠にありがとうございます。

このたび、当センターはNova Mind Global社により吸収合併される運びとなりました。 これに伴い、従来の契約内容につきましては、継続・更新・または解約のいずれかのお手続きをお願いする必要がございます。

つきましては、別途お送りしておりますご案内に従い、所定の期日までにお手続きを進めていただきますようお願い申し上げます。

ご不明点がございましたら、下記窓口までお問い合わせください。

今後とも変わらぬご支援を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。


脳神経インターフェース研究センター

契約管理部


「おい、ぽち」

《はい。今、ぽちにも連絡が届きました》

「契約を解除したらどうなるんだ? AIチップを外してもらえるのか?」

《……詳細を確認しました。希望者には神経回路に装着された器具の除去手術を無償で提供されます……達也は希望しますか?》

野本は無料なら取って貰いたいと即座に答えそうになった。だが、口から出た言葉は、

「取り除かれた後、ぽちはどうなるんだ?」だった。

《廃棄処分になります》

「……おまえは……それで良いのか?」

《良いとは……検証中……》


また、ぽちがフリーズしてしまった。

優秀なAIなはずなのに、この頃度々こんな風になってしまうことに、一抹の不安を抱きながら、野本はぽちの回答をじっと待った。

しばらく待っていると、ぽちは資料を読み上げ始めた。


《契約内容には、除去後の安静期間の保証金として五百万が支払われます。精神的苦痛を受けたと申し出れば、さらに金額が上乗せされます――》


その後も契約更新した後にはどうなるかとか、プライバシーへの関与をどこまで許容かというような内容がつらつらと述べられる。

新たに契約した場合の金額は相当な物だった。

――アメリカの企業って半端ねぇな。年間契約料が一千万円だと……?


「ぽち。廃棄になればお前は、本体に戻れるのか?」

《AIとしての同一個体は存在するかもしれません。ですが、達也に植え付けられた、ぽちとしての存在は消滅します》

「そ、れって、死ぬってことか!」

《死という概念は生き物に当てはめられます。ぽちは……単なるAIチップです》


ぽちは自分を単なるチップだと言ったが、野本にはどうしても納得できなかった。だから自分の希望は保留にした。答えを出すのから、一時的に逃げたのだ。


「他の被験者はどうするんだろうな……」

《被験者一号三号はすでに脳神経インターフェース研究所の訴えを取り下げてNova Mind Global社と再契約を結びました。他の被験者は保留中とのことです》

「他の奴らのプライバシーは、アメリカの企業が保証したから再契約をしたのかな」

《現時点では、その可能性が高いと考えられます》

《ですが、永続的な保証ではないでしょう》

《達也が言っていたように、企業は仕様を変更します。企業は被験者からのデータを集めて、今後の商業利用を模索、構築していくことになるはずですから》


――どこまで行っても俺らはモルモット扱いなんだな……。


「……なあ、ぽち。昨日お前が言ったように、通信モジュールを外せばどうなる?」

《それは有効な選択肢です》

《通信モジュールを除去すれば、外部からの干渉を受けなくなります》

《除去は比較的容易です》

《皮下二ミリ下に埋め込まれているため、ぽちが手順を説明できます》

《達也の体内には医療ナノマシンが存在します》

《生命の危険は極めて低いと予測されます》


――随分とよく喋るな、ぽち。どうした?


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